上 下
52 / 119
4章 ラグナロクの大迷宮

46.転移

しおりを挟む
「これは.....転移の魔法陣......」

そんな言葉が聞こえ、呆気にとられていると急激に魔法陣が輝きだした。
視界が真っ白な光で埋まる。
間違いない。迷宮に入った時と同じ光だ。あの時は確かに空洞に転移した。ならば今回もあの空洞に.....?

「まずいっ!なるべく仲間で固まるのじゃ!」
エーミールの焦った声が聞こえたと同時に魔法陣の輝きはさらに増した。
景色が光で潰れ、余りの眩しさに思わず瞼を閉じる。

その瞬間、大空洞から人間は誰1人もいなくなった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーー



「王、良かったのですか?」

「ん?何がだ?」

わざとらしく惚ける王に、宰相は小さくため息をついた。

「ルカクは必ず悪影響を及ぼします。その前に殺さなくて良かったのか、と」

それに王はニカッと笑う。
「面白いだろう?あいつがどう動くか見ものではないか」
その答えに再び宰相はため息をついた。

「私は構いませんが。ともなればBチームは壊滅しますがそれについてはどうなさるのです?」

「必要な犠牲とやらだ。それに、犯人を導き出せなかった奴が悪いのだからな」

「わざと毒を飲んでおいて.....王も趣味が悪い」

「どっちにしろ良い機会だ。今のうちに王宮内の刺客全員殺せ」

「.....わかりました」
宰相はそう返すと執務室を後にした。

「必要な犠牲......か」

そう呟いて。



 ーーーーーーーーーーーーーーー



Bチームが攻略中の迷宮から西。Cチームが攻略中のはずの迷宮内は静まり返っていた。
その中を1人の少女が鼻歌を口ずさみながら通っていく。

「ふ~んふふふ~んふ~~ん」

緑色の髪の毛をしたその少女は足元の人間の手を意にも介さずそのまま通り過ぎた。

人間の手だけではない。

魔物の死体、焦げた黒物、元は輝いていた鎧、焦げて縮れたコート、首を切られた人間の死体。

様々なが地面に散らばり、血を滴らせている中を少女は通り抜けていく。

少女もまた、手から血を流し、血飛沫を存分に浴びていた。

「あ.....ぁぁ.....うぅ.....」

空洞の隅から呻き声がした。
全く動かない物の中で唯一生きていた人間だった。
緑色の髪の少女はそれに気がつき、その場所にかけていく。

呻き悶えていた人間は少女にやっと気がついた。

「.....あ....く、来るなあ!こ、この化け物め!!」

その言葉に少女は首を傾げる。

「化け物?何かと見間違えてるのかな?まあいいや」

少女は呻きを上げていた人間に背を向けると再び鼻歌を口ずさみ始めた。

もう、呻き声は聞こえなかった。



 ーーーーーーーーーーーーーーー



ようやく光が落ち着いたように感じ、俺は目を開けた。

「.....やっぱりな」

想像していた通り、さっきのあれは転移の魔法陣だったようだ。
先ほどの大きな空洞から、比較的小さな洞窟へと変わっている。

「やっぱり転移か。さて、どうする?」

魔力がなく座っている俺を自然と見下ろす形で声をかけるアドルフ。
どうやら一緒に転移してきたようだった。
多分近くにいれば同じとこに転移するとかそんなもんなんだろう。

「どうしますか?まだ俺は魔力無いので回復待ちに少し休憩してから動きたいんですが」

「そうだなあ。取り敢えず手を離したらどうだ?」

ん?ーーーーとなりようやくまだシルクの手が覆い被さっているのに気づいた。
そういえば魔力流し込む時に握られたな。

「あ、ごめんシルク」
「べ、別に大丈夫よ」
シルクは手を離し、立とうとしてーー立ちくらみがしたようによろけた。

「ごめん。私も今魔力無いから動けないわ」
「そうか。じゃあ俺が見張っとくからお前ら休んどけ」

そう言いアドルフは洞窟の入り口に立った。
やっぱこの場での最年長だから頼りになるなあ。さっきまでアドルフも倒れてたのに。
そんなアドルフに感謝しつつ体を地面に投げ出す。

「アドルフさん、ここどこかわかります?」
「いや、わからん。迷宮のどこかだ」

やっぱわからんか。この場所に転移したのは3人だけっぽいし早くメンバーたちと合流しないと。

「あーあ。俺もガーリス達と別れちまったし、あれが最後の別れにならないといいけどなあ」
「縁起でもないこと言いますね」
「まああいつらの事だ。なんだかんだで大丈夫だろうよ。帰ったらみんなで宴会でもしようぜ」
アドルフさん.......それフラグ.....。

「だがまさかルカクが裏切るとはな。お前、わかってたのか?」
「あの状況で誰かが仕掛けてくるとは思ってたんですが、まさかルカクさんだとは」

「だよなぁ。で、なんでルカクってわかったんだ?」
「薬の袋とルカクさんの能力からですかね」

あの時、俺は全ての謎が解けた、とは言えないがなんとなくわかってしまった。
どうやって毒が盛られたのかも。

「ってことは毒盛ったのもルカクか。どうやって盛ったんだ?」

「いえ?盛ったのはルカクさんじゃありませんよ?」

「は?じゃあ誰が.....?」

「メイドさんです」

「.....メイド?」

「とは言っても差し向けたのはルカクさんですけどね」

「いや、だが王宮のメイドがそんな事するか?よっぽどの家柄がないとあそこのメイドにはなれんぞ?」
「だからメイドさんは気付かずに毒を入れたんですよ。何も知らず、入れただけ」

「だがどうやって.....?」

「まずルカクさん達の計画はこうでした。1人の衛兵がメイドを呼び、その間にもう1人の衛兵が侵入して毒を盛る」

「単純だな。まあ一番効率的か」

「ですが、1つ誤算が生まれたんです。それは、ガーリスさんがミルフィーユさんを心配してその階に来てしまった事。それにより1人の衛兵が釘付けにされてしまったんです」

「そういや言ってたな。あいつ、ほんとわかりやすいからなあ」
アドルフは呆れ顔で遠くを眺めた。

「だから急遽、ルカクさんは能力を使わざるを得なかった。"物体移動"の能力を。それでフレッドさんが退出中に毒を"物体移動"させたんです」

「なるほどな。だけどなぜメイドが盛ったと?」

「ルカクさんの物体移動は精度が悪いんです。だから机の上に落として衛兵を使って砂糖を入れるように仕向けた。メイドも砂糖の話の後にそれっぽい袋を見たら砂糖だと思いますしね」

「あー。確かに納得。だが俺がルカクなら言うぞ、『証拠は?』ってね」
お前アメリカ人か。なんださっきからそのアメリカンなハリウッドは。

「.....だから賭けだったんですよ。あの時ルカクさんが思うように動いてくれてラッキーでした」

「ラッキー、ねえ.....。ま、天才少年君ってことだな!」

「いやなぜ!?」

アドルフは豪快に笑うといきなり剣を抜いた。
この流れ的に、お前は少し知りすぎた、とか言いそうな流れだ。

「お喋りは終わりだ。魔物が来てる。もう回復したか?」

全然違ってた。

「あ、はい。少しなら」

「よし。じゃあ、行くか!」
しおりを挟む

処理中です...