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なな

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第九章:沙織の手のひら

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「今日、うち来る?」

仕事終わりに沙織がぽつりと誘った。市川ほど露骨ではないが、彼女もまた、優斗——“ゆう”の変化を見逃していなかった。

沙織の部屋はオシャレで柔らかい雰囲気に包まれていた。フレグランスの香りと、優しい間接照明。ソファに並んで座ると、ふと彼女がワイングラスを差し出してきた。

「緊張、してる?」

「……ちょっとだけ」

「ふふ、そんな顔しないで。ね、こっちおいで」

沙織は優斗の髪をすっと撫でた。彼女の手の中で撫でられるたびに、心がほぐれていくのがわかる。

「ゆうちゃん、今日つけてるの……もしかして、あの白いブラ?」

「え……はい。昼と同じの……」

「ちょっと、見せて?」

「え……」

ためらう優斗の手を、沙織がそっと取り、ブラウスのボタンを外していく。その仕草が、どこか“優しくいたぶる”ようで、身体の芯がふるえた。

「わぁ……ちゃんとコーディネートしてるんだ、ショーツも同じシリーズ……えらい」

「だ、だって……そういうもの、なんですよね?」

「うん、そう。“女の子”は、下着も気を抜かないの。ゆうちゃん、だんだん分かってきたね」

沙織の指先が、レースの縁をなぞる。そして、背中に回って、ゆっくりとホックを外した。

「コルセットもしてるの? ああ……ちゃんと締めてる……苦しくない?」

「うん、ちょっとだけ。でも……落ち着く」

「ふふ、分かるよ。女の子ってね、身体を締めつけられることで安心する時があるの」

手のひらが、優斗のウエストを包む。締めつけられたラインに指が沿い、まるで“女の身体”をなぞるように丁寧に。

「ね、ゆうちゃん……このまま、もっと女の子にしてあげてもいい?」

「え……?」

「例えば、ナイト用のスリップに着替えて……お化粧も大人っぽくして。ほら、今夜だけ、完全に“私のかわいい女の子”になろ?」

優斗は一瞬だけ迷った。でも、彼女の指先がレースの奥へと優しく触れたとき、言葉の代わりにうなずいていた。

沙織は、鏡の前に優斗を座らせ、髪を巻き、丁寧なアイメイクをしてからチークを乗せ、リップを引いた。コルセットの上から薄いベビードールをかぶせると、そこにはもう“男”の面影はなかった。

「……ゆうちゃん、すごく綺麗。もう、どこから見ても“私の女の子”だよ」

その言葉に、優斗の胸の奥で何かが甘くほどけていった。
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