賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

文字の大きさ
11 / 200
第二章 ギルメン募集、部屋なら空いてます

ビアーズ・アイランド

しおりを挟む
 パーティーを結成した俺たちは、ささやかなお祝いを開いた。
 レイチェルは魔道具の冷蔵庫から、冷えた麦酒を出してくれた。

「これは、ビールじゃないか」
「お、知ってるんですか、イングウェイさん。通ですねえ」

 ひょいと隣から顔を出したサクラが聞いてくる。
「これ、居酒屋で飲んだやつですよね? 珍しいんですか?」
 たしかに。普通にメニューにあったから、まさかレアものだとは思わなかった。

「いえ、別に珍しくはないんですが。これ、冷えているかどうかで味がかなり変わるでしょ? 魔石入りの冷蔵庫を保有できるような、例えば冒険者ギルドの酒場とかですね。ああいうところじゃないと、美味しく飲めないんですよ」
 なるほど、確かにそれはわかる。

「「「かんっっぱぁあーーーいっっ!!」」」

 サクラがとても楽しそうに、グラスをぶち当てる。こいつ、割る気か。
 レイチェルもとても楽しそうだ。
 そういえば、二人とも状況は違えど、仲間らしい仲間を得たのは初めてなのか。
 少し、守ってやるか。こいつらの”居場所”ってやつを。

 ふっと思わず笑みが漏れる。それを隠すように、俺はビールを口に含む。

 薄い泡をかき分け、冷えた苦みが口内に滑り込む。
 ウイスキーは舌で味わうが、ビールは喉だ。だが、のどごしだとかいう言葉は、俺は嫌いだ。もっと味わうべきだ。

 例えば、麦だ。お前は麦をかじったことはあるか?
 あるならばわかるだろう。麦の味は、ビールの味だ。ビールが麦の味なのではない、麦がビールの味なのだ。
 一息に飲み干すと、炭酸ガスが胃をへこませる。それを強引に押さえつけるように、次の一杯を飲み干すのだ。

 ビールは味わう酒ではない。体験する酒だ。

 祝いの席で、親しい友と、あるいは仕事の疲れを癒す時に。一気に、流し込む。
 グラスを通して美しく光る黄金色が、その上にかかる純白の新雪が、視覚からも俺を楽しませる。
 頬がかっと熱くなり、ふっと脳が意識を手放しかける。その瞬間こそが、ビールの与えてくれる最高の幸せなのだ。

 キンキンに冷えたビールは最高だ。冷たさが、苦みを押しのけて喉を刺激していく。
 ぬるいビールも悪くはない。ごくりと区切って飲むことで、のどに麦の味が残る。

 ビールの良さは、つまみとの相性にもある。
 安い油を使ったフライなども、ビールは優しく包み込む。
 酒の母と言ってもいい。それだけの包容力を、ビールは備えているのだ。

 俺がしみじみと飲んでいる横で、サクラは勝手に盛り上がり、バタンとあっという間につぶれてしまった。

 俺はレイチェルに言った。
「いいんだぞ、無理に付き合わなくて」
 仲間なのだ、俺に気を遣わず、自分のペースで好きに飲め。そういう意味の言葉だったのだが、レイチェルは何を勘違いしたのか、
「無理なんてとんでもない! イングウェイさん、これからよろしくお願いしますね」
 そう言って俺にもたれかかり、ゆっくりと目を閉じた。
 昼間も飲んでいたようだし、さすがに酔って眠たくなったのだろうか。

 深酒のせいか、レイチェルはなかなか寝付けなかったようだ。やけに何度も寝返りを打ち、俺に体を押し付けてくる。
 意識がないはずなのに、ううーん、とうなりながら指で胸元のボタンを外していた。
 かわいそうに、飲み過ぎて苦しいのだな。俺は優しく背中を撫でてやる。吐かなければいいのだが。


 翌日、俺はレイチェルと武器屋を回っていた。

 サクラは頭が痛いとかで、レイチェルの家でまだ寝ている。おそらく二日酔いだ。
 探し物は、剣。カモフラージュ用なので、長さや切れ味は二の次だ。あんまり安物だと困るけどな。
「杖じゃだめなんですか?」
 と聞いてくるレイチェル。

 確かに棒術というのもあるし、魔石を組み込んだ杖なら男でも使える。杖を持つ男冒険者自体はいないこともないのだが。
「刃物のほうが、いざというときに行動の幅が広い。それに、今後、俺とレイチェルの二人だけで行動することもあるかもしれない。さすがに杖を持つ後衛二人組というのは不自然だろう?」
「はー、いろいろ考えているんですねー」
 当たり前のことに感心されてしまった。どうにも調子が狂う。

 二人でぶらぶらと歩いていると、客と何かもめている、武器屋の少女が目についた。
 青い髪が目立つ。エルフのようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...