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第二章 ギルメン募集、部屋なら空いてます
ザ・ネクロマンシング
しおりを挟むレイチェルの慌てようはただ事ではなかったが、この世界の魔法事情に疎い俺には、いまいちそのヤバさがわからない。
俺はサクラに聞く。
「なあ、男が魔法を使うって、そんなにおかしいことなのか?」
サクラはむーんと難しい顔で考えていたが、すぐにあきらめ、桜色の髪をぽりぽりとかきながらあっけらかんと答えた。
「わっかんないですねー、私のところはそもそも魔術師自体がほとんどいませんでしたから」
あー、そういえばそうだった。聞く相手が間違っていたか。
「魔法を使える男がいないわけじゃありません。ご存じの通り、魔力自体は生き物なら誰だって持っていますし。ただ、”本格的な”魔法を行使できる魔術師となると――」
「やはり、珍しいか」
「珍しいなんてもんじゃないですよ。ってゆーか、それが問題なんですっ! いいですか、女性並みに魔法を使える男性は、伝説に語られる魔王と、その眷属くらいだと言われているんです!」
ああ、なるほど。ようやく合点がいった。つまり男が魔法を使った時点で、人類の敵と見なされてしまうわけか。
ん? そういえば。
「レイチェルとか言ったな。そこまで魔法に詳しいお前が、なぜ俺のことを怖がらない? 魔族かもしれないだとか、考えないのか?」
「だって、サクラさんといっしょにいるじゃないですか」
即答だった。
どういうことだ?
やっぱり意味がわからない。俺がよっぽど変な顔をしていたのか、レイチェルはため息をつくと、優しい声で説明をしてくれた。
「あなたが良い人だってことくらい、よーくわかりますよ。サクラさんがそんなに心を許せる男性なんて、今までいなかったんですから」
ああなるほど、そういうことか。
しかし気持ちは嬉しいけれど、その考えは危険だ。世の中、そんなに甘い奴らばかりじゃないのだから。
「ありがたいが、そんなに簡単に初対面の男を信用するもんじゃないぞ。俺がサクラを洗脳したり魔法で操っている可能性も考えろ」
すると、レイチェルは言った。
「ほら、やっぱりいい人だ。本当に悪い人なら、そんなこと自分で言いませんよ」
「いや、しかしちょろすぎ――」
優しく微笑むレイチェルを見て、俺は言いかけた言葉を飲み込んだ。
レイチェルが≪回復呪文≫をかけると、青白い光とともに、うずいていたわずかな痛みがすっと引いていく。
やはりプロは違うな。
とはいえ、気になることもある。
「今の魔法の腕を見る限り、レイチェルは腕がいい回復術師だと俺は感じたのだが。その、言いにくいのだが、なぜこんなさびれた病院にいるんだ?」
レイチェルはぶすっとむくれて答えた。
「さびれててすみませんね。これでもここ、私の実家なんですけどー。……まあいいか。イングウェイさん、私の職業、なんだと思います?」
「医者じゃないのか?」
「職業としては、そうです。ただし、クラスは違います。……こういうことですよ。――おとーさーん!」
ガラリ、と音がして、家の奥から出てきたのは一体の骸骨だった。
「なっ!?」
急に出てきたモンスターに身構える。が、よく見ると殺気はない。
武器も持たず、カタカタと音をたてながら律義にお辞儀をしてくる。
「えへへー、実は私、回復魔法の才能がとがり過ぎててですねー。クラスとしては、死霊術師なんですよ」
「なるほど。しかし……俺の生まれた国では、死霊術は禁術だった」
俺は微妙な顔をしていたことだろう。
レイチェルは寂しそうに言った。
「このアサルセニアだって、そうですよ。表向きは三流の回復術師。私が死霊術師であることを知っているのは、サクラさんと、あとは数名の親戚くらいのものです」
「良かったのか、俺にそんな大切な秘密を話しても」
「ええ、大丈夫。言ったでしょ、サクラさんが連れてきた人なら、信用します。それに、私だけ秘密を隠しておくのも、フェアじゃないかなって」
なるほど、彼女が実力を隠し、こんなところで貧乏ぐらしをしている理由が少しだけわかった気がした。
「レイチェル、君もうちのパーティーに入らないか?」
「え?」
「君は魔法に詳しそうだし、きっと力になってくれると思のだが」
おお、名案! と後ろでサクラも同意していた。
「冒険者になれ、ってことですか?」
俺とサクラは頷いた。
「無理強いはしないがな。死霊術師というのを隠していたせいで、今までパーティーを組めなかったんじゃないか? 俺たちなら、そのあたりをうまく隠しつつやっていけると思うんだが。もちろん、君が良ければだ。冒険者なんて、ろくでもない職業だからな」
俺は前々世のことを思い返す。そうだ、冒険者なんて好き好んでやるやつらは、みんなろくでなしだ。
ろくでなしだが、だが、いいやつばかりだった。
もしレイチェルが細々とこの治療院をやっていくつもりなら、それでいい。ただ、彼女にもしも夢があるなら、それを助けてやりたい。そう感じたのだ。
「私の気持ちなんか全然話していないのに、あっさりとバレちゃったみたいですね。……あの、私でお役に立てるかどうかわかりませんが、よろしくお願いします」
その瞳はまっすぐに未来を見据えていた。
俺は、右手を差し出す。
「よろしく、レイチェル・ヘイムドッター」
「ええ、イングウェイ。こちらこそ」
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