2 / 17
2 やれと言われれば、やりますその1
しおりを挟む
ここで、私の連戦連敗のお見合い記録をご覧いただこう。
アプリもマッチングサービスも、申し込んではいるが、ことごとく空振り状態が続いている。なにせ外部から強い意志でも働いているんじゃないだろうかと思えるくらいの、私から半径3メートル以内は鉄壁の防御陣が組まれていた。
ようやくデートまで漕ぎつけても、なぜか1回目でお断りメールが届く。
――どうして?この平凡な見た目のせい?それとも、私って、そんなに欠点だらけなの?
そんな毎日が続くと流石に、心は『諦め』と『命を大切に』モードに入っていく。
32歳、お肌の曲がり角とはよく言うが、今の私には、心と体のバランスが大切なのだ。
三年前に譲渡会で見つけた愛猫ラブちゃん。茶虎の背中を無心で撫でると荒んだ心がすうーと落ち着くんだ。
それなのに、ここのところ連日のトラブル続きで心も体も疲弊していた。
極めつけが、この佐々木部長。
「この間なんて、手が滑って、よりにもよって、佐々木部長のコーヒーカップを壊してしまうし……ちょっと、カッコいいと思っていた私が、バカだったのよ。」
一年前に佐々木部長が来てからというもの、私は心の安息が徐々に侵食されていく。佐々木部長が赴任して、まもなく私が主任に抜擢されたのだ。
「どうして、私が……?それは、地元採用の中では、私が一番年長だから?」
初めて、佐々木部長がオフィス内に入ってきたときは、掃き溜め状態だった。身長183センチという長身とスーツの上からでも分かる鍛えられた肉体、何人もの秘書を従えて歩いてきた姿は、一目で只ものではないことが分かる。左手の薬指に指輪がないことを見とめるや、オフィスの女子たちと言ったら、その日は、もう目からハートマークが飛び出していたほどのご乱行ぶりであった。
A「キャー、佐々木部長、海外赴任から戻ってきたばかりなんですって。」
B「キャッキャッ、本社の社長の遠縁にあたるらしいわよ。」
C「キャーウフフ、もし、結婚できたら、玉の輿じゃない。恋人はいるのかしら……」
興味がなさそうなふりを装いつつ、もちろん私は、耳をダンボにして聞いていたわよ。
A「ねえ、いま私目が合ったわよ。どうしましょう。」
B「違うわよ、私よ、私に微笑んでくれたのよ。」
C「えー、私も目が合ったのよ。カッコイイ……」
みんな口々に言っているが、私も目が合ったような。でも、きっと気のせいだよね。
A「キャー、こっちに見てるわ」
B「どうしよう。ドキドキしちゃう」
C「どうしよう。沼田さん、佐々木部長がこっちに来るわ。」
「分かる、分かるよみんな、でも少し落ち着こうよ。この状況はどう見ても、ありえないんだから……」
――そう、幻影、私に向かって、ふわりと笑った超絶クールイケメン部長が歩いてくるなんて、あるはずがないんだから。
「えっ、嘘でしょ……」
だが、そのクールイケメン部長は、私に向かって手招いた。瞳が少し和らいだ気がした。
「沼田さん、ちょっと、こっちきて。」
A「キャー、何で?」
B「どうして、ズルい沼田さん!」
C「二人っきりなんて!そんなダメよ!」
いや、私も、訳がわからないのよ。なぜ、呼ばれたかが。周囲の目が私に一斉に向けられる中、私の目は、その逞しい部長の背中を追っていく。
「ごめん、呼ばれたから行ってくる。」
――心臓がどきどきする。どうしよう。
落ち着かない胸を両手で抑え、2、3度深呼吸する。
トントン
「失礼します!初めまして、沼田明子です。よろしくお願いいたします。」
だが、頭を上げた瞬間、尖った氷のようにめっぽう鋭い視線が私に突き刺さった。
「はあ?そんなことは、聞いていない。」
それが、赴任したばかりの部長の私に対する第一声だった。
「ここ半年分の業務成績を今すぐに俺のアドレスに送ってくれ。」
私は、混乱していた。なにか失礼なことをしただろうかと。
「いますぐ?私がですか?」
「君、出来ないのか?ここの最年長だろ?」
『出来て当然』と、言わんばかりの強い口調だった。私の業務外なんだが、こいつは予想外のとんだ刺客だった。
――落ち着け、わたし、三年、三年だ。三年耐えれば、こいつは本社に戻ることが決まっている、やんごとなき身分の方だ。無事に耐えれば……
「申し訳ございませんが、通常業務もありますし、今すぐには……」
「俺の仕事は、ここの業務改善だ。徹底的にコストカットするつもりだ。……これくらい、半日もあればできるだろ?」
言い淀む私に、部長のズバッとした言葉が刺さる。
――視線が痛いです。ふわりと笑ったように見えた視線は、私の欲求不満の願望が見せた幻の微笑みでした。
「分かりました。今日中には必ず仕上げます。」
陽気に照らされているはずの部長の部屋は、それはとても極寒の寒さだった。彼の後ろには、猛吹雪のような氷の豪雪地帯が見えていた。
「やれと言われれば、やりますよ。この佐々木クソ部長……」
私の背後にも、部長の部屋から乗り移ってきた吹雪が吹き荒れていた。
自分のパソコンの前に座り、腕をまくり上げ、これだと思うファイルを片っ端から引っ張り出す。半年分だから、この辺かな。何しろ前の部長がやっていたことだから、どう閉じているのか分からない。
私の慌てた様子を見て隣の後輩が首を傾げる。
「沼田さん、何かあったんですか?」
「急ぎで半年分の業務成績を作らなきゃならないから、ごめんね、そっちは任せたよ。」
「うわー、ご愁傷様です……。前の部長は、その場のノリでやってましたからね。……手伝うことがあれば言ってくださいね。」
「うん。ありがとう……」
――もう最悪だ。そんな連続が、ずっと続いている。
ピッ
内線が鳴る。
『……沼田、ちょっと……』
――ほら、また佐々木部長からの呼び出しだ。今日こそは、早く帰らなきゃ。お見合いが待っている。
つづく
アプリもマッチングサービスも、申し込んではいるが、ことごとく空振り状態が続いている。なにせ外部から強い意志でも働いているんじゃないだろうかと思えるくらいの、私から半径3メートル以内は鉄壁の防御陣が組まれていた。
ようやくデートまで漕ぎつけても、なぜか1回目でお断りメールが届く。
――どうして?この平凡な見た目のせい?それとも、私って、そんなに欠点だらけなの?
そんな毎日が続くと流石に、心は『諦め』と『命を大切に』モードに入っていく。
32歳、お肌の曲がり角とはよく言うが、今の私には、心と体のバランスが大切なのだ。
三年前に譲渡会で見つけた愛猫ラブちゃん。茶虎の背中を無心で撫でると荒んだ心がすうーと落ち着くんだ。
それなのに、ここのところ連日のトラブル続きで心も体も疲弊していた。
極めつけが、この佐々木部長。
「この間なんて、手が滑って、よりにもよって、佐々木部長のコーヒーカップを壊してしまうし……ちょっと、カッコいいと思っていた私が、バカだったのよ。」
一年前に佐々木部長が来てからというもの、私は心の安息が徐々に侵食されていく。佐々木部長が赴任して、まもなく私が主任に抜擢されたのだ。
「どうして、私が……?それは、地元採用の中では、私が一番年長だから?」
初めて、佐々木部長がオフィス内に入ってきたときは、掃き溜め状態だった。身長183センチという長身とスーツの上からでも分かる鍛えられた肉体、何人もの秘書を従えて歩いてきた姿は、一目で只ものではないことが分かる。左手の薬指に指輪がないことを見とめるや、オフィスの女子たちと言ったら、その日は、もう目からハートマークが飛び出していたほどのご乱行ぶりであった。
A「キャー、佐々木部長、海外赴任から戻ってきたばかりなんですって。」
B「キャッキャッ、本社の社長の遠縁にあたるらしいわよ。」
C「キャーウフフ、もし、結婚できたら、玉の輿じゃない。恋人はいるのかしら……」
興味がなさそうなふりを装いつつ、もちろん私は、耳をダンボにして聞いていたわよ。
A「ねえ、いま私目が合ったわよ。どうしましょう。」
B「違うわよ、私よ、私に微笑んでくれたのよ。」
C「えー、私も目が合ったのよ。カッコイイ……」
みんな口々に言っているが、私も目が合ったような。でも、きっと気のせいだよね。
A「キャー、こっちに見てるわ」
B「どうしよう。ドキドキしちゃう」
C「どうしよう。沼田さん、佐々木部長がこっちに来るわ。」
「分かる、分かるよみんな、でも少し落ち着こうよ。この状況はどう見ても、ありえないんだから……」
――そう、幻影、私に向かって、ふわりと笑った超絶クールイケメン部長が歩いてくるなんて、あるはずがないんだから。
「えっ、嘘でしょ……」
だが、そのクールイケメン部長は、私に向かって手招いた。瞳が少し和らいだ気がした。
「沼田さん、ちょっと、こっちきて。」
A「キャー、何で?」
B「どうして、ズルい沼田さん!」
C「二人っきりなんて!そんなダメよ!」
いや、私も、訳がわからないのよ。なぜ、呼ばれたかが。周囲の目が私に一斉に向けられる中、私の目は、その逞しい部長の背中を追っていく。
「ごめん、呼ばれたから行ってくる。」
――心臓がどきどきする。どうしよう。
落ち着かない胸を両手で抑え、2、3度深呼吸する。
トントン
「失礼します!初めまして、沼田明子です。よろしくお願いいたします。」
だが、頭を上げた瞬間、尖った氷のようにめっぽう鋭い視線が私に突き刺さった。
「はあ?そんなことは、聞いていない。」
それが、赴任したばかりの部長の私に対する第一声だった。
「ここ半年分の業務成績を今すぐに俺のアドレスに送ってくれ。」
私は、混乱していた。なにか失礼なことをしただろうかと。
「いますぐ?私がですか?」
「君、出来ないのか?ここの最年長だろ?」
『出来て当然』と、言わんばかりの強い口調だった。私の業務外なんだが、こいつは予想外のとんだ刺客だった。
――落ち着け、わたし、三年、三年だ。三年耐えれば、こいつは本社に戻ることが決まっている、やんごとなき身分の方だ。無事に耐えれば……
「申し訳ございませんが、通常業務もありますし、今すぐには……」
「俺の仕事は、ここの業務改善だ。徹底的にコストカットするつもりだ。……これくらい、半日もあればできるだろ?」
言い淀む私に、部長のズバッとした言葉が刺さる。
――視線が痛いです。ふわりと笑ったように見えた視線は、私の欲求不満の願望が見せた幻の微笑みでした。
「分かりました。今日中には必ず仕上げます。」
陽気に照らされているはずの部長の部屋は、それはとても極寒の寒さだった。彼の後ろには、猛吹雪のような氷の豪雪地帯が見えていた。
「やれと言われれば、やりますよ。この佐々木クソ部長……」
私の背後にも、部長の部屋から乗り移ってきた吹雪が吹き荒れていた。
自分のパソコンの前に座り、腕をまくり上げ、これだと思うファイルを片っ端から引っ張り出す。半年分だから、この辺かな。何しろ前の部長がやっていたことだから、どう閉じているのか分からない。
私の慌てた様子を見て隣の後輩が首を傾げる。
「沼田さん、何かあったんですか?」
「急ぎで半年分の業務成績を作らなきゃならないから、ごめんね、そっちは任せたよ。」
「うわー、ご愁傷様です……。前の部長は、その場のノリでやってましたからね。……手伝うことがあれば言ってくださいね。」
「うん。ありがとう……」
――もう最悪だ。そんな連続が、ずっと続いている。
ピッ
内線が鳴る。
『……沼田、ちょっと……』
――ほら、また佐々木部長からの呼び出しだ。今日こそは、早く帰らなきゃ。お見合いが待っている。
つづく
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
虚弱姫はコワモテ将軍の筋肉に触りたい
隙間ちほ
恋愛
無骨な英雄×病弱な筋肉フェチ姫
辺境伯の末娘エルナは、領軍の英雄マテウスとの結婚が決まった。政略結婚――のはずが、実は姫は将軍の熱烈なファン。ノリノリで嫁ぐ一方、当のマテウスは「か弱い姫君に嫌われている」と思い込み、距離を取ってしまう……。
筋肉と鼻血とすれ違いラブコメ。
超高速展開、サクッと読めます。
『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜
水都 ミナト
恋愛
マリリン・モントワール伯爵令嬢。
実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。
地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。
「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」
※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。
※カクヨム様、なろう様でも公開しています。
貧乏子爵令嬢ですが、愛人にならないなら家を潰すと脅されました。それは困る!
よーこ
恋愛
図書室での読書が大好きな子爵令嬢。
ところが最近、図書室で騒ぐ令嬢が現れた。
その令嬢の目的は一人の見目の良い伯爵令息で……。
短編です。
地味令嬢の私が婚約破棄された結果、なぜか最強王子に溺愛されてます
白米
恋愛
侯爵家の三女・ミレイアは、控えめで目立たない“地味令嬢”。
特に取り柄もなく、華やかな社交界ではいつも壁の花。だが幼いころに交わされた約束で、彼女は王弟・レオンハルト殿下との婚約者となっていた。
だがある日、突然の婚約破棄通告――。
「やはり君とは釣り合わない」
そう言い放ったのは、表向きには完璧な王弟殿下。そしてその横には、社交界の華と呼ばれる公爵令嬢の姿が。
悲しみも怒りも感じる間もなく、あっさりと手放されたミレイア。
しかしその瞬間を見ていたのが、王家随一の武闘派にして“最強”と噂される第一王子・ユリウスだった。
「……くだらん。お前を手放すなんて、あいつは見る目がないな」
「よければ、俺が貰ってやろうか?」
冗談かと思いきや、なぜか本気のご様子!?
次の日には「俺の婚約者として紹介する」と言われ、さらには
「笑った顔が見たい」「他の男の前で泣くな」
――溺愛モードが止まらない!
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる