受付バイトは女装が必須?

なな

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第4部:それぞれの想い

11.お願い、教えてほしいの ― 可愛がられるだけじゃなく、“なにかをしてあげたい”その気持ち ―

放課後のカフェで、なおがぽつりと口を開いた。

「……ねえ、美月ちゃん。ちょっと、相談してもいい?」

私は、少しだけ胸がざわついた。
こんな風にあらたまって話されるの、いつぶりだっただろう。

なおは、アイスティーをストローでひとくち吸ってから、
視線をカップの縁に落としたまま言った。

「河合さんのことなんだけど……」

(やっぱり)

そう思ったと同時に、胸の奥が、すこしだけ沈んだ。

でもそれと同じくらい、“なお”が自分に話してくれたことが嬉しかった。
私は微笑んで、「うん、なに?」と応えた。

「いつもすごく優しくしてもらってて、ほんとに大事にされてて……
それがすごく嬉しいんだけど……」

言葉を選びながら、なおの頬がすこし赤くなる。

「……たまには、私のほうからも、なにか“ご奉仕”したくて……」

(“ご奉仕”って……なんて素直な言い方)

「えっと、恥ずかしいんだけど……その……
“お口”でのこと、私……やったことなくて……」

(ああ、やっぱりそういう相談)

私は一瞬だけ言葉を失った。
けれど、まっすぐにこちらを見る“なお”の目が、まるで祈るようで――
私はその気持ちを、投げ出すことができなかった。

「とりあえず、さ。リップケアとか、口元の印象って大事だよ」

と、私は立ち上がった。

「ちょっと見に行こ?ドラッグストア。練習も兼ねて、できることしよう」

買い物の帰り、コンビニでプリンとチョコレートムースを買って、
私の部屋へ。
ディルドを出しても良かったけど、ソフトに教えてあげたかった。

なおは白いブラウスのまま、
テーブル越しにスプーンを持って、ちょっと緊張した顔をしていた。

「……これで、ほんとに練習になるのかな」

「うん。口の使い方、舌の動き、あと視線ね。
プリンに向ける目じゃなくて、“相手を見る”目。そう――そういう感じ」

私は教えながら、どこか夢を見ているような気がしていた。

なおの唇がプリンの縁に触れるたび、
ひとさじすくって口に含むたび、
私は息を止めて、その様子を見ていた。

そして――
なおがそっと見上げて、目が合った。

「……これで、喜んでくれるかな。河合さん」

私は、笑ったつもりだった。

でも、心の中では叫んでいた。

    “私に向けてるその目を、私が欲しいなんて言えないでしょ”

プリンが空になったあと。
なおは、ぽつんとつぶやいた。

「……美月ちゃんって、ほんと優しいね。
こういうの、普通は頼めないもん」

私は手を振ってごまかした。

「私、なおのこと、だいじに思ってるから」

(――“好き”だなんて言ったら、この時間は終わってしまうから)

なおは何も気づかずに、
「ありがとうね」と笑って、リップを塗り直した。

鏡の中の“彼女”は、もう完全に“可愛がられる準備のできた女の子”だった。

ご奉仕の仕方を教えたはずなのに、
私はあの笑顔に、なにも返してもらえないまま、
また好きになってしまった。
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