僕らの放課後

ハセベマサカズ

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僕らの放課後 ③

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それから昼休みはいつも屋上に上がってた。
アオが心配だった。
とは言うのは建前でアオを見てたかった。
アオは昼休みにいつもここで食事を済ますと外を眺めてた。
向こうが俺を認識する事はないだろうけど
人の目があるところで馬鹿な真似はしないだろう、とも思ってた。
校内で行き場所のない俺の居場所にもなっていた。

そんな事が数か月続いたある日、アオはついにフェンスを登り始めた。
止めなきゃいけない。
頭の中はそれでいっぱいだった。
同情心や正義感からじゃない。
ただ、これからもアオを見ていたかったんだ

「何してる!?危ないじゃないか!?」
アオをありったけの力で引き剥がす。
と、勢い余って地面に叩きつけた。
長身だが思った以上に軽かった。
そのせいで、かなり派手に飛んで行った。
「しまった」
やり過ぎたかと俺は青ざめた。
アオに駆け寄ると転がったせいで擦り傷だらけになってる。
「だ、大丈夫かあっ!?」
自分でやって置いて大丈夫も何もないのだが。
動転して思いつく言葉を全て口に出してた。
「…痛い」
こちらとは対照的に冷静にアオは体を起こした。
「あ」
とアオは何かに気付くと、こちらを向いた。
「立てない」
視線に促されてアオの足を見ると、あらぬ方向に曲がってる。
「ぎえええええええええええええ!!!!」
それを見た俺の方が悲鳴を上げていた。

アオに大きな負傷を負わせ、
病院から戻れば松葉杖生活。
鞄も持てない彼女に罪滅ぼしにこうして付き添っている。
悪い事をしたとは思わない。
だけどすまなく思っている。
当たり前と言えば当たり前であろう。
騒ぎが広まらないように「護身のため俺が柔道を教えてた」と話を合わせたが
教師の理解は得ても級友からの反感は凄まじかった。
そりゃそうだろう。
ケガをさせた事よりも、アオと親しくしてたと言う話なら誰しも腹立たかろう。
今まではクラスで目立たず孤立感があったが、
今は逆に目立ち過ぎて孤立感を感じてしまう。

今日も送り迎えでアオの少し後ろを歩くように後をつける。
アオの姿が常に見えるように。
慣れない松葉杖でふらつきながら歩くので、いつ倒れるかと不安になる。
アオの表情を覗き込むと終始不機嫌。
そりゃそうだろう。
色々話しかけてみるが反応は薄い。
難攻不落だなあ。
気まずさで押し潰されそうで気持ちの負荷が限界に近付いた頃、
アオの自宅付近で松葉杖の足が突然止まる。
「ここまででいい」
そう言って昨日と同じくひとり自宅に向かっていく。
その後ろ姿を心配しながら見送っていた。
何とか今日もお勤めを終えたようだ。
安心感からか妙に嬉しい気分になった。
早く終わって欲しいような、いつまでも続いて欲しいような。
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