受付バイトは女装が必須?

なな

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第1部:スーツの中のワタシ

第三十九章:ありのままで、暮らしていく

春の風が、ほんのり甘い。

大学の構内を歩きながら、なおは柔らかな陽の光を浴びていた。
今日は“直人”としての姿。だけど、ブラをつけ、保湿した脚に淡いベージュのパンツを履いている。
肌には微かに香るボディミルク。誰にも気づかれない“なお”の名残が、全身に散らばっていた。

(私は、こうして“なお”を内側に持ったまま、
 毎日を生きてるんだな)

かつては、着替えるたびに切り替えていた“直人”と“なお”の境界線が、今では曖昧になりつつあった。
むしろ、そのどちらもが“私”だと、自然に思える。

バイト先のスタッフルーム。
制服に着替えるとき、真帆がふと声をかけてきた。

「最近のなおちゃん、なんか落ち着いたっていうか……“地に足ついた感”あるよね」

「え、そう?」

「うん。最初の頃はね、もっと“演じてる”って感じだった。
 でも今は、“なお”がそのまま本人なんだなって思える」

「……うん、たしかに。
 “変身”って感覚、もうあんまりないかも」

「そうそう。女装っていうより、“なおちゃんで来てる”って感じ」

その言葉に、少しだけ喉が詰まった。
でも、それは泣きそうなほど嬉しい肯定だった。



休憩時間、美月と近くのカフェに寄った。

「河合さんとは、順調?」

「うん、すごく優しいし……全部、わかったうえで、ちゃんと一緒にいてくれる」

「いいなあ。あたしもそういう恋、したいなあ」

なおは少し笑って、それから一口カフェラテを飲んだ。

「……前まで、“バレること”が怖かった。
 でも今は、“わかってくれてる人たち”の存在だけで、十分って思えるの」

「それってすごいことだよ。
 自分のままで愛されることも、友達でいられることも。
 “どっちか”じゃなくて、“どっちも”って選んだんだもんね」

そう言って微笑む美月の言葉が、まるで春風みたいにやさしく響いた。



その夜、鏡の前で制服を脱ぐ。

ブラのホックを外すと、肌にくっきりとラインが残っていた。
それをなぞる指に、違和感はなかった。

ショーツもストッキングも、もう“衣装”ではない。
心を守るために着るものでもない。
それは“自分らしくいるための選択肢”に変わっていた。

(私は、“男”でも“女”でもなくて、
 “なお”として生きていける)

自分を見つめたその瞳が、優しく笑っていた。

感想 2

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