受付バイトは女装が必須?

なな

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第3部:フェティシュな装い

第六話:なお、名前を刻まれる ― 所有と肯定、その象徴として ―

「プレゼント、もうひとつあるんだ」

河合がそう言って、なおの前に差し出したのは、
小さなベルベットの箱だった。
開けると、中には細く繊細なチョーカー。

黒のサテン地に、小さなシルバーのプレート。
そのプレートには、流れるような筆記体で一言――
**"N."**とだけ、刻まれていた。

「……これ、私の“名前”?」

「うん。“なお”の、“N”。俺だけが知ってる“なお”の印」

河合の声はやわらかく、それでいて背筋に触れるような深さがあった。

「今日は、これを着けて、過ごしてみてほしい」



鏡の前。
なおは慎重にチョーカーを首に巻く。
手の甲にあたるサテンの手触り、首筋を包み込む柔らかな圧。

ちょうど喉元――声を出す場所のすぐ下に、
“私だけのN”が、銀の光で主張している。

(これは、装飾じゃない。印だ。私が、彼のものであるという……)

そう思った瞬間、身体がふっと熱くなった。

その日、なおはふだんよりも背筋を伸ばして歩いた。
コルセットはしていないのに、自然と姿勢がよくなる。
チョーカーが、首にあることを意識するたび、
その“存在を誰かに見せている”ような、誇らしさと緊張感がこみ上げてくる。

「……見えてるかな。誰かに、バレたら……」

でも、同時に
(バレてもいいかもしれない)
と、なおは思っていた。

私には“名前”がある。
“彼”に呼ばれ、“彼”に刻まれた証が、ここにある。

それが、なおにとって、
最初にして最大の“自己肯定”だった。



夜。
帰宅したなおは、チョーカーを外さずそのまま河合の前に立った。

「一日中……つけてたよ」

「うん。ちゃんと“なおさん”だった。
 このNはね、ただの飾りじゃなくて、
 “あなたの存在を肯定するため”のしるしなんだ」

なおはその言葉を聞きながら、
手でそっとチョーカーをなぞった。

“私は、ここにいていい”。
 それが、銀の小さなプレートに刻まれていた。
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