受付バイトは女装が必須?

なな

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第1部:スーツの中のワタシ

第二十四章:心を縫うように

次のデートは週末の昼。
河合の提案で、美術館に行くことになった。

静かな時間を共有する場所。
“なお”として、そんな場所に出かけることが、もう自然に思えるようになっていた。

けれど――

(このまま、いいのかな)

クローゼットの前で、なおは小さくため息をついた。

スカートに、カーディガン。
下着を選びながら、ふと、手が止まる。

レースのついたお気に入りのブラ。
それを着けることに、もはやためらいはない。
ショーツとストッキングを揃え、しっとりと保湿した脚を滑らせると、肌が繊細に生き返ったように思えた。

でも――鏡の前でそれを確認している自分に、もうひとりの“直人”が問いかけてくる。

(……お前、いつまでそのままでいられるつもりだ?)

化粧はすっかり手馴れていた。
眉の整え方も、アイラインの引き方も、もう手が勝手に覚えている。

(ウィッグじゃない。下着も髪も、ぜんぶ“私のもの”になってる)

その実感は、確かに誇らしくもある。

けれど、河合と目を合わせた瞬間――
その全てが、**“嘘のままで愛されている”**気がして、心がきゅっと痛んだ。



美術館では、静かな時間が流れていた。

なおの隣を歩く河合は、ふと絵の前で立ち止まり、こう言った。

「なおさんの雰囲気って、空気に馴染む感じがありますよね」

「……え?」

「柔らかいけど、強い。目を離したくなくなるような」

思わず目を逸らしてしまう。

(私が“男”だって、知ったら……そんなふうに言ってくれるのかな)

でも、口にはできなかった。

言葉にしたら、壊れてしまいそうだった。



帰り道。
河合の手が、そっとなおの手を包んだ。

その優しさに、心がじんわりと温まる。
けれど、同時に――“罪悪感”という小さな棘が胸の奥に刺さっていた。

帰宅して、服を脱ぐと、肌の香りに気づいた。
彼と並んで歩いた時間の余韻が、微かに残っていた。

鏡の中の自分を、もう“男”には見えなかった。

(私、もう……戻れないのかもしれない)

スマホには河合からのメッセージ。

「今日は、会えて嬉しかったです。
なおさんと一緒にいる時間が、どんどん特別に思えてきます」

その文を見つめながら、なおは指を止めた。

(特別になればなるほど、
 本当のことが言えなくなる)

心を縫うように、傷みと幸せが重なっていく。


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