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2 やれと言われれば、やりますその1
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ここで、私の連戦連敗のお見合い記録をご覧いただこう。
アプリもマッチングサービスも、申し込んではいるが、ことごとく空振り状態が続いている。なにせ外部から強い意志でも働いているんじゃないだろうかと思えるくらいの、私から半径3メートル以内は鉄壁の防御陣が組まれていた。
ようやくデートまで漕ぎつけても、なぜか1回目でお断りメールが届く。
――どうして?この平凡な見た目のせい?それとも、私って、そんなに欠点だらけなの?
そんな毎日が続くと流石に、心は『諦め』と『命を大切に』モードに入っていく。
32歳、お肌の曲がり角とはよく言うが、今の私には、心と体のバランスが大切なのだ。
三年前に譲渡会で見つけた愛猫ラブちゃん。茶虎の背中を無心で撫でると荒んだ心がすうーと落ち着くんだ。
それなのに、ここのところ連日のトラブル続きで心も体も疲弊していた。
極めつけが、この佐々木部長。
「この間なんて、手が滑って、よりにもよって、佐々木部長のコーヒーカップを壊してしまうし……ちょっと、カッコいいと思っていた私が、バカだったのよ。」
一年前に佐々木部長が来てからというもの、私は心の安息が徐々に侵食されていく。佐々木部長が赴任して、まもなく私が主任に抜擢されたのだ。
「どうして、私が……?それは、地元採用の中では、私が一番年長だから?」
初めて、佐々木部長がオフィス内に入ってきたときは、掃き溜め状態だった。身長183センチという長身とスーツの上からでも分かる鍛えられた肉体、何人もの秘書を従えて歩いてきた姿は、一目で只ものではないことが分かる。左手の薬指に指輪がないことを見とめるや、オフィスの女子たちと言ったら、その日は、もう目からハートマークが飛び出していたほどのご乱行ぶりであった。
A「キャー、佐々木部長、海外赴任から戻ってきたばかりなんですって。」
B「キャッキャッ、本社の社長の遠縁にあたるらしいわよ。」
C「キャーウフフ、もし、結婚できたら、玉の輿じゃない。恋人はいるのかしら……」
興味がなさそうなふりを装いつつ、もちろん私は、耳をダンボにして聞いていたわよ。
A「ねえ、いま私目が合ったわよ。どうしましょう。」
B「違うわよ、私よ、私に微笑んでくれたのよ。」
C「えー、私も目が合ったのよ。カッコイイ……」
みんな口々に言っているが、私も目が合ったような。でも、きっと気のせいだよね。
A「キャー、こっちに見てるわ」
B「どうしよう。ドキドキしちゃう」
C「どうしよう。沼田さん、佐々木部長がこっちに来るわ。」
「分かる、分かるよみんな、でも少し落ち着こうよ。この状況はどう見ても、ありえないんだから……」
――そう、幻影、私に向かって、ふわりと笑った超絶クールイケメン部長が歩いてくるなんて、あるはずがないんだから。
「えっ、嘘でしょ……」
だが、そのクールイケメン部長は、私に向かって手招いた。瞳が少し和らいだ気がした。
「沼田さん、ちょっと、こっちきて。」
A「キャー、何で?」
B「どうして、ズルい沼田さん!」
C「二人っきりなんて!そんなダメよ!」
いや、私も、訳がわからないのよ。なぜ、呼ばれたかが。周囲の目が私に一斉に向けられる中、私の目は、その逞しい部長の背中を追っていく。
「ごめん、呼ばれたから行ってくる。」
――心臓がどきどきする。どうしよう。
落ち着かない胸を両手で抑え、2、3度深呼吸する。
トントン
「失礼します!初めまして、沼田明子です。よろしくお願いいたします。」
だが、頭を上げた瞬間、尖った氷のようにめっぽう鋭い視線が私に突き刺さった。
「はあ?そんなことは、聞いていない。」
それが、赴任したばかりの部長の私に対する第一声だった。
「ここ半年分の業務成績を今すぐに俺のアドレスに送ってくれ。」
私は、混乱していた。なにか失礼なことをしただろうかと。
「いますぐ?私がですか?」
「君、出来ないのか?ここの最年長だろ?」
『出来て当然』と、言わんばかりの強い口調だった。私の業務外なんだが、こいつは予想外のとんだ刺客だった。
――落ち着け、わたし、三年、三年だ。三年耐えれば、こいつは本社に戻ることが決まっている、やんごとなき身分の方だ。無事に耐えれば……
「申し訳ございませんが、通常業務もありますし、今すぐには……」
「俺の仕事は、ここの業務改善だ。徹底的にコストカットするつもりだ。……これくらい、半日もあればできるだろ?」
言い淀む私に、部長のズバッとした言葉が刺さる。
――視線が痛いです。ふわりと笑ったように見えた視線は、私の欲求不満の願望が見せた幻の微笑みでした。
「分かりました。今日中には必ず仕上げます。」
陽気に照らされているはずの部長の部屋は、それはとても極寒の寒さだった。彼の後ろには、猛吹雪のような氷の豪雪地帯が見えていた。
「やれと言われれば、やりますよ。この佐々木クソ部長……」
私の背後にも、部長の部屋から乗り移ってきた吹雪が吹き荒れていた。
自分のパソコンの前に座り、腕をまくり上げ、これだと思うファイルを片っ端から引っ張り出す。半年分だから、この辺かな。何しろ前の部長がやっていたことだから、どう閉じているのか分からない。
私の慌てた様子を見て隣の後輩が首を傾げる。
「沼田さん、何かあったんですか?」
「急ぎで半年分の業務成績を作らなきゃならないから、ごめんね、そっちは任せたよ。」
「うわー、ご愁傷様です……。前の部長は、その場のノリでやってましたからね。……手伝うことがあれば言ってくださいね。」
「うん。ありがとう……」
――もう最悪だ。そんな連続が、ずっと続いている。
ピッ
内線が鳴る。
『……沼田、ちょっと……』
――ほら、また佐々木部長からの呼び出しだ。今日こそは、早く帰らなきゃ。お見合いが待っている。
つづく
アプリもマッチングサービスも、申し込んではいるが、ことごとく空振り状態が続いている。なにせ外部から強い意志でも働いているんじゃないだろうかと思えるくらいの、私から半径3メートル以内は鉄壁の防御陣が組まれていた。
ようやくデートまで漕ぎつけても、なぜか1回目でお断りメールが届く。
――どうして?この平凡な見た目のせい?それとも、私って、そんなに欠点だらけなの?
そんな毎日が続くと流石に、心は『諦め』と『命を大切に』モードに入っていく。
32歳、お肌の曲がり角とはよく言うが、今の私には、心と体のバランスが大切なのだ。
三年前に譲渡会で見つけた愛猫ラブちゃん。茶虎の背中を無心で撫でると荒んだ心がすうーと落ち着くんだ。
それなのに、ここのところ連日のトラブル続きで心も体も疲弊していた。
極めつけが、この佐々木部長。
「この間なんて、手が滑って、よりにもよって、佐々木部長のコーヒーカップを壊してしまうし……ちょっと、カッコいいと思っていた私が、バカだったのよ。」
一年前に佐々木部長が来てからというもの、私は心の安息が徐々に侵食されていく。佐々木部長が赴任して、まもなく私が主任に抜擢されたのだ。
「どうして、私が……?それは、地元採用の中では、私が一番年長だから?」
初めて、佐々木部長がオフィス内に入ってきたときは、掃き溜め状態だった。身長183センチという長身とスーツの上からでも分かる鍛えられた肉体、何人もの秘書を従えて歩いてきた姿は、一目で只ものではないことが分かる。左手の薬指に指輪がないことを見とめるや、オフィスの女子たちと言ったら、その日は、もう目からハートマークが飛び出していたほどのご乱行ぶりであった。
A「キャー、佐々木部長、海外赴任から戻ってきたばかりなんですって。」
B「キャッキャッ、本社の社長の遠縁にあたるらしいわよ。」
C「キャーウフフ、もし、結婚できたら、玉の輿じゃない。恋人はいるのかしら……」
興味がなさそうなふりを装いつつ、もちろん私は、耳をダンボにして聞いていたわよ。
A「ねえ、いま私目が合ったわよ。どうしましょう。」
B「違うわよ、私よ、私に微笑んでくれたのよ。」
C「えー、私も目が合ったのよ。カッコイイ……」
みんな口々に言っているが、私も目が合ったような。でも、きっと気のせいだよね。
A「キャー、こっちに見てるわ」
B「どうしよう。ドキドキしちゃう」
C「どうしよう。沼田さん、佐々木部長がこっちに来るわ。」
「分かる、分かるよみんな、でも少し落ち着こうよ。この状況はどう見ても、ありえないんだから……」
――そう、幻影、私に向かって、ふわりと笑った超絶クールイケメン部長が歩いてくるなんて、あるはずがないんだから。
「えっ、嘘でしょ……」
だが、そのクールイケメン部長は、私に向かって手招いた。瞳が少し和らいだ気がした。
「沼田さん、ちょっと、こっちきて。」
A「キャー、何で?」
B「どうして、ズルい沼田さん!」
C「二人っきりなんて!そんなダメよ!」
いや、私も、訳がわからないのよ。なぜ、呼ばれたかが。周囲の目が私に一斉に向けられる中、私の目は、その逞しい部長の背中を追っていく。
「ごめん、呼ばれたから行ってくる。」
――心臓がどきどきする。どうしよう。
落ち着かない胸を両手で抑え、2、3度深呼吸する。
トントン
「失礼します!初めまして、沼田明子です。よろしくお願いいたします。」
だが、頭を上げた瞬間、尖った氷のようにめっぽう鋭い視線が私に突き刺さった。
「はあ?そんなことは、聞いていない。」
それが、赴任したばかりの部長の私に対する第一声だった。
「ここ半年分の業務成績を今すぐに俺のアドレスに送ってくれ。」
私は、混乱していた。なにか失礼なことをしただろうかと。
「いますぐ?私がですか?」
「君、出来ないのか?ここの最年長だろ?」
『出来て当然』と、言わんばかりの強い口調だった。私の業務外なんだが、こいつは予想外のとんだ刺客だった。
――落ち着け、わたし、三年、三年だ。三年耐えれば、こいつは本社に戻ることが決まっている、やんごとなき身分の方だ。無事に耐えれば……
「申し訳ございませんが、通常業務もありますし、今すぐには……」
「俺の仕事は、ここの業務改善だ。徹底的にコストカットするつもりだ。……これくらい、半日もあればできるだろ?」
言い淀む私に、部長のズバッとした言葉が刺さる。
――視線が痛いです。ふわりと笑ったように見えた視線は、私の欲求不満の願望が見せた幻の微笑みでした。
「分かりました。今日中には必ず仕上げます。」
陽気に照らされているはずの部長の部屋は、それはとても極寒の寒さだった。彼の後ろには、猛吹雪のような氷の豪雪地帯が見えていた。
「やれと言われれば、やりますよ。この佐々木クソ部長……」
私の背後にも、部長の部屋から乗り移ってきた吹雪が吹き荒れていた。
自分のパソコンの前に座り、腕をまくり上げ、これだと思うファイルを片っ端から引っ張り出す。半年分だから、この辺かな。何しろ前の部長がやっていたことだから、どう閉じているのか分からない。
私の慌てた様子を見て隣の後輩が首を傾げる。
「沼田さん、何かあったんですか?」
「急ぎで半年分の業務成績を作らなきゃならないから、ごめんね、そっちは任せたよ。」
「うわー、ご愁傷様です……。前の部長は、その場のノリでやってましたからね。……手伝うことがあれば言ってくださいね。」
「うん。ありがとう……」
――もう最悪だ。そんな連続が、ずっと続いている。
ピッ
内線が鳴る。
『……沼田、ちょっと……』
――ほら、また佐々木部長からの呼び出しだ。今日こそは、早く帰らなきゃ。お見合いが待っている。
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