受付バイトは女装が必須?

なな

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第1部:スーツの中のワタシ

第十一章:視線の向こう側

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再びバイトの日。

「おはようございます」

「おはよう。今日もよろしくね」

スーツ姿のなおは、自然と姿勢を整え、ヒールの音を確かめるように歩いた。今日のスーツはグレージュのタイトタイプ。ストッキングの締めつけや、ブラのホックの感覚ももう日常に溶け始めている。

ふと視線を上げると、河合がこちらを見ていた。

(え……?)

彼の視線は、どこか探るようでいて、でもやわらかく、何かを確かめているようにも見えた。

(気づいてる? それとも……)

「……似合ってますね、そのスーツ」

「え?」

「前から思ってたんです。受付の制服も綺麗に着こなしてるなって。今日のはちょっと大人っぽくて、特に」

その口調に悪意や裏は感じられなかった。ただ、静かな、真面目な大人の男性の語り口。

(普通に、女の人として見られてる……?)

「ありがとうございます……」

声が少しだけ上ずったのは、スカートの下にある、自分の脚を急に意識してしまったからだ。



午後、空き時間に資料の整理をしていると、河合が来た。

「なおさん、大学生なんでしたよね。専攻って何なんですか?」

「あ、えっと、文学系です。まだ方向は決まってないですけど……」

「それ、なんか似合いますね」

また“似合う”という言葉。
河合の言葉は軽くない。ふわりと投げるのに、真っ直ぐ心に入ってくる。

(この人、本当に……僕のことを“女の子”だと思ってるのかな)

それとも――全部わかってて、そう接しているのか。

怖いような、嬉しいような。
その不確かな感情は、喉元に小さな熱として残った。



勤務後。控室で着替えをしていると、美月が近くにやってきた。

「ね、なお。河合さんと話してたでしょ。なんか、雰囲気よかったよ?」

「え、うそ……そんなんじゃ」

「そっか? でも……ちょっと顔赤いよ」

鏡を見た。確かに、少しだけ頬が火照っていた。
ガードルの下がまた熱い。

(……なんでこんなに気になるんだろう)

男の人と話して、こんなに心が動くなんて。

それが怖くて、でもうれしくて。
なおは、鏡の中で、女の子の顔をしていた。
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