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辞書的に語る
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僕は辞書というものが好きだ。昔から何か嫌なことがあったりすると、僕は辞書を引いて心を落ち着けた。たとえば、怒りを感じる出来事があったとする。そのような時、辞書を引いた。
「いかり【怒り anger】人間に特有の基本的感情の一つ。〈中略〉怒りは盲目的な攻撃と破壊の衝動ではなく,ある判断から発している。破壊衝動なら何かを破壊すれば満足するはずだが,われわれはある人に腹を立てているとき,皿でも茶碗でもその辺のものをぶち割ったところで怒りは収まらないし,その相手を攻撃したところで収まるとは限らない。」
これは、僕の手元にある「世界大百科事典第2版」の「怒り」についての説明である。
その時、僕が抱いていた燃えたぎるような、真っ赤な「怒り」という感情を「世界大百科事典第2版」はとても客観的で他人事のような(実際、他人事なのだけれども)視点から、冷静に落ち着き払った態度で解説してくれた。「怒りとは人間に特有の基本的な感情の一つに過ぎません」「相手を攻撃したところで収まるとは限りません」
「世界大百科事典第2版」はそう語りかけてくる。僕の「怒り」という主観的な感情を、あくまで客観的に、一つの生理現象かのごとく説明してくれる。僕はそのように辞書を引くことによって、「自分事」な感情や気持ち、状況を「他人事」に置き換え、客観的に現状を把握することで精神的な落ち着きを取り戻すことが出来た。
つまり何が言いたいのかというと、僕は辞書というものが好きだ。しかし、主観的で個人的なものも勿論、大切だ。自分自身の生きた感情や生きた経験、そういったものに基づいた主観的で個人的な辞書があってもいいのではないか。主観的で個人的な、おそらく国語の指定教材には、この世の辞書という辞書が全部燃え尽き、紙切れになってしまっても決してなりえないような、そんな辞書があってもいいのではないか。そう感じた。だから作ろうと思った。
「世界大百科事典第2版」
あい【愛】
【〈愛〉の意味・〈愛〉の言語】
愛の過不足なく普遍妥当な定義を求めることは,愛の様態の多岐性,愛の解釈の恣意性,愛の用語の混交性のために,困難というより,不可能であり,無意義である。 人類の愛の様態は…〈以下省略〉
「僕の辞書第1版」
あい【愛】
【〈愛〉の意味・〈愛〉の言語】
【性欲 sexual desire】の項を参照されたし。
「世界大百科事典第2出版」
ばつ【罰 punishment】罰には,社会的規範にそむいた者に対して法的制裁を加える刑罰と,倫理的・宗教的規範を犯した者に加えられる超越的な制裁(天罰,神罰,仏罰)の2種がある…〈以下省略〉
「僕の辞書第1版」
ばつ【罰 punishment】夜の街(新宿、川崎など)にある専門店でお金を払い、キレイなお姉さんによって鞭や蝋燭、三角木馬などを用いて行われるサービスのこと。
「日本大百科全書(ニッポニカ)」
とき【時 time】
とき時間と時刻目次を見る時の概念は、過去から現在へ、さらに未来へと連続して止まることなく過ぎていく現象、すなわち経過していく「時間」と、たとえば一昼夜を区分した時計や十二辰刻(とき)のように定められた「時刻」に分けられる。時の流れを1本の直線に対比して考えるならば、直線のくぎりが点であり、点と点との間の距離が長さであるように…〈以下省略〉
「僕の辞書第1版」
とき【時 time】
いつも無駄にしている。
「いかり【怒り anger】人間に特有の基本的感情の一つ。〈中略〉怒りは盲目的な攻撃と破壊の衝動ではなく,ある判断から発している。破壊衝動なら何かを破壊すれば満足するはずだが,われわれはある人に腹を立てているとき,皿でも茶碗でもその辺のものをぶち割ったところで怒りは収まらないし,その相手を攻撃したところで収まるとは限らない。」
これは、僕の手元にある「世界大百科事典第2版」の「怒り」についての説明である。
その時、僕が抱いていた燃えたぎるような、真っ赤な「怒り」という感情を「世界大百科事典第2版」はとても客観的で他人事のような(実際、他人事なのだけれども)視点から、冷静に落ち着き払った態度で解説してくれた。「怒りとは人間に特有の基本的な感情の一つに過ぎません」「相手を攻撃したところで収まるとは限りません」
「世界大百科事典第2版」はそう語りかけてくる。僕の「怒り」という主観的な感情を、あくまで客観的に、一つの生理現象かのごとく説明してくれる。僕はそのように辞書を引くことによって、「自分事」な感情や気持ち、状況を「他人事」に置き換え、客観的に現状を把握することで精神的な落ち着きを取り戻すことが出来た。
つまり何が言いたいのかというと、僕は辞書というものが好きだ。しかし、主観的で個人的なものも勿論、大切だ。自分自身の生きた感情や生きた経験、そういったものに基づいた主観的で個人的な辞書があってもいいのではないか。主観的で個人的な、おそらく国語の指定教材には、この世の辞書という辞書が全部燃え尽き、紙切れになってしまっても決してなりえないような、そんな辞書があってもいいのではないか。そう感じた。だから作ろうと思った。
「世界大百科事典第2版」
あい【愛】
【〈愛〉の意味・〈愛〉の言語】
愛の過不足なく普遍妥当な定義を求めることは,愛の様態の多岐性,愛の解釈の恣意性,愛の用語の混交性のために,困難というより,不可能であり,無意義である。 人類の愛の様態は…〈以下省略〉
「僕の辞書第1版」
あい【愛】
【〈愛〉の意味・〈愛〉の言語】
【性欲 sexual desire】の項を参照されたし。
「世界大百科事典第2出版」
ばつ【罰 punishment】罰には,社会的規範にそむいた者に対して法的制裁を加える刑罰と,倫理的・宗教的規範を犯した者に加えられる超越的な制裁(天罰,神罰,仏罰)の2種がある…〈以下省略〉
「僕の辞書第1版」
ばつ【罰 punishment】夜の街(新宿、川崎など)にある専門店でお金を払い、キレイなお姉さんによって鞭や蝋燭、三角木馬などを用いて行われるサービスのこと。
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とき【時 time】
とき時間と時刻目次を見る時の概念は、過去から現在へ、さらに未来へと連続して止まることなく過ぎていく現象、すなわち経過していく「時間」と、たとえば一昼夜を区分した時計や十二辰刻(とき)のように定められた「時刻」に分けられる。時の流れを1本の直線に対比して考えるならば、直線のくぎりが点であり、点と点との間の距離が長さであるように…〈以下省略〉
「僕の辞書第1版」
とき【時 time】
いつも無駄にしている。
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