受付バイトは女装が必須?

なな

文字の大きさ
112 / 206
第7部:新しい春に、もう一人の“僕”

第11話:整えられる身体 ― 静かに、輪郭が決められていく ―

柊は鏡の中に映る、自分の姿を見つめていた。
ウィッグはまだだけど、制服をまとっているだけで、昨日の“感覚”が蘇ってくる。

(昨日は……なんかもう、すごくて……)

ショーツの下にある装備が、まだ肌にぴったりと収まっている。
身体の“芯”が女の子になってしまったみたいな錯覚と、妙な落ち着き。

そんなとき、控え室に入ってきたのは、なおさんだった。

「おはよう、柊ちゃん。昨日、鍵……そのままで大丈夫だった?」

「……はい、なんとか。……」

恥ずかしさを押し殺して差し出すと、なおさんはふんわりと笑った。

「えらいえらい。慣れないまま一晩過ごすの、きっと不安だったよね」

(“えらい”って、そんな……)

顔が熱くなるのを感じながら、なおの隣に腰を下ろす。
その距離が近いだけで、緊張してしまうのはなぜだろう。

「ねえ、柊ちゃん。コルセット、興味ある?」


なおさんはそう言って、棚の奥からひとつのケースを取り出す。
中には、しっかりとした布地と金属のボーンが縫い込まれた――“コルセット”。
背面は編み上げ、サイドには留め具。ウエストからヒップにかけて、自然と曲線が導かれるような美しいフォルム。
 

「よかったら、着けてみる?」

それは、問いかけというより、やさしい誘導だった。

 

控え室のカーテン越し、下着と貞操具だけの姿になった柊は、
なおさんの手を借りて、コルセットを巻いていく。

「ちょっと息吸って、はい……ぎゅっ」

ぎゅう、と背中が締まる。
内側の骨が、柊の身体を縛り、矯正していく。
もう一段階、締め紐が引かれるたび、身体の中が別のかたちへ整っていく。

(……なんだろう、この感覚)

苦しいのに、どこか心地いい。
自由が奪われるのに、安心する。

それは、鍵のついた装備をつけているときと、どこか似ていた。
けれどもっと、「形」と「輪郭」がはっきりする。

 

「うん、似合ってる。背筋がきれいに見えるよ」

鏡越しに、なおさんが微笑む。
自分の姿を見る。
腰がくびれ、ラインが女性のそれに近づいている。

(わたし、こんな……細く見えるんだ)

肩の力を抜くと、胸元から腰にかけてのラインが際立ち、
それだけで“ちゃんと女の子”に見える気がした。

 

「ワンピース、上から着てみようか」
「……はい」

言われるがままに、なおさんが選んでくれた薄いピンクのワンピースに袖を通す。

ファスナーを上げると、
まるで最初からこの服のために作られた身体のように、ぴたりと収まった。

「わあ……」
思わず声が出た。

布がやさしくコルセットの曲線に沿って落ちていく。
肩から腰、腰から太ももへ――その全体が“整えられた私”で満たされていく。

「これ一人では脱げないでしょ」

その言葉にドキドキが加わる。
 

「今日一日、これで過ごしてみる?」

そう言ったなおさんの声が、心にすとんと落ちた。

 

◇ ◇ ◇

その日の午後。
柊は、そのワンピースのまま、コルセットの締めつけを感じながら受付に立っていた。

椅子に座るとき、呼吸するとき、立ち上がるとき、
一つ一つの動作が“コルセットの存在”を思い出させてくれる。

(でも、これ……いいかも)

自由がないぶん、乱れない。
自分の中の“女の子”が、内側から保たれている気がした。

まるで、見えない支柱が、自分という存在を成立させてくれているみたいに。

 

受付を終えた帰り道。
夜風がスカートを揺らすたび、身体の芯に“整えられた私”の実感がよみがえる。

貞操具の締めつけと、コルセットの支配。

それは、女装の先にあった「もう一つの快感」だった。

 

(……このまま、進んでも、いいのかな)

ふと、そんな思いがよぎる。

でも、答えはまだ出さない。
この身体で、もう少しだけ――
“わたし”の輪郭を、感じていたかった。
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。