受付バイトは女装が必須?

なな

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第4部:それぞれの想い

7.「気づかれたくない。でも、気づいてほしい」 ― 美月の恋心、まだ名前のないままに ―

最近、なおのことばかり見ている。

バイト先で、エプロンを直す手つき。
新しく入ったリップに照れてる横顔。
真帆と話してるときの、屈託ない笑顔。

どれも、“女の子”として自然で、柔らかくて――
でも私は、その全部がまぶしすぎて、時々、正面から見られなくなる。

(好き、なのかもしれない)

そう思った瞬間から、
“今まで通り”でいるのが、少しだけ苦しくなった。

ある日、なおと2人きりでシフトが被った日。
閉店後、一緒にカウンターを拭いていて、
ふと、なおがこんなことを言った。

「美月ちゃんって、最初から優しかったよね。
なんか、ちゃんと“女の子として”扱ってくれたっていうか……」

「そりゃ、なおが可愛いからでしょ?」

そう返したのに、
“なお”はその言葉に、ほんの少し目を伏せた。

「……ありがとう。
そう言ってもらえるの、すごく嬉しいんだ」

それを聞いて、私の方こそ言葉を失いそうになった。

(私が言ったことに、こんなに喜ぶなら……
もっと早く、違う言葉を贈っていればよかった)

帰り道。
なおのリップがカバンの中で転がる音がした。

「新しい色、似合ってたよ」

ふと口にしたその一言に、
なおは照れたように微笑んだ。

「河合さんにも言われた、昨日」

その名前を聞いた瞬間、
何かが、胸の奥で静かに沈んだ。

(そっか。
やっぱり、“なお”が見てるのは、私じゃないんだ)

私は、なおの隣に立つ資格がない。
そう思ったわけじゃない。
でも、“今のなお”の横にいるのは、自分じゃないってことくらい、わかってる。

それでも、隣を歩くとき。
電車で少し袖が触れるとき。
笑い声が耳元で弾むとき――

私はまだ、心のどこかで願ってしまう。

「気づかれたくない。でも、気づいてほしい」

恋って、こんなに曖昧で、
苦しくて、でも温かくて。

名前がつかないまま、
私は今日も“なお”のことを目で追ってしまう。
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