受付バイトは女装が必須?

なな

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第4部:それぞれの想い

4.秘密に触れる、その手前で ― 真帆が見つめた、“なお”の沈黙と揺らぎ ―

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エステが終わって、すべてを着替え終わったあと。
私たちは、同じガラス扉の向こうにあるソファに並んで座っていた。

なおは、髪を手ぐしで直しながら、
「気持ちよかった……ね」と、小さく笑った。

うん、と返したけれど、
私はその笑顔の奥でずっと思っていた。

「気持ちよかった」は、身体だけの話じゃなかったんじゃないかって。

施術中、視線は向けられなかったけど――
音は、聞こえた。

小さく、でも確かに響いた“カチッ”という金属の音。

あの音を聞いたとき、私は一瞬だけ凍りついた。
でも、すぐに思った。

(ああ、この子、何か“守ってる”んだ)

誰にも見えないように。
誰にも触れられないように。

でも、“誰かのため”にだけ許してるものが、あそこにあった。

何も聞かなかった。
何も触れなかった。

けれど、わかってしまった。

私は、なおの“秘密そのもの”には触れていない。
でも、“秘密を抱えている”っていうことの温度には、確かに指先が届いた。

帰り道。
駅に向かうエスカレーターの途中で、私はふと尋ねた。

「なお、最近さ……コルセットとか使ってるでしょ?」

なおは一瞬目を見開いて、
それから、静かにうなずいた。

そのとき、私は確信した。

(やっぱり。
この子は“誰かのために、女の子でいたい”って思ってる)

それは可愛いとか、綺麗とか、性別とか、そんな単純なことじゃない。

“誰かにちゃんと見られている”っていう実感が、
彼女――いや、なおを、ここまで変えたんだと思った。

「なお、今日の雰囲気、すごく柔らかかった」

「そ、そうかな?」

「うん。“誰かを信じてる人の顔”だったよ」

なおはその言葉に少しうつむいて、
でも――口元は、きゅっと笑っていた。

秘密に触れることはしなかった。
でも、“誰かの秘密を支えている人の姿”には、ちゃんと気づいた。

それが、私がとなりにいた意味だったのかもしれない。
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