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第二章 ギルメン募集、部屋なら空いてます

新しいギルメン

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「助けてくれてありがとう。とりあえず礼は言っとくよ」
 エルフの鍛冶屋は、マリア・ラーズと名乗った。
「気にしなくていい。それより、エルフがなぜ鍛冶を? 魔法系の細工などならわかるんだが」
「あー、実はねー」

 少し踏み込んだ質問だったかと思ったが、マリアは気にせず話してくれた。
 鍛冶屋をしていたドワーフの師匠が飲み過ぎで急に倒れ、そのまま亡くなったこと。主のいないその店を立て直そうとしていることなどを、色々と教えてくれた。
「でも、なかなかうまくいかないんだ」
 マリアは男が置いていった折れた剣を、無念そうに眺める。

「あれ、イングウェイさん? その剣って、なんだか変じゃありませんか」
 レイチェルが気付き、声をかけてきた。

「ああ、レイチェルも気付いたか」
 貸してみろ。俺はそう言うと、マリアの手から折れた剣の半身を受け取る。
 俺が静かに魔力を込めると、刃が淡く光り始める。

「え、光った?」
 製作者のマリア自身も驚いている。
 俺は、光る刃を手近にあった安物の鎧に押し当てる。鎧はあっさりと切り裂かれ、その傷口はバターが溶けたようにゆがんでいた。
 安物とはいえ、鎧に使われているのは本物の鋼だ。そして、安物とはいえ、よく考えると売り物だ。

「えっ、ウソだ、なにこれ!?」
 マリアが試し切りをした時も、おそらく無意識のうちに剣に魔力を込めていたのだろう。
 だが、他人が普通に使ったところでただの剣。そのせいで、例の男が勘違いするほどの切れ味を見せたというわけだ
「おいマリア、これは魔力で切れ味を強化するような細工がしてあるのか?」
「いや、普通に作ったつもりなんだけど。そりゃよく切れるようには頑張ったけどさ、魔力と反応するとか、お師匠様からもそんな技術は習っていないよ」
 まあ、そうだろうな。ドワーフの武器は確かに強力だが、魔力での強化というと、エルフの得意分野だ。
 おそらくドワーフの技術にエルフの魔力が作用して、自然とこのような武器を作れるようになったのだろう。
 才能もあるのだろうが、一番は日々のたゆまぬ努力のおかげだ。
「いい鍛冶屋だな、お前は」

 横で話を聞いていたレイチェルも、マリアの剣に興味を持ったようだ。
「私も試しに使ってみていいですか? ……ってあれ? おかしいな。さっぱり魔力が通らないや。イングウェイさん、よくこんなの使えますねー」
「まあ、そのへんはまだ半人前ってことだな。おそらく魔力路のクセが強すぎて、なかなかうまく扱えないんだろう」
 剣に施されている魔力路は、ずいぶんいびつだ。これではうまく魔力が流れるはずがない。
 製作者であるマリアならともかく、他人が使うには、意識して魔力を流してやらねば反応しないだろう。

「うーん、イングウェイさん、さっきのすぱーって切るやつ、どうやったんですか?」
「別に、普通に魔力を通してやっただけだが。魔力の通り道がいびつなら、俺の方で武器に流れを合わせてやればいい」
「いや、なに簡単に言ってるんですか。武器の魔力の流れとか、そんなこと普通わかりませんって! しかも武器に合わせてやるとか、なんですか、その変態的な魔力操作は!」
「そうか? 普通だと思うが」
 確かに単純な魔力量ではなく、コントロールの精密さに関する分野だが、そんな特別なことをしたつもりはなかったんだけどな。

「イングウェイさん、って言ったよね?」
 マリアが青い髪をいじりながら、何かを考えている。
 と思えば、急に「うっし」と気合を入れてかしこまって言った。

「イングウェイさんっ、あなたをお師匠様と呼ばせてくださいっ!」

「……は?」

「前の師匠が亡くなった今、頼れる人はいないのです。上達のために、ぜひ」

 完全に予想外の展開だ。武器を買いに来ただけなのに、弟子を取ることになるなんて。
 だいたい、魔法道具マジックアイテム作成ならともかく、俺は鍛冶についてはまったくの門外漢だ。
 どう断ろうか困り、助けを求めてレイチェルを見る。
 しかし、大きなため息の後でレイチェルの口から出たのは、さらに予想外の言葉だった。

「いいですよ、マリアさんをうちに呼んでも。イングウェイさんは優しいから、頼られたら断れないでしょ?」

 完全に見透かされていたようだ。
 中途半端な知識で鍛冶の指導なんかやりたくはないが、苦境の中で頑張る若者を見捨てるのは、もっとごめんだった。
「すまん、レイチェル」
「ありがとうございますっ、師匠、レイチェルさんっ!」

「あー、一つ条件がある。師匠はナシだ」
 へ?
 首をかしげるマリアに、俺は言った。
「そもそも俺が鍛冶に詳しくないので、教えられないってこともあるけどな。それよりもお前にはうちのパーティーの専属鍛冶師になってほしい。お前は武器を作り、俺たちは戦う。俺たちが持ち帰る素材を、お前が加工する。そんな対等な関係としてなら、歓迎しよう」

 差し出した俺の右手を、マリア・ラーズはぐっと固く握り返した。
 こうして、うちのパーティーに、無事鍛冶屋が仲間入りしたのだった。

 ……あ、剣を買うのを忘れてた。
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