受付バイトは女装が必須?

なな

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第1部:スーツの中のワタシ

第十八章:視線のなかで

ステージの上。
照明がまぶしく、まるで夢のなかにいるようだった。

背中を伸ばし、ゆっくりと歩を進める。
裾が揺れる。ヒールが舞台の床を叩く音。
客席のざわめきが、ほんのわずかに聞こえてくる。

(みんな、私を見てる)

それはこれまでの人生で経験したことのないほど、強烈な“注目”だった。

戸惑いと恥ずかしさ、でもどこか心地よい高揚感が入り混じる。
自分が“なお”として確かにここに立っている――その事実が、誇らしくさえ思えた。

舞台中央まで歩いたとき、なおはふと視線を上げた。

客席の最前列近く――
黒いスーツの男性が、じっとこちらを見ているのが見えた。

(……まさか)

河合、ではなかった。
でも、その一瞬、心臓が跳ね上がっていた。
舞台の上から誰かの目線を受けるたびに、“見られている”ことの意味を感じる。

(私、こんなふうに、女の子として誰かに見られたかったんだ)



舞台裏に戻ると、里香やスタッフたちが拍手と笑顔で迎えてくれた。

「直人、めっちゃ可愛かった!お客さんざわめいてたよ~」

「歩き方も自然だったし、完璧!」

奥から真帆と美月が駆け寄ってきて、ハイタッチするように手を取る。

(2人とも見に来てくれたんだ!)

なおはうっすら汗ばんだ額に手を当てて、やっと息を吐いた。

「すっごく……緊張した」

「でも、ちゃんと“見せてた”よ、なお。自分を」

真帆のその言葉が、なぜか涙腺に触れそうになった。

控室で衣装を脱ぎながら、なおは鏡を見つめていた。

ドレスを脱ぎ、ウィッグを外すと、元の自分がゆっくりと浮かび上がる。
だけど、その顔には“直人”とも“なお”ともつかない、どこか中間の表情があった。

(私って、どっちなんだろう……)

鏡に映る自分に問いかけても、答えは出ない。
でも、ステージで浴びた視線の温度だけは、まだ身体に残っていた。



その夜、スマホを開くと、バイト用のグループチャットにメッセージがいくつか届いていた。

真帆:
「なおちゃんお疲れ~!まじ天使だった!」

美月:
「次は一緒にドレスでデート行こうね~笑」

河合さん(個人チャット):
「大学の学園祭、おつかれさまでした。なおさんが出てたって聞きました。見たかったな」

その一文だけで、なおの心が熱くなる。

“見たかった”
そのたった五文字に、どうしようもなく揺さぶられる。

(河合さんは、“私”を、どう見ているんだろう)

まるで舞台の上で受けた視線と同じように、河合の言葉が、心の奥に落ちていった。


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