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第1部:スーツの中のワタシ
第十九章:ふたたび“なお”として
学園祭が終わった月曜日の朝。
大学に戻った日常は、どこかうっすらと色づいて見えた。
(あのステージは、夢だったんじゃないか……)
なおは、そう思いたくなるほど現実感を失っていた。
けれど、腰に残るストッキングの締めつけ跡、
観客の目線を背中に受けたあの感触だけは、確かだった。
講義が終わる頃、スマホが振動した。
河合さん:
「学園祭、ほんとに行けなくて残念でした。
もしよかったら、またどこかでお会いできたら嬉しいです」
画面を見つめる指先が止まる。
(“会いたい”……)
胸の奥がじわじわと熱くなる。
でも、“私”として会うなら、それは「なお」として。
直人ではなく、“なお”を選ばなければならない。
数日後。
美月からバイトの臨時シフトの連絡が入った。
「ちょっと来週、急な来客が入ってて。
なおちゃん、“なお”で対応お願いできる?
カジュアル目で大丈夫。」
「……はい、わかりました」
その瞬間、心のどこかで思った。
(これは、また河合さんに“なお”として会えるかもしれない)
自然と、服選びに力が入る。
シンプルなワンピースに、ベージュのカーディガン。
淡いピンクのストッキングに、ほんの少し高さのあるパンプス。
ブラのホックを留め、髪をウィッグで整える。
チークをふわりと乗せ、リップを引く指が震えている。
鏡の前には、あのステージと同じ“なお”がいた。
(私は……この姿で、彼と会いたいと思ってる)
それはもう、“ごまかし”ではなく、“願い”だった。
バイト当日。
受付に立つなおは、自然に笑顔を作りながらも、心臓の鼓動をひとつずつ数えていた。
足音が近づくたび、あの声が聞こえるんじゃないかと、身体が反応する。
でも、しばらくしても――河合は現れなかった。
(……今日は、来ないのかな)
少しだけ、肩の力が抜けて、悲しいような、安心したような気持ちになる。
そんなとき、休憩に入るなおのもとに、美月が近づいてきた。
「ね、さっきのお客様、覚えてる?
外で帰らずにちょっと待ってたみたい。多分、なおちゃんに声かけたかったのかも」
「……え?」
「黒いコートに、メガネかけてて、落ち着いた感じの人」
それは、まぎれもなく――河合だった。
(会ってくれようとしてた……)
それだけで、胸の奥がじんわりとあたたかくなった。
その夜、スマホにふたたび通知が届く。
河合さん:
「今日、受付にいらっしゃったのって……
なおさん、ですよね?」
一言一言が、心を撃つ。
「また……会いたいです」
画面の中の文字が、まるで声のように響いてきた。
なおは、そっとスマホを胸元に抱いた。
(私も……会いたい。あなたに、なおとして)
大学に戻った日常は、どこかうっすらと色づいて見えた。
(あのステージは、夢だったんじゃないか……)
なおは、そう思いたくなるほど現実感を失っていた。
けれど、腰に残るストッキングの締めつけ跡、
観客の目線を背中に受けたあの感触だけは、確かだった。
講義が終わる頃、スマホが振動した。
河合さん:
「学園祭、ほんとに行けなくて残念でした。
もしよかったら、またどこかでお会いできたら嬉しいです」
画面を見つめる指先が止まる。
(“会いたい”……)
胸の奥がじわじわと熱くなる。
でも、“私”として会うなら、それは「なお」として。
直人ではなく、“なお”を選ばなければならない。
数日後。
美月からバイトの臨時シフトの連絡が入った。
「ちょっと来週、急な来客が入ってて。
なおちゃん、“なお”で対応お願いできる?
カジュアル目で大丈夫。」
「……はい、わかりました」
その瞬間、心のどこかで思った。
(これは、また河合さんに“なお”として会えるかもしれない)
自然と、服選びに力が入る。
シンプルなワンピースに、ベージュのカーディガン。
淡いピンクのストッキングに、ほんの少し高さのあるパンプス。
ブラのホックを留め、髪をウィッグで整える。
チークをふわりと乗せ、リップを引く指が震えている。
鏡の前には、あのステージと同じ“なお”がいた。
(私は……この姿で、彼と会いたいと思ってる)
それはもう、“ごまかし”ではなく、“願い”だった。
バイト当日。
受付に立つなおは、自然に笑顔を作りながらも、心臓の鼓動をひとつずつ数えていた。
足音が近づくたび、あの声が聞こえるんじゃないかと、身体が反応する。
でも、しばらくしても――河合は現れなかった。
(……今日は、来ないのかな)
少しだけ、肩の力が抜けて、悲しいような、安心したような気持ちになる。
そんなとき、休憩に入るなおのもとに、美月が近づいてきた。
「ね、さっきのお客様、覚えてる?
外で帰らずにちょっと待ってたみたい。多分、なおちゃんに声かけたかったのかも」
「……え?」
「黒いコートに、メガネかけてて、落ち着いた感じの人」
それは、まぎれもなく――河合だった。
(会ってくれようとしてた……)
それだけで、胸の奥がじんわりとあたたかくなった。
その夜、スマホにふたたび通知が届く。
河合さん:
「今日、受付にいらっしゃったのって……
なおさん、ですよね?」
一言一言が、心を撃つ。
「また……会いたいです」
画面の中の文字が、まるで声のように響いてきた。
なおは、そっとスマホを胸元に抱いた。
(私も……会いたい。あなたに、なおとして)
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