315 / 526
#314 地球防衛はベランダから
しおりを挟む
その猫は急に現れたんだ。
ベランダでふてぶてしく尻尾を振っているのを見つけたとき、最初はただの野良猫だと思った。だけど、目が合った瞬間、妙な感覚が走った。
「おい。お前、聞いてるか?」
猫が口を開いて言葉を発したとき、心臓が止まりそうになったよ。
「びっくりしてる暇はない。話がある」
猫はまるで当たり前のように続けたんだ。
「俺の名はクロ。お前には地球を守る義務がある」
最初は冗談かと思った。でもクロはどこか威厳があって、冗談で済まされる空気じゃなかった。私が「どういうこと?」と聞くと、クロはあっさりと答えた。
「この星はずっと狙われてる。俺たち猫の一族は、その危険を見張っている。だが、時々人間の力が必要になる」
クロの説明によると、地球は異世界の存在に何度も襲われているらしい。猫たちはその異世界からの敵の侵略を防ぐために、密かに戦い続けてきた。だが敵の攻撃が激化しており、人間の力を借りなければ、もう限界だという。
「――で、なんで私なの?」
「俺たちが選ぶのは、心に強い芯を持つ人間だけだ。お前には見えない強さがある」
「あ、はぁ、へぇ~」
褒められたような気がして、ついうっかり引き受けることにしてしまった。
翌日から、私とクロは不思議な共同生活を始めた。
クロの指示に従って、私は奇妙な訓練をこなすことになった。公園でカラスと話す方法や、コンビニで人間に紛れた宇宙人を見抜く訓練だ。
クロはとにかく口が悪いが、時々ふと優しさを見せる。それがまた憎めない。
ある日、クロが言った。
「敵の本隊が近づいてる。今夜はでかい戦争になる」
夜になると空に不気味な光が浮かび始め、街のあちこちに異形の影が出現した。
野良猫たちが「ふぎゃー」とあちこちで威嚇の声をあげている。
私は緊張しながらクロとベランダに立った。
「敵ってどんなやつ?」
「姿は見えない。ただし、人の心の隙間に入り込む。つまり、不安や恐怖が奴らの入り口だ」
そう言われると、私の中にも恐怖が芽生え始めた。クロはすぐにそれを察して私をにらんだ。
「自信を持て。お前は俺が選んだんだ」
気持ちを引き締めて、クロが教えてくれた言葉を唱える。猫族秘伝の「守護の呪文」だ。だが呪文は何の効果もなく、光はますます強まるばかり。
「呪文なんかじゃ、やっぱりダメなんじゃ……」
「馬鹿言うな!」
クロが初めて怒鳴った。その目は真剣だった。
「呪文はただの飾りだ!本当に大事なのは、自分を信じる心だ」
私はその言葉に胸を打たれた。そして、もう一度目を閉じ、自分を信じて呪文を唱えた。
すると、体中に不思議な力が湧き上がった。まるで心の中の不安や恐怖が、ゆっくりと消えていくような感覚だった。
その瞬間、夜空の光は砕け散り、異形の影たちが悲鳴をあげながら消えていった。
戦いが終わった後、クロは満足げに頷いた。
「よくやった。やっぱりお前を選んだ俺の目は正しかったな」
私はほっと息をつきながら、クロに尋ねた。
「これで終わり?」
「いや、奴らはまた必ず戻ってくる。だから俺はもう少しお前のそばにいてやるよ」
クロは相変わらず偉そうだったが、その言葉は妙に心強かった。
それ以来、私の生活は少し変わった。目に見えない戦いが続き、クロとの騒がしい日常が当たり前になった。
だが、時々ふとクロの横顔を見ると、少しだけ寂しそうに見えることがあった。
「ねえ、クロ。猫族って、どこから来たの?」
ある晩、何気なく尋ねてみた。クロは空を見上げ、少し黙ってから答えた。
「遠い昔、俺たちは敵と同じ世界にいたんだ。だけど、奴らが侵略を始めたとき、俺たちはこの星を守るためにここに来た」
私は驚いた。
「じゃあ、クロたちは帰れないの?」
クロは苦笑した。
「帰れないし、帰る気もないさ。だって、ここが俺たちの家だからな」
クロはそう言って、くるりとクッションの上に丸くなった。
そして今でも、ベランダに立つたびに私はあの夜のことを思い出す。言葉を話す黒猫が現れ、地球を守る使命を告げてきた夜のことを。
あれ以来、不安を感じることが少なくなった。だって、私のそばにはいつだって、ふてぶてしくも頼もしい、最高の相棒がいるのだから。
ベランダでふてぶてしく尻尾を振っているのを見つけたとき、最初はただの野良猫だと思った。だけど、目が合った瞬間、妙な感覚が走った。
「おい。お前、聞いてるか?」
猫が口を開いて言葉を発したとき、心臓が止まりそうになったよ。
「びっくりしてる暇はない。話がある」
猫はまるで当たり前のように続けたんだ。
「俺の名はクロ。お前には地球を守る義務がある」
最初は冗談かと思った。でもクロはどこか威厳があって、冗談で済まされる空気じゃなかった。私が「どういうこと?」と聞くと、クロはあっさりと答えた。
「この星はずっと狙われてる。俺たち猫の一族は、その危険を見張っている。だが、時々人間の力が必要になる」
クロの説明によると、地球は異世界の存在に何度も襲われているらしい。猫たちはその異世界からの敵の侵略を防ぐために、密かに戦い続けてきた。だが敵の攻撃が激化しており、人間の力を借りなければ、もう限界だという。
「――で、なんで私なの?」
「俺たちが選ぶのは、心に強い芯を持つ人間だけだ。お前には見えない強さがある」
「あ、はぁ、へぇ~」
褒められたような気がして、ついうっかり引き受けることにしてしまった。
翌日から、私とクロは不思議な共同生活を始めた。
クロの指示に従って、私は奇妙な訓練をこなすことになった。公園でカラスと話す方法や、コンビニで人間に紛れた宇宙人を見抜く訓練だ。
クロはとにかく口が悪いが、時々ふと優しさを見せる。それがまた憎めない。
ある日、クロが言った。
「敵の本隊が近づいてる。今夜はでかい戦争になる」
夜になると空に不気味な光が浮かび始め、街のあちこちに異形の影が出現した。
野良猫たちが「ふぎゃー」とあちこちで威嚇の声をあげている。
私は緊張しながらクロとベランダに立った。
「敵ってどんなやつ?」
「姿は見えない。ただし、人の心の隙間に入り込む。つまり、不安や恐怖が奴らの入り口だ」
そう言われると、私の中にも恐怖が芽生え始めた。クロはすぐにそれを察して私をにらんだ。
「自信を持て。お前は俺が選んだんだ」
気持ちを引き締めて、クロが教えてくれた言葉を唱える。猫族秘伝の「守護の呪文」だ。だが呪文は何の効果もなく、光はますます強まるばかり。
「呪文なんかじゃ、やっぱりダメなんじゃ……」
「馬鹿言うな!」
クロが初めて怒鳴った。その目は真剣だった。
「呪文はただの飾りだ!本当に大事なのは、自分を信じる心だ」
私はその言葉に胸を打たれた。そして、もう一度目を閉じ、自分を信じて呪文を唱えた。
すると、体中に不思議な力が湧き上がった。まるで心の中の不安や恐怖が、ゆっくりと消えていくような感覚だった。
その瞬間、夜空の光は砕け散り、異形の影たちが悲鳴をあげながら消えていった。
戦いが終わった後、クロは満足げに頷いた。
「よくやった。やっぱりお前を選んだ俺の目は正しかったな」
私はほっと息をつきながら、クロに尋ねた。
「これで終わり?」
「いや、奴らはまた必ず戻ってくる。だから俺はもう少しお前のそばにいてやるよ」
クロは相変わらず偉そうだったが、その言葉は妙に心強かった。
それ以来、私の生活は少し変わった。目に見えない戦いが続き、クロとの騒がしい日常が当たり前になった。
だが、時々ふとクロの横顔を見ると、少しだけ寂しそうに見えることがあった。
「ねえ、クロ。猫族って、どこから来たの?」
ある晩、何気なく尋ねてみた。クロは空を見上げ、少し黙ってから答えた。
「遠い昔、俺たちは敵と同じ世界にいたんだ。だけど、奴らが侵略を始めたとき、俺たちはこの星を守るためにここに来た」
私は驚いた。
「じゃあ、クロたちは帰れないの?」
クロは苦笑した。
「帰れないし、帰る気もないさ。だって、ここが俺たちの家だからな」
クロはそう言って、くるりとクッションの上に丸くなった。
そして今でも、ベランダに立つたびに私はあの夜のことを思い出す。言葉を話す黒猫が現れ、地球を守る使命を告げてきた夜のことを。
あれ以来、不安を感じることが少なくなった。だって、私のそばにはいつだって、ふてぶてしくも頼もしい、最高の相棒がいるのだから。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
麗しき未亡人
石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。
そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。
他サイトにも掲載しております。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる