悪の狂想曲 〜邪神に拾われ正義を忘れた堕天使〜

†冥羽†

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触れる指先の理

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夜は深い。

城の窓から差し込む月光が、黒く染まった翼を淡く照らしている。
セラフィエルは寝台に背を預けたまま、目を閉じていた。

眠れない。
背の奥が、まだ熱を持っている。

扉が静かに開く音。
気配だけで分かる。

「……また来たのか」

目を開けずに言う。

「嫌なら追い出せ」

低く穏やかな声。
足音が近づき、寝台が沈む。

ヴェルドは何も言わず、黒い翼に触れた。
びくり、と身体が震える。

「触るなと言った」
「傷の治りが遅い」

指先が羽を梳く。
ゆっくりと、一定のリズムで。

「翼は精神と繋がっている。拒絶が強いと、うまく再生しない」
「……迷信だ」
「そう思うなら力を抜け」

言葉とは裏腹に、指は優しい。
強引ではない。

だからこそ振り払えない。

「お前は正義を失ったと思っている」

唐突な言葉に、セラフィエルの喉がわずかに動く。

「失ってなどいない」
「ならなぜ、迷う」

沈黙が落ちる。
羽の根元に触れられるたび、心臓が不自然に跳ねる。

「正義とは何だ」

ヴェルドが囁く。

「秩序か? 神の言葉か?」
「……正しき裁きだ」
「誰にとっての」

答えられない。
あの神殿で、自分は正しかったはずだ。
それなのに、裁かれた。

「お前は間違っていない」

再び、その言葉。

「間違っていたのは、選ぶ側だ」

指先が、翼の付け根をなぞる。

「ならばお前が選べ」

声が、耳元に近い。

「奪われる側ではなく」

心が揺れる。
危険だと分かっている。

だが――

否定されないこの時間が、あまりにも穏やかだった。

「私は……堕ちてなどいない」

かすかな反論。
ヴェルドは微笑む。

「そうだな」

指が止まる。

「堕ちたのではない」

赤い瞳が、真っ直ぐに射抜く。

「選ばれただけだ」

その言葉が、翼よりも深く刺さった。
 
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