ヴィンセント~イケメンヴァンパイア2人の物語

とうもろAI

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第十二章 闇の力

鍛練へ

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「ヴィンセント」
呼ばれた瞬間、空気が張り詰める。
「お前が最後に覚えているのは、どこまでだ」

ヴィンセントは、すぐには答えなかった。
視線を伏せるでもなく、逸らすでもない。
ただ、ほんのわずかに呼吸を整える。

「……人質の子どもたちを解放し、脱出を開始したところまでです。それ以降の記憶は、ありません」

カスティールは、その沈黙を咎めなかった。
むしろ、確信を深めたように目を細める。
「“その後”が、空白か」

ヴィンセントは、わずかに頷く。
「意識が戻った時には、すべてが終わっていました。敵は退き、子どもたちは無事で、我々は撤収していた」
聞いた事実だけを口にするだけで感情も、評価も、そこには含まれていない。

助っ人たちの誰も、口を開かなかった。
アランは背筋を正したまま、サラは静かに目を伏せ、
カイは無言で呼吸を整えている。
レオンとイーサンもまた、余計な身振り一つ見せない。

「――誰が、どこまでやったのか」
カスティールは、再びヴィンセントを見る。
「お前自身が知らぬまま、
 お前の力だけが“答え”を出した、ということだ」

断定ではない。
だが、否定の余地も与えない言い方だった。
「それが、最も扱いに困る」
広間の空気が、わずかに冷える。

「制御できぬ力は、武器ではない。
 災厄だ。
 ――敵にとっても、味方にとってもな」
そして、静かに告げる。

「クロードがそれを見たのなら、必ず狙う。
 いや、あの背後にいる者たちが、放っておくはずがない」

カスティールは一歩、ヴィンセントに近づいた。
「だからこそ聞く。
 お前は――その力を、恐れているか」
試す声だった。
裁く声ではない。

ヴィンセントは、すぐには答えなかった。
視線を伏せるでもなく、逸らすでもない。ただ、静かに呼吸を整える。
「……恐れています」

短いが、曖昧さのない言葉だった。
「自分が何をしたのか分からない力を、
 誇ることも、信じることもできません」
その声には震えはない。
だが、覚悟と同時に、明確な自己抑制が滲んでいた。

「守れた命があったことは、事実です。
 ですが――同じことが、次も同じ結果を生むとは限らない」
カスティールは、わずかに口角を上げた。
それは笑みというより、評価に近い。
「よい答えだ」
古参の一人が、低く息を吸う音がした。
「力を恐れぬ者は、いずれそれに呑まれる。
 力を憎む者は、正しく使えぬ。
 ――恐れる者だけが、制御を学ぶ」
そう言ってから、カスティールは助っ人たちへ視線を巡らせる。

「アラン。サラ。カイ。レオン。イーサン」
名を呼ばれ、五人は同時に一歩、前へ出た。
「お前たちは、あの場にいた。
 ヴィンセントが“空白”に落ちた後もな」
問いではない。確認だ。

アランが、静かに答える。
「はい。
 ですが――私たちは、彼を止めたのではありません」
サラが続く。
「あの力は、一見暴走でありながら――
 無差別ではありませんでした」
カイは一瞬、言葉を選び、こう付け加える。
「結果、敵だけを、選んでいたのです」
その言葉に、広間の空気が微かに揺れた。
「ほう……」
カスティールは、再びヴィンセントを見る。

「無意識下での選別。
 それは“獣”ではない。――だが、完全な理性でもない」
一拍置いて、低く告げる。

「だが、意思があるなら尚更、鍛えねばならぬ」
彼は踵を返し、玉座へと向かいながら言う。
「今後、お前は二つを学び鍛練しろ」
重く、逃げ場のない声。

「一つ。
 その闇の力を“呼ばぬ”まま、戦う術」
古参たちの目が、鋭く光る。
「二つ。
 もし呼んでしまった時――
 “戻る”ための錨を持つことだ」
カスティールは玉座の前で立ち止まり、最後に言い切った。
「それができぬなら、
 お前は王ではなく、災厄として処理される」

沈黙。
だが、ヴィンセントは一歩、前へ出た。
「承知しました」
敬意を崩さぬまま、しかし迷いのない声で。
「私は、そのどちらも学びます。
 ――選ぶのは、私自身です」
その瞬間、カスティールの目に、確かに興味の光が宿った。
「よかろう」

低く、宣告する。
「ならば今宵より始める。
 お前の“鍛練”を」
夜は、まだ深い。
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