受付バイトは女装が必須?

なな

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第8部:ふたりの鍵

第一章:柊の疼き、鍵の重み

カチャリ、と音がした。

それはごく小さな音だったのに、柊の身体はびくんと跳ねた。
シャツの裾をめくり、下腹部に手を伸ばす。薄い肌の奥に、冷たい金属が確かに噛み合っていた。
細い鎖の先にぶら下がる、小さな鍵──いや、“それがない”ことを、柊は確認していた。

「なおさんが、持ってる……」

ぽつりと、独り言のように呟く。
その言葉に応える者はいない。けれどその“欠如”こそが、彼の身体の深部に存在を刻みつけていた。

下着の中で、プラスチックの硬質な異物が密着している。
もっとも大切な“自分”の部分が、皮膚越しに奥へ奥へと押し込まれ、封じられ、施錠されている。

──動けない。自由にはなれない。でも、それが、落ち着く。

柊はそう感じ始めていた。



講義の教室。
硬い椅子に腰を下ろすたび、肛門の奥をプラグがわずかに擦った。
不意に足を組みかえただけで、貞操具の内側に違和感が走る。痛みではない。疼き。微熱にも似た粘つく感覚。

前の席でノートを取っていた佑真が、ふと振り返った。

「……おい、柊。さっきから顔、赤くね?」

「え……? あ、暑いだけ、かな……」

咄嗟にうつむく。
口元が勝手に強張るのを、どうにか笑みに変えようとする。けれどそのとき、自分がどんな表情を浮かべていたか、もう覚えていなかった。

佑真の視線が腰のあたりに落ちた気がして、柊はそっと脚を閉じる。
スラックスの下に、女の子用の薄いショーツが貼りついていることを思い出し、心臓が強く跳ねた。

──これ、バレたら、どう思われるんだろう。

だけど──

(……ちょっと、見られてみたい、かも)

思ってはいけないその願望が、頭の奥で甘く渦を巻く。

講義が終わり、廊下に出た瞬間、スマホが震えた。

 なおさん:
    鍵、ちゃんと預かってるからね。
    今日も我慢できるかな?がんばって。

柊の足が止まる。
汗ばんだ手がスマホを強く握りしめる。

画面の向こうの“なお”は、きっと微笑んでこれを打っていた。
あの日、着けてくれた貞操具の留め具が、最後にカチリと鳴った瞬間。柊の中で、何かが壊れて、何かが生まれた。

──このまま、どうなっていくんだろう。
自分はどこまで“されてしまう”んだろう。
でも、それを決めるのは、もう自分じゃない。

歩きながら、スラックスの裏で鍵穴が触れるたび、
柊は、ほんの少し背筋を伸ばして歩いていた。

(なおさんが持ってる、僕の鍵。……それが、いちばん、安心する)
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