釣りはじめました

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アジゴ編21

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 テーブルの上には、ヨシさんが買ってきた、マカロニサラダ、冷や奴。島田社長が作った、アラ汁、一つはシーバスの刺身、後一つはシーバスの刺身なんだろうか?少し白みがかった二種類の刺身とおにぎり、アジゴの唐揚げ。定番なのだろうか?弁当や前回の打ち上げにもあった、鶏の唐揚げが鎮座していた。豪華の一言だ。
 まずは、気になる熱々のアラ汁から。味噌仕立てで、ぱっと見、半分になった頭や骨が入っているのでグロテスクである。シーバスのカマや剥いだ皮、も入っているようだ。他の具はネギ、大根、ニンジンが入っている。シーバスから出たのだろうか?アラ汁の表面はにテカテカした脂が浮いていた。
 フーフーと息で冷まして一口すする。魚の臭みもない。骨から良い出汁が出ているのだろうか?普段飲む味噌汁より魚の味と香りが濃くとても美味い!シーバスの身や野菜を食べる。シーバスのカマの部分なんて、脂のりが半端ない。大根も出汁を吸って言うまでもなく美味いしく、ニンジンの甘さとネギのシャキシャキっとした歯応えがアクセントになって僕を虜にする。たまらずにおにぎりを取り、一緒にかっこむ……。アラ汁の濁流に米達は飲み込まる。溺れまいと必死にあがく米達は、ほぼ原型を残したまま胃袋へと流れ込んでいく。米のほのかな甘みと咀嚼されずに残った粒々とした食感が加わり、早くも至福の時の到来である。
 その様子を見ながら、島田社長はニヤニヤとビールを飲みながら得意気に言う。
「ちゃんと煮込む前に、熱湯ば掛けて魚の臭みばとっとるけん、臭みもなく、うまかろ?」
はいと言うように頷く。口の中のを飲み込んで、もう一つの気になっていた刺身について聞いてみる。
「少し白みがかったのが、『洗い』たい。刺身より薄く切って、氷水で白くなるまでしめて、水気ば綺麗にとったやつたいね。歯応えも刺身と違って美味しかばい。」
 食べてみらんね。と島田社長は刺身と洗いを小皿に取り分けてくれた。
 ありがとうございます。と受け取り、まずは刺身を食べてみる。とても綺麗な白身だ。ワサビを少しのせて、刺身醤油につける。そうすると、刺身醤油に脂が溶け出したのだろうか?醤油に脂が虹を描くように浮かんだ。
 口へ運ぶ。
 少し独特の香りがあるのだろうか?鯛とかの白身と違った風味があるような気がした。脂ものっていて美味である。
 次に、洗いを食べてみる。島田社長が言うように、さっき食べた刺身より薄造りである。霜が降ったように白濁した身はどんな味がするのだろう?
 刺身醤油とワサビをつけ、口へ運ぶ。
ん!?刺身よりさっぱりとしているが、身が甘い!?そして、歯応えがいい。氷水でしめただけで、こんなに違う物なのか!
 黙々と食べる。
 刺身、洗い、刺身、洗い……。交互に味の違いを楽しめながら食べる。
「前回も思ったんだが、ヒロは本当に美味そうに食べるよな。」
 ヨシさんは突然、僕を眺めながら面白そうに言う。
「あっ。俺も前々からそう思いよったったい。身体は細かとに、旨そうに幸せそうに食べよるもんね。しかも、大量に。」
え。そんなに美味しそうに、幸せそうに食べていたのか?自分では気がつかなかった。しかも、大食いだったとは……。家では普通だと思っていたけど……。
 は、恥ずかしい……。顔が赤くなっていくのがわかる。
 恥ずかしさのあまり、箸が止まった僕に二人は言う。
「いやいや。気にする事じゃないよ?」
「そぎゃんよ。作る側からすれば、美味しそうに食べてくれるけん嬉しかとよ?」
 だけん、料理の説明もしたくなるし、もっと食べさたくもなると。と、付け加え、うんうん。と頷きながら、ヨシさんと島田社長はビールをまた一口飲む。
 それでも、まだ赤くなって止まっている僕を見て、苦笑いを浮かるヨシさんは僕の耳元で囁きながら続けた。
「ヒロ。よく食べる男は、女性にモテるらしいぞ。」
 止まっていた僕は、囁かれた言葉で、バッ!と勢い良く振り向く。ヨシさんのダンディースマイルが、モテるぞ。と言わんばかりに炸裂していた。
……そうか。モテるのか……。頭の中で、お花畑が一気に開花する。止まっていた箸がまた動き出す。
ヒロ……、思ったより単純……。など、コソコソと隣で二人は何かを話しているのだろう。よく聞き取れないが、問題ない。食べる男は、モテるのだから。意気揚々と口に運んだアジゴの唐揚げは、ほのかにカレーの味がした。
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