受付バイトは女装が必須?

なな

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第1部:スーツの中のワタシ

第六章:女の子のふりをして乾杯する夜

イベントの喧騒が落ち着き、片づけがひと段落したころ、美月が笑いながら声をかけてきた。

「なお、おつかれさま!河合さんがね、打ち上げ誘ってくれたの。軽く飲みに行かない?」

「……えっ、わたしも?」

「もちろん。受付ペアの特権よ?」

断れるはずがなかった。スーツのスカートは腰にしっかりフィットしたまま、ヒールを鳴らしながらホテル近くのイタリアンへ。
そこにはイベントの関係者が数人と──河合の姿があった。



「おつかれさま。今日は本当に助かりました」
河合は軽くグラスを掲げながら、“なお”に目を合わせてくる。

「おつかれさまです……あの、わたしなんか……うまくできてたか、ちょっと……」

「大丈夫、すごく自然だった。というか、誰が見ても、ねえ?」

そう言われて、喉が詰まった。
“自然だった”の意味を探りながら、ぎこちなく笑ってグラスを取る。

乾杯の音とともに、ワインの香りが広がる。

(飲んでる場合なのに……でも、女の子としているのがバレる方が怖い)

美月が横で「なお、もっと飲んでいいんだよ?」とニヤリと笑う。

「ねえ、ふたりって学生さんだよね?美月ちゃんは就活中で、なおさんは……?」

「わ、わたしは……大学一年生です……」

「へえ、若いなあ。でも大人っぽい。あのスーツ、すごく似合ってたよ。脚もきれいだし」

その一言で、体がびくんとする。ガードルの下が熱くなる。思わず膝を閉じるようにスカートの裾を押さえた。

「そ、そうですか?ありがとうございます……」

河合の目が一瞬だけ“視る”ように動いたのがわかった。足元か、顔か──どちらかはわからない。でも、女性に向けるものだった。

ふとした拍子に、美月がトイレに立ち、ふたりきりになる。
テーブルの下では、タイトスカートに押し込められた足がきちんと揃っている。なぜか身体中がドキドキしている。

「ほんと、最初会ったときと印象違うよね。ちょっとドキッとした」

「……そうですか?」

「いや、本当に。……もしかして、男とかけっこう……困るでしょ?」

なにそれ、と笑おうとしたけど、喉がまた詰まる。
これは“なお”に向けられた、異性としての言葉じゃないのか。
それとも──試してる?

そのとき、美月が戻ってきて空気がほどける。
でも、ふたりの視線の糸は、しばらくそのままだった。



店を出たのは23時前。
風が肌寒く、ヒールのまま歩くのが少しつらい。
タイトスカートの締め付けが女の子を意識させる。
でも河合が自然に言った。

「駅まで送るよ。……危ないし」

(送られる……?女の子として?)

並んで歩く夜道。
スカートのすそが風にあたり、パンストが肌に貼りつく感覚に、
“なお”としての存在を改めて刻まれる。

彼の足音は、隣でずっと同じリズムだった。

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