南と吉村さん(仮)

あさかわゆめ

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神崎さんと挨拶に行った後、ネット上にある吉村航介の情報を漁った。
大半は宮田圭悟について書かれた記事やブログの中に名前が出てくるだけで、内容は同じだ。
宮田圭悟が大学生の時に一緒に歌を作った人。学園祭で歌を初めて披露した時に、一緒に歌った人。今は雑誌のライターさんとして活躍されているみたいです。
吉村さん自身の書いた文章も何件かあったが、全部見てしまっても満足できない気持ちだけが残った。

学園祭で歌った時の写真とプロフィール写真は、何度も目にした。
いちばん使われているのは、おそらく数年前に撮影されたもので、視線を斜めに落として俯いたモノクロの写真だった。憂いを帯びたように見せる作りなのに、なぜか会った時の彼より明るく軽やかに見えた。

その写真を、俺は自分の端末に保存した。どうかしてるなと思わなくもなかったが、学生時代に彼の写真を見た時も目をひかれたし、現に名前をずっと覚えていたわけで、ようするに好みなんだろう。

そんなわけで、二ヶ月後に吉村さんの家を訪問する時は、妙に緊張していた。
「暑い日に来てもらって悪かった」
吉村さんは廊下で俺を振り返って、かすれた声で言った。
「お風邪ですか」
「お風邪、なんて大層なもんじゃない、クーラーで喉やられた」
よく冷えたリビングに入るとほっとして、俺は汗が絞れそうなハンカチで顔を拭った。
吉村さんは黙って緑のドアの向こうに消え、お盆にコップを二つ載せて戻ってきた。

「坂きつかったか」
「いいえ、いい運動でした、と言いたいんですが、きつかったです」
麦茶を一気に飲んでしまう。吉村さんは、お、と言って立ち上がり、大きなペットボトルを持って戻ってきた。

簡単な説明の後、書類を一枚書いてもらい、何箇所か印鑑を押してもらうと、用事は終わりだった。
「お預かりします。お忙しい時に失礼しました」
「これだけ?」
「次の継続の時は、自動で口座からお引き落としになりますので、この手間はお掛けしません」
吉村さんはテーブルの向かい側で、おお、と頷き、
「まだ暑いな」
と言いながら、窓の外に目をやった。
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