受付バイトは女装が必須?

なな

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第7部:新しい春に、もう一人の“僕”

第12話:つながれる脚 ― 歩幅の狭さと、鼓動の高さと ―

受付を終えて控え室に戻った瞬間、ほっと力が抜けた。

ワンピースの内側、締めつけられた腰がほんの少しだけ軋む。
コルセットを着けて一日を過ごすのは初めてで――でも、悪くなかった。

「おつかれさま。今日もすごくきれいだったよ」

なおさんがそう言って、ペットボトルのお茶を差し出してくれる。

「ありがとうございます……あの、ちょっとだけ、歩き方が……」

「うん、違ったでしょ? コルセットしてると、自然と歩幅も変わるし、立ち居振る舞いも整うんだよね」

そう言って、なおさんは、ひとつの黒いポーチを取り出した。

 

「……もう少し、整えてみたい?」

中には、細くて柔らかい合皮のベルトと、小さなチェーンが入っていた。

「これはね、太ももに巻くの。チェーンで軽く脚をつなぐと、歩幅が自然と小さくなるの。そうするとね、もっと、女の子らしい動きになるよ」

「脚を……?」

柊はそのイメージに、一瞬戸惑う。
でも――なぜか、心がざわめいた。
今日一日、ワンピースの裾から見える足を意識して過ごしていた自分がいた。
見え方も、見られ方も、気にしてしまっていた。

その脚が、なおさんに“もっと女の子らしくなる”って言ってもらえるなんて。


「……お願い、します」


 

控え室の長椅子に腰掛けて、ワンピースの裾をそっとたくし上げる。
ショーツの上から覗く太ももに、なおさんが丁寧にベルトを巻いてくれる。

「きつすぎない?……じゃあ、ここと、こっち。うん、こうして――はい」

ふたつのベルトの間に、短いチェーンがカチリと繋がる。

立ち上がると――すぐに分かった。

(……歩ける。でも、歩幅が……狭い)

自然と内股になって、腰の振り方も、足の出し方も変わる。
“作らされた”動きが、恥ずかしいはずなのに、どこか誇らしい。

「うん、すごく可愛い。歩くとき、足音も静かになるしね」

「……なんか、変な感じします」

「でも?」

「……でも、ちょっと、好きかも」

「これにもね、鍵つけられるんだ。」

なおはそういって、鍵を付けてくれた。 

 

◇ ◇ ◇

 

翌朝。
目覚ましの音が鳴っても、ベッドの上でしばらく動けなかった。

ワンピースは脱いだけど、コルセットはまだ外してない。
ショーツの下には――小さな鍵がついた装備がある。

あのチェーンの鍵は外してくれたけれど、貞操具はそのまま鍵をしてもらっていて
まだ身体の内側に“あの感覚”が残ってる。

 

鏡の前に立ち、コルセットの上からシャツを羽織る。
地毛の黒髪を結び、ネクタイを締め、ズボンに足を通す。

でも、下着は昨日のままのショーツ。
身体のラインを包む締めつけが、心に“昨日の私”を残している。

 

(外見は男の子に戻った。だけど――中身は昨日のまま)

胸元のボタンを留めながら、思わず頬が赤くなる。
大学へ向かう道のり、そのすべてが「秘密の自分」を運んでいる気がした。

 

 

◇ ◇ ◇

 

大学のキャンパス。
いつも通りの風景、いつも通りの友人の声。

「柊、おはよー!今日、レポート提出だっけ?」

「……うん、ありがとう」

何も変わらない、はずなのに。

座ったとき、机に寄ったとき、コルセットが身体を支配しているのを感じる。
ショーツの内側にある“鍵のついたもの”が、脚の動きに微かに制限をかけてくる。

バレるわけがない。
でも、バレたら――と、想像するたびに喉が渇いた。

でもそれ以上に、
(誰にも気づかれずに、こうしていられる)
その事実が、鼓動を高める。

誰にも知られない秘密が、柊を“保って”いる。

 

 

放課後、教室を出るとき、ふと足元に目がいった。

ズボン越しの脚――昨日の女の子のような動きは、消えてしまっているのに、
身体の奥に、まだ“その感覚”がある。

内側でつながれている、“昨日の私”が残っている。

 

(……もしかして)

(“普通の服”のほうが、コスプレだったのかも)

そう思った瞬間、柊はひとつ深呼吸をして、歩き出した。

まだ、誰にも見つからないように。
でも、ちゃんと――“わたし”のままで。
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