受付バイトは女装が必須?

なな

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第1部:スーツの中のワタシ

第十七章:ステージに咲く

「直人……あのさ、お願いがあるんだけど」

昼休み、学園祭の準備でにぎわう教室の隅。プリントを抱えたまま里香が小走りに近づいてくる。

「衣装係やってくれてるじゃん? それで……実はモデルの子がひとり来られなくなっちゃって」

「……うん?」

「代役を探してるんだけど、直人にお願いできないかなって」

「えっ……私?」

「うん……でも、その……女の子の衣装だから。お願いするってことはつまり、女装になっちゃうんだけど」

里香は声をひそめながら、言葉を探していた。
でも、なおの顔を真っ直ぐに見ていた。

「もちろん、無理なら断っても大丈夫。嫌だったらすぐ他の子探すから……でも、似合うと思ったし、なんか“直人なら”って思って」

一瞬の沈黙。

なおは、息を吸い込むようにしてうなずいた。

「……わかった。私でよければ、やってみる」

自分の口から“私”という言葉がすんなり出ていたことに、少し驚いた。
でも、それ以上に、胸の奥がぽっと温かくなっていた。



学園祭当日。
大学の講堂裏に設けられた控え室には、すでにスタッフたちがバタバタと準備を進めていた。

「直人ちゃーん、ふふ、こっちだよ!」

先に入っていた里香が手を振る。
彼女は今日、サークルスタッフとして舞台演出の手伝いもしていた。

「緊張してる?」

「……うん、少し」

「大丈夫。私がぜーんぶ仕上げてあげるから。モデルさん、こっち来てくださーい」

そう言われ、笑って頷くと、簡易の更衣ブースに案内される。
ワゴンには白のワンピースドレスと小物類。
下着、ストッキング、パッド、髪留め、ヒール、そしてウィッグまで揃っていた。

「ね、まず下着から着替えちゃおっか」

里香の指示で、なおはブラとショーツを手に取る。
今日のものはバイトで使っているのよりも柔らかく、レースの縁取りが細かくて、触れただけでゾクッとする。

下着に着替えながら、全身鏡の前で自分の体を見る。

(これが……今日の“なお”の身体)

パッドを入れて胸元を整える。
エステのせいか、肌の手触りが少し変わってきている気がした。

「ブラつけられる~?」
なんとか大丈夫とこたえる。
ホントは慣れているのを隠しながら。

もともと脚のシェービングは習慣になっていたけれど、指先が太ももを撫でたとき、つるりと滑る感じがいつもよりも柔らかい。

「はい、ストッキング。伝線しないように慎重にね」

片脚ずつ、腰まで丁寧に引き上げる。
締めつけのない薄手のタイプ。
ほんのり光沢のあるその生地が肌に密着する感覚に、思わず小さく息が漏れた。

「脚の毛、お願い聞いてくれて処理してくれてありがとう。凄く綺麗だよ!」

綺麗という言葉で身体が反応してしまう。

(これで、私、ステージに立つんだ……)

里香が手伝いながら、白いドレスをかぶせてくれる。
袖のないシルエット。肩から腕のラインが強調される。

背中のファスナーをゆっくり上げられるとき、自然と背筋が伸びた。
下着の縁が服の内側にしっくりと沿っているのがわかる。
なんとも言えない快感が訪れた。

「やっぱりすごく似合う! ね、座って。メイクいくよ」

ベースは里香が手早く整えてくれる。
チークは淡く、リップは控えめなローズ。
そしてウィッグを被せ、ブラシで形を整える。

鏡の中に現れた“なお”は、まるで見知らぬ誰かのようだった。
でも、目だけは、たしかになおのものだった。

「……これが、私……」

「うん、すっごく綺麗」

里香が後ろからそっと声をかけた。
ガードルの下が熱くて硬くなっている。

「いっておいで。舞台の上で輝いて」



まもなくステージ。
スポットライトの向こう、舞台袖で息を整えながら、なおは裾を軽くつまんだ。

どんな視線を受けるのかもわからない。
バレるかもしれない、という不安もある。

けれど、今はそれ以上に――

(私を見てほしい)

そう思った。


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