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埋蔵争奪弁舌戦
1 ブラックインク
しおりを挟む「だから、貴様は5時に来いって言ってんだろうが!中山!」
事務机を挟んで、係長の秋田のヤツは騒いでやがる。テメエは、定時の8時に来るくせに、俺には、3時間も早く来いと言いやがる。勿論、サービスってやつだ。
こいつが、3時間かけてマスかきしてる間に俺にボランティアしろってか?2時間早く来てるんだから、十分だろうが。
「はあ」
俺は、元来フラストレーションをため込むタイプだ。いろいろと秋田のヤツには、言ってやりたいこともあるが、結局曖昧な返事とともに濁した。繰り返すが、俺はフラストレーションをため込むタイプだ。そのうちユニオンにぶちまけてやるからな。
「はあってなんだ。ちゃんと返事もできんのか」
はあ。この糞中間管理職、出社してから30分もこんな感じで怒鳴り続けている。俺が6時に来て、こいつの事務作業を片してやってんのにだ。我が、ビワパン株式会社の製造部は、二交代制で夜勤とは8時半に交代することになっている。それなのに、8時に来てから仕事もせずに30分も俺を怒鳴りつけて、遊んでやがる。このままじゃあ遅刻になっちまう。
「さっきのやつ命令なんすか?」
流石にムカついて聞いてやった。サービス残業の命令なんてしたら労基に捕まんぜ。命令っつってきたら5時からタイムカード切って、月給を上乗せしてやるんだ。
「ど、努力目標だ」
釈然としない回答が返ってきたから俺は、一言「じゃあ、あくまで“努力の範囲内”でやりますわ。早朝出勤は。」
秋田は黙り、俺は事務机に背を向けて、製造ラインへ向かった。
製造ラインに向かう間に同僚の中田と戸田に鉢合わせた。
「遅刻するぞ。」と戸田。「わかってるって。」と俺。一緒の位置にいんだからこいつらも遅刻すんじゃねえかよ。
「いや、秋田のやつがさ。」
細かいところでガスは抜かなきゃな。中田と戸田に、秋田に対する愚痴を聞かせた。「んで、あいつ5時出社を強要してくるから、はっきり断ってやったんだよ。そしたら机のの上に積んであるキングファイル掴んで、こっちに投げてきやがってよ」勿論、尾鰭と背鰭もつけて聞かせてやった。
「へえ、秋田さんがそんなことを……。まともじゃないな」
戸田のヤツは、約5割の誇張をまともに信じた。流石純情な童貞なだけはある。
中田は、ちょっと考えて「まあ穏やかじゃないけど、係長ってそんなもんなんじゃないの?」って。どちらにも軍配を振りやがった。こういうやつは、ジョン・レノンでも聞いて、ピースでもラブでも言ってればいいさ。それでも、秋田みたいな奴しか係長になれないって、一理あって、俺に心の中で納得せざるを得なかった。今日の秋田批評はここまで。中田たちと別れて、製造ラインへ急いだ。
「すいません。変わります」夜勤の期間工に言って変わった。
「それでは」期間工は疲れきった声でいい、帰って行った。
俺の持ち前は、パンを右のラインから左のラインへ移す工程だ。作業を始めて10分でいつも、オートメーション化すればいいのにと思った。
この工程を割り当てたのは、秋田の野郎だ。粋な計らいしやがって。これを休憩無しに9時間ぶっ通しだ。ほかのこと考えて仕事するにしても長く、単純すぎて気が遠くなる。労働環境は、最悪だと言わざるを得ない。
2時間ぐらいで、手足がチクチクと痺れてくる。身が危険を感じて臓器に優先的に酸素を送るからだ。寝たきり老人をゴロゴロ回さないと壊死してくるのとおんなじ理由。5時間ぐらいで、痺れは心臓まで到達し、7時間で耳鳴りがしてくる。そしてこの辺りから、流れてくるパンと、その延長線上の壁に掛かっている時計を交互に見始める。長針は進まずに留まり続け、俺と、流れてくるパン以外の時間が、止まったように振る舞う。
始業から9時間、丁度18時待ちに待った夜勤のやつとの交代時間だ。こっから先は、時計じゃなくって、工場の入り口が気になり始める。パン、入り口、パン入り口……。
俺の代わりは一向に入って来ず、その代理か代弁かわからないが、秋田が入ってきた。
「やあ、夜勤が休みやがってな。このまま夜勤に入ってくれよ」
ふざけけたことをぬかしやがる。
「いやしかし……」
「これは、“命令”だ。じゃあ俺は定時だから帰るから」
俺の反論を受けないように、被せてさっさと言いやがった。糞が。都合が良い時だけ、命令って言いやがって。帰って、太った女房のヴァギナを舐めるだけのくせして、何が定時で帰るだ。俺は、今の時間で、右ラインに溜まりに溜まったパンを掴んで、地面に叩きつけた。肩で息をしていると自分でもわかる。不本意だがやらなければ。
夜勤が来ないってことは、朝までってことなのか。流石に24時間の勤務経験はない。
13時間で意識が朦朧して、15時間で、意識は飛んで、しかし手だけは動き、完全オートメーションの一部とされた。
そして16時間目。俺は、夜勤組の小笠原に肩をたたかれて、現実へと引き戻された。
「だれか、叫んでると思えば、中山かよ。シフト日勤じゃないの?」
無意識で発狂していたのか。小笠原からは、危険にやつに見えただろう。
「いや、夜勤が来ないとかで、秋田に命令されて」
「今日の中山の交代は、派遣だから、断らない限り来るはずだけどなあ。まあ、とりあえずなんとかするから、今日は帰りな。」
俺は、小笠原に従って、ラインをぬけた。帰る前に、事務所に寄って、秋田の机を漁った。今日の夜勤シフトを探し出して確認すると、急遽一名派遣を断っている書類が出てきた。
俺は、その書類を抜いて、他は元に戻して会社を後にした。
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