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第1部:スーツの中のワタシ
第二十六章:告げられる前に、気づかれる前に
土曜日が近づくにつれて、なおの心はざわざわと波立っていた。
河合に会えることは嬉しい。けれど、それと同じくらい怖かった。
(次に会ったら、私、どうするんだろう)
“なお”として恋をして、愛されたいと願っている。
でも、“直人”であることを隠したままでいるということは、いつか裏切ることと同じになるのかもしれない。
金曜日の夜、なおは部屋の全身鏡の前に立っていた。
ベッドには明日着るつもりの服が並べられている。
淡いピンクのブラウスと、落ち着いたグレーのロングスカート。
お気に入りのショーツとストッキングは、もう“特別”ではなくなっていた。
鏡に映る自分の顔を、じっと見つめる。
まつげは軽くカールし、チークの血色も自然に仕上がっている。
髪は肩にかかり、レイヤーが入った前髪が顔を優しく縁取っていた。
(これが、今の“私”)
もう、ウィッグも厚化粧も必要ない。
女の子としてふるまうことは、“演技”ではなくなっていた。
けれど――
(この顔の奥にある“直人”を、河合さんが知ったら……)
喉の奥が、きゅうっと痛くなる。
メイクを落とし、ブラを外したとき、なおは自分の胸元に手をあてた。
平らな胸。
それでも、パッドの形に少しだけ跡が残っているのが可笑しくて、そして、愛しかった。
(私は、“なお”でいる時間のほうが、もうずっと長くなってる)
肌も、声も、歩き方も――
誰かと過ごす時間のなかで“女性としての自分”が自然になっていくほど、直人としての自分が薄れていく。
スマホを見た。
河合からのメッセージは、明日13時に駅で待ち合わせという短いものだった。
「あまり堅苦しくなく、話せたらいいなと思ってます」
なおは、その文を何度も読み返した。
(“話せたらいい”って、どういう意味だろう)
もしかして、河合も何かを打ち明けようとしている?
あるいは――何かに、もう気づいている?
考えれば考えるほど、眠れなくなる。
(明日、“なお”として私は、どこまで進む覚悟があるんだろう)
翌朝。
シャワーを浴び、ボディローションを丁寧に塗りながら、なおは鏡の前に立った。
肌はつるりとしていて、足先から指先まで“なお”でいる準備は整っていた。
ワイヤー入りのブラを着けると、身体が自然と姿勢を正した。
ストッキングを這わせる感覚に、小さな息が漏れる。
(この装いは、嘘なのか。
それとも、私の本当なのか)
スカートのウエストを整え、リップを引いた唇で、そっとつぶやく。
「……行ってきます」
心の奥で、微かに震える声だった。
河合に会えることは嬉しい。けれど、それと同じくらい怖かった。
(次に会ったら、私、どうするんだろう)
“なお”として恋をして、愛されたいと願っている。
でも、“直人”であることを隠したままでいるということは、いつか裏切ることと同じになるのかもしれない。
金曜日の夜、なおは部屋の全身鏡の前に立っていた。
ベッドには明日着るつもりの服が並べられている。
淡いピンクのブラウスと、落ち着いたグレーのロングスカート。
お気に入りのショーツとストッキングは、もう“特別”ではなくなっていた。
鏡に映る自分の顔を、じっと見つめる。
まつげは軽くカールし、チークの血色も自然に仕上がっている。
髪は肩にかかり、レイヤーが入った前髪が顔を優しく縁取っていた。
(これが、今の“私”)
もう、ウィッグも厚化粧も必要ない。
女の子としてふるまうことは、“演技”ではなくなっていた。
けれど――
(この顔の奥にある“直人”を、河合さんが知ったら……)
喉の奥が、きゅうっと痛くなる。
メイクを落とし、ブラを外したとき、なおは自分の胸元に手をあてた。
平らな胸。
それでも、パッドの形に少しだけ跡が残っているのが可笑しくて、そして、愛しかった。
(私は、“なお”でいる時間のほうが、もうずっと長くなってる)
肌も、声も、歩き方も――
誰かと過ごす時間のなかで“女性としての自分”が自然になっていくほど、直人としての自分が薄れていく。
スマホを見た。
河合からのメッセージは、明日13時に駅で待ち合わせという短いものだった。
「あまり堅苦しくなく、話せたらいいなと思ってます」
なおは、その文を何度も読み返した。
(“話せたらいい”って、どういう意味だろう)
もしかして、河合も何かを打ち明けようとしている?
あるいは――何かに、もう気づいている?
考えれば考えるほど、眠れなくなる。
(明日、“なお”として私は、どこまで進む覚悟があるんだろう)
翌朝。
シャワーを浴び、ボディローションを丁寧に塗りながら、なおは鏡の前に立った。
肌はつるりとしていて、足先から指先まで“なお”でいる準備は整っていた。
ワイヤー入りのブラを着けると、身体が自然と姿勢を正した。
ストッキングを這わせる感覚に、小さな息が漏れる。
(この装いは、嘘なのか。
それとも、私の本当なのか)
スカートのウエストを整え、リップを引いた唇で、そっとつぶやく。
「……行ってきます」
心の奥で、微かに震える声だった。
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