受付バイトは女装が必須?

なな

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第1部:スーツの中のワタシ

第三十章:触れて、崩れかけて

薄暗い室内。
ラウンジのあと、部屋に移ったふたりの間には、まだ一言も会話がなかった。

それでも、気まずさはなかった。
静かな空気が、重たくも優しくもある沈黙を育てていた。

窓際に立つなおの髪が、わずかな空調に揺れた。

(ここから先へ進んだら……きっと、もう戻れない)

それでも、身体の奥には、彼に触れられたいという感情が確かに芽吹いていた。

河合が後ろから近づき、そっとなおの肩に手を置いた。
その指先は震えていない。
けれど、なおの心臓はひどく速く打っていた。

「……なおさん」

名前を呼ばれた瞬間、なおは目を閉じた。

(この声が好き。
 この手に包まれるたび、“女の子”としての私が確かになる気がする)

ゆっくりと、河合の手がなおの背中に沿って腰へと滑る。

その感触が、女の子として整えた下着越しに伝わってきて、思わず身体が跳ねた。

「……ごめん、いや?」

「……違うの、ちょっと……びっくりして……」

恥ずかしさを隠しながら振り返ると、河合はそっと頬に手を添え、額に口づけを落とした。

「大丈夫。無理はしないから」

その言葉に、なおの胸の奥が一度だけ強く疼いた。

ベッドサイドに腰かけ、なおはスカートの裾を自分の手でぎゅっと握りしめた。

(この服も、この髪も、この香りも……全部、“なお”として整えてきたもの)

(でもこの身体は――)

ブラのホックを留めたままの背中に、河合の手が触れた。
肩からストラップをそっと落とされると、背筋が反応する。

「……ねえ、私、ほんとは……」

言いかけた。
けれど、声にならなかった。

(今言ったら、止められる。
 でも、もし言わなかったら、このまま全部……)

手が、下着の上から胸元をなぞる。
何も知らずに触れてくれている彼の優しさが、なおを静かに追い詰めていた。

彼の手が、なおの身体の秘密に近づくその寸前。
なおは小さく、でもはっきりと彼の手を止めた。

「……あの、ごめんなさい。今日は……ちょっと」

河合は驚いたように見つめ、すぐに手を引いた。

「……本当にごめんなさい。変に思わないでください」

「……変に、なんか思いません。
 ただ、ちゃんと気持ちを教えてくれてありがとう」

その言葉に、なおは堪えきれず、小さくうつむいた。

(ありがとう、って言ってくれた。
 でも――きっと、もう気づき始めてる)

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