受付バイトは女装が必須?

なな

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第7部:新しい春に、もう一人の“僕”

第9話:着たまま、眠れるだろうか ― スカートの裾のまま、鍵の音を聞きながら ―

受付の片づけを終えたときには、もうビルの外はとっぷりと暗くなっていた。

(終電……まだ大丈夫、だけど)

控え室で着替えをする時間も惜しくて、
柊は制服のまま――
つまり、ウィッグに、化粧に、タイトなスカートのまま、
その姿で、一人暮らしのアパートへと帰ることになった。

実は今日は、バイトに少し遅れてしまっていた。
慌てて現地に向かったため、連絡もうまく取れず――
結果的に、なおさんに預けていた「鍵」は、そのままになっていた。
美月さんがサポートしてくれてイベントは無事に終えられたものの、
自分だけ着替えや装備を外せないまま、夜を迎えてしまった。
なおさんには、今日はこれで帰ると連絡した。



スカートの裾を風が撫でる。
夜の街灯が、ヒールの音に反射する。

誰も、柊の中身が「男」だとは思っていない。
誰にも、気づかれていない――でも、自分の身体には鍵がついている。

(やばい、これ……今、すごく変な感じする)

ハートがドクドクする。
けれど、それは恐怖じゃない。
背徳感に似た快感と、自分だけが知る秘密の高鳴りだった。



アパートにたどり着き、そっと玄関を閉める。

ヒールを脱ぎ、スカートのファスナーに手をかける。
だが、そこで手が止まった。

鏡の前に立つ自分――
制服、化粧、髪、ランジェリー、そしてその奥にある装備。

(……着たまま、もう少しだけ、いたい)

そう思ってしまった。
脱いでしまえば、魔法が解けてしまう気がした。

そのまま、リップだけ落として、
ベッドに身体を横たえた。
スカートのまま。
髪も結い直さずに。

(なおさん、これで寝たことあるのかな……)

ふと、指先がコルセットの端に触れた。
鍵の存在を思い出すと、なぜか安心した。

(“閉じ込められてる”っていうより、“整えられてる”……)

装備がなければ、たぶん今ごろ不安だった。
でも、“これ”がついている今の自分は――
ちゃんと、自分の“輪郭”があるような気がした。

目を閉じた。
まだ少しスカートが肌に当たってくすぐったいけど、
体温が落ち着いてくると、それが**“安心の包まれ”**になっていった。

(もしかして……こうして眠るのも、悪くないのかもしれない)
感想 2

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