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第1部:スーツの中のワタシ
第五章:タイトスカートと“なお”の一日
「なお、明日ちょっと手伝える?」
突然のLINEに目を落としたのは、授業の合間。送ってきたのは、美月だった。
いつもなら事前にバイトの予定が決まっているのに、急な依頼は珍しい。
『イベント受付の人手が足りなくて。スーツ着て来られる?タイトの、ちゃんとしたやつ』
(スーツ……?)
女装バイトに慣れてきたとはいえ、これまで着てきたのはどこか制服的なものばかり。
自前のフォーマルな女性用スーツなんて持っていない。
でも美月はすぐに続けてきた。
『貸してあげるよ。サイズ合うやつあるし、ウィッグも最近変えた長めのやつで』
(……行くしかないか)
返事をしてしまった瞬間には、もう心がざわついていた。
イベント当日、ホテルラウンジ近く。
美月はすでに着替えを終え、落ち着いたグレーのスーツを着こなしていた。タイトな膝丈スカート、白のとろみブラウス、ヒールは7cmはある。
「これ、着てみて」
渡されたスーツは黒に近いチャコールグレー。細身のラインが腰を引き締め、女性らしい体のラインを強調する。
ロッカールームでスカートに脚を通すと、想像以上にきつかった。
太ももにそって滑る生地が、無意識に身体を女性らしく整える。
「ガードル、持ってきて正解だったね。パンストの上から履くとラインきれいに出るよ」
美月に促されながら、ブラウスのボタンを留め、スーツのジャケットを羽織る。ウィッグは落ち着いたブラウンで、肩まで自然に流れるセミロング。
「見て、“なお”ちゃん……完璧だよ」
鏡に映った“なお”は、これまででいちばん“大人の女性”に見えた。タイトスカートの締め付けが妙な快感ももたらす。
ホテルのホール前。来場者は続々と現れ、なおと美月は、受付デスクの前に並んで立つ。
スーツの裾が座ったときにわずかに張り付き、ストッキング越しに脚がピリ、と張る。
「いらっしゃいませ、本日はご来場ありがとうございます」
抑揚ある声をつくって、パンフレットを両手で差し出す。
マナー通りに、自然に、女性らしく。
でもその度に、身体のどこかがぴくりと反応する。
「おふたりとも、美人さんですね」
声をかけてきたのは、ネームプレートに「広報部・河合」と書かれたスーツ姿の男性。
──え?
(……河合さん!?)
気づかれた?いや、視線は美月のほうに向いている。でも、そのあとで確かに“なお”の顔を見た。
「新人さん……ですか?」
声がまっすぐ“なお”に向かってきた。
「あ……はい。今日が初めてで……」
言葉が震える。でも笑顔を崩すわけにはいかない。
「そうなんだ。……すごく、似合ってます」
その瞬間、頬が熱くなった。ストッキングの中の脚がそわりと痺れ、下着のレースが肌に貼りつく。
(気づいてない? それとも……?)
イベントは続く。たくさんの人、たくさんの挨拶。そして、視線。
“なお”として、その場に立ち続ける。
胸元に手を当てると、ブラの中の胸パッド越しに、自分の鼓動が確かに伝わっていた。
(わたし……本当に女の子みたいに、なってる……?)
──タイトスカートの締めつけも、ヒールの足の痛みも、
今日だけは、愛しくて、誇らしかった。
突然のLINEに目を落としたのは、授業の合間。送ってきたのは、美月だった。
いつもなら事前にバイトの予定が決まっているのに、急な依頼は珍しい。
『イベント受付の人手が足りなくて。スーツ着て来られる?タイトの、ちゃんとしたやつ』
(スーツ……?)
女装バイトに慣れてきたとはいえ、これまで着てきたのはどこか制服的なものばかり。
自前のフォーマルな女性用スーツなんて持っていない。
でも美月はすぐに続けてきた。
『貸してあげるよ。サイズ合うやつあるし、ウィッグも最近変えた長めのやつで』
(……行くしかないか)
返事をしてしまった瞬間には、もう心がざわついていた。
イベント当日、ホテルラウンジ近く。
美月はすでに着替えを終え、落ち着いたグレーのスーツを着こなしていた。タイトな膝丈スカート、白のとろみブラウス、ヒールは7cmはある。
「これ、着てみて」
渡されたスーツは黒に近いチャコールグレー。細身のラインが腰を引き締め、女性らしい体のラインを強調する。
ロッカールームでスカートに脚を通すと、想像以上にきつかった。
太ももにそって滑る生地が、無意識に身体を女性らしく整える。
「ガードル、持ってきて正解だったね。パンストの上から履くとラインきれいに出るよ」
美月に促されながら、ブラウスのボタンを留め、スーツのジャケットを羽織る。ウィッグは落ち着いたブラウンで、肩まで自然に流れるセミロング。
「見て、“なお”ちゃん……完璧だよ」
鏡に映った“なお”は、これまででいちばん“大人の女性”に見えた。タイトスカートの締め付けが妙な快感ももたらす。
ホテルのホール前。来場者は続々と現れ、なおと美月は、受付デスクの前に並んで立つ。
スーツの裾が座ったときにわずかに張り付き、ストッキング越しに脚がピリ、と張る。
「いらっしゃいませ、本日はご来場ありがとうございます」
抑揚ある声をつくって、パンフレットを両手で差し出す。
マナー通りに、自然に、女性らしく。
でもその度に、身体のどこかがぴくりと反応する。
「おふたりとも、美人さんですね」
声をかけてきたのは、ネームプレートに「広報部・河合」と書かれたスーツ姿の男性。
──え?
(……河合さん!?)
気づかれた?いや、視線は美月のほうに向いている。でも、そのあとで確かに“なお”の顔を見た。
「新人さん……ですか?」
声がまっすぐ“なお”に向かってきた。
「あ……はい。今日が初めてで……」
言葉が震える。でも笑顔を崩すわけにはいかない。
「そうなんだ。……すごく、似合ってます」
その瞬間、頬が熱くなった。ストッキングの中の脚がそわりと痺れ、下着のレースが肌に貼りつく。
(気づいてない? それとも……?)
イベントは続く。たくさんの人、たくさんの挨拶。そして、視線。
“なお”として、その場に立ち続ける。
胸元に手を当てると、ブラの中の胸パッド越しに、自分の鼓動が確かに伝わっていた。
(わたし……本当に女の子みたいに、なってる……?)
──タイトスカートの締めつけも、ヒールの足の痛みも、
今日だけは、愛しくて、誇らしかった。
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