釣りはじめました

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メバリング編

メバリング編11

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 あらかた、食べ物は食べ尽くした。
 最早、遠慮と言う言葉は無くなり、その腹を存分に満たす。
 計六杯のご飯を平らげ、今は枝豆を捕食するように食べている。
 鶏の唐揚げもだし巻き卵も安定の美味さだった。無くなってしまった皿を眺めながら、少し名残惜しく、そう思った。 
 ヨシさんは何時ものペースで酒を飲んでいるが、島田社長のペースは速く、ヨシさんが途中「何かあったの?」と島田社長に聞いたが、「ただのやけ酒たい!」と島田社長はペースを緩めなかった。そのせいか……。
 「たった二回連続でお持ち帰りせんかったけんて、そぎゃん言わんでよくなかね?」 
 島田社長は完全に酔っている。僕の肩に手を回し、酒臭い息を辺りに撒き散らす。
 何回聞いたか分からない愚痴を同じ回答で返し、枝豆を口に運ぶ。捕食するしかない。
 ……めんどくさ。
 「そうですよね。たった二回連続でお持ち帰り出来なかっただけで、そんなに言われる事はないですよね?」
 「そぎゃんやろ?そぎゃんやろ?奈緒のやつ、これみよがしに言うとばい?ひどかと思わんね?ボウズじゃなかとよ、お持ち帰りがゼロなだけよ??」
 そう言い、島田社長は焼酎をあおる。
 「まあ、自然相手だから、上手くいかない事が多いよね。」
 「そぎゃんやろ~?釣りはそぎゃん上手くいかんとばい?重松んとこのソラがまた良かとば釣ったからって、あんたもソラちゃんば見習わなんね~。とか言わんでよくなか?ヒロ兄ちゃんやヨシおっちゃんはちゃんと釣ったとに、島おっちゃんはボウズだったとよ。ってSNSで言わんでよくなか??」
 僕らが釣りをして帰る時間帯、入れ替わるように重松さん家族は、お正月に買ったエギングタックルを持って、初エギングに行ったらしく、そこでソラちゃんは小さいながらも見事にアオリイカをゲットしたらしい。
 それを奈緒さんは多分、冗談や面白半分で言ったのだろうけど、島田社長……いや、島おっちゃんはそれを真に受けたのだ。
 「ヨシ先生、瀬高先生、魚はどぎゃんやって釣ればよかとですか?」
 「ん~。そうね。まず、落ち着いて釣る。やけにならない。」
 ヨシさんの答えに僕も頷く。
 「俺やヒロがしんちゃんに教える事なんてないよ。自分に自信を持って、普通に釣ってればちゃんと釣れるよ。」
 「そぎゃんやろか?」
 「そうですよ。島田社長、自信を持って下さい。」
 僕達の励ましに島田社長はしばらく考えて言う。
 「そうよね!落ち着いて釣れば、次はちゃんと釣れるばい!」
 そう言いながら、また焼酎をあおり、またしばらくすると、同じ話題へと戻っていく。
 そんな会話がグルングルンと回りまくった打ち上げだった。
 帰ったら、スルメに癒やしてもらおう。そう思った。
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