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第1部:スーツの中のワタシ
第二十五章:揺らぐ日常、揺れる決心
平日の昼休み、大学のベンチ。
なお――“直人”として、ジーンズにパーカー姿でコンビニのおにぎりを食べていた。髪は崩して誤魔化している。
(この格好、落ち着かないな……)
誰も気にしていないのに、自分だけが“隠している”気がして、姿勢すらぎこちない。
周囲の笑い声や、スマホを見ながら談笑する男子たちの中で、なおはどこか浮いていた。
ふとした拍子に脚を揃えてしまう。
膝に置く手の形が、女の子っぽくなっている。
(最近、女の子としての“所作”が抜けなくなってる)
以前なら何も感じなかったこの時間が、いまはもう、自分の生活とは別のもののように思えた。
放課後、美月とカフェで会った。
「どうしたの? ちょっと顔色悪いかも」
「……ううん。ちょっと、考えごとしてて」
「河合さんのこと?」
図星だった。
なおは、小さくうなずいた。
「……このままでいいのかな、って。
好きって気持ちはあるのに、ずっと隠してるのが、
だんだん苦しくなってきた」
「……うん。なおちゃんが、そう思えるくらいに好きなんだね」
「でも、もし言ったら……全部壊れるかもしれない」
「壊れるかもしれないけど、壊れないかもしれない。
そして、隠したまま進んだ先に“幸せ”があるかは……誰にもわかんないよ」
その言葉に、胸が痛んだ。
けれど、少し救われた気もした。
「……ありがとう」
その夜、自宅の部屋で、なおは“なお”の姿になっていた。
下着を選び、ブラのホックを留める。
メイク道具を並べ、ひとつずつ仕上げていく。
眉を整える指、リップを引く手。
それはもう“練習”ではなく、“習慣”だった。
ウィッグは使っていない。
このあいだ整えたばかりの地毛が、自然に肩に落ちる。
(河合さんが触れた私の髪。あれは、ウソじゃない)
メイクが完成した顔を、鏡の奥で見つめた。
(“なお”として生きたいって思ってるのに、
“直人”としての名前と過去に縛られてる)
その矛盾が、じわじわと重くなっていた。
寝る前、スマホを開くと、河合からの通知がひとつ。
「今度の土曜日、会えますか? ゆっくり話したいことがあって」
なおは、返事を打とうとして、指を止めた。
(話したいこと……それって、何だろう)
胸の奥がざわつく。
もしかして、気づいてるのかもしれない。
もしかして、全部わかったうえで、“なお”を選ぼうとしてくれてるのかもしれない。
でも、それは――確かめるしかない。
なお――“直人”として、ジーンズにパーカー姿でコンビニのおにぎりを食べていた。髪は崩して誤魔化している。
(この格好、落ち着かないな……)
誰も気にしていないのに、自分だけが“隠している”気がして、姿勢すらぎこちない。
周囲の笑い声や、スマホを見ながら談笑する男子たちの中で、なおはどこか浮いていた。
ふとした拍子に脚を揃えてしまう。
膝に置く手の形が、女の子っぽくなっている。
(最近、女の子としての“所作”が抜けなくなってる)
以前なら何も感じなかったこの時間が、いまはもう、自分の生活とは別のもののように思えた。
放課後、美月とカフェで会った。
「どうしたの? ちょっと顔色悪いかも」
「……ううん。ちょっと、考えごとしてて」
「河合さんのこと?」
図星だった。
なおは、小さくうなずいた。
「……このままでいいのかな、って。
好きって気持ちはあるのに、ずっと隠してるのが、
だんだん苦しくなってきた」
「……うん。なおちゃんが、そう思えるくらいに好きなんだね」
「でも、もし言ったら……全部壊れるかもしれない」
「壊れるかもしれないけど、壊れないかもしれない。
そして、隠したまま進んだ先に“幸せ”があるかは……誰にもわかんないよ」
その言葉に、胸が痛んだ。
けれど、少し救われた気もした。
「……ありがとう」
その夜、自宅の部屋で、なおは“なお”の姿になっていた。
下着を選び、ブラのホックを留める。
メイク道具を並べ、ひとつずつ仕上げていく。
眉を整える指、リップを引く手。
それはもう“練習”ではなく、“習慣”だった。
ウィッグは使っていない。
このあいだ整えたばかりの地毛が、自然に肩に落ちる。
(河合さんが触れた私の髪。あれは、ウソじゃない)
メイクが完成した顔を、鏡の奥で見つめた。
(“なお”として生きたいって思ってるのに、
“直人”としての名前と過去に縛られてる)
その矛盾が、じわじわと重くなっていた。
寝る前、スマホを開くと、河合からの通知がひとつ。
「今度の土曜日、会えますか? ゆっくり話したいことがあって」
なおは、返事を打とうとして、指を止めた。
(話したいこと……それって、何だろう)
胸の奥がざわつく。
もしかして、気づいてるのかもしれない。
もしかして、全部わかったうえで、“なお”を選ぼうとしてくれてるのかもしれない。
でも、それは――確かめるしかない。
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