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第八章 渦巻く嫉妬
シャボン・オブ・ダークネス
しおりを挟む「イングウェイさん、これ、今日の分の洗剤ですー」
「ああ、ありがとう」
商売人の朝は早い。
今日も私は洗濯機を広めるために、王都の各所で売り込みを続けていく。
サクラが渡してきたのは、粉末の洗剤だ。固形洗剤を削りだした単純なものだが、まだ今の季節は暖かいのでこれで十分だ。
洗濯機は確かにそれなりの値段にはなるが、本体だけでは一度売ったらおしまいだ。
修理などでもある程度は稼げるだろうが、あまりあてにはできないし、街の職人たちに持ち込まれることもあるかもしれない。
そこで、これ。洗剤である。
洗濯機に、アサルセニアで広く普及している固形の石鹸は使えない。上手く溶けないからだ。
この問題は、最初にマリアにも指摘された。マリアは解決策として洗剤をすりおろすヤスリ板をつけようかとしていたが、それよりもいい方法がある。
それがこの、洗剤を別に売り出す方法だ。
実はこれ、石鹸を削って粉末にしただけなので、真似をしようとすればすぐにできる。
だが、おそらくそれに気付いたころには季節は冬になるはずだ。冬になれば、この石鹸は溶けにくく、再び使いづらくなる。
我々はそれまでに、さらに溶けやすい性能のいい――できれば真似されづらい――粉状洗剤を開発すればいいのだ。
保険として、お湯を使うという案と、おふろの残り湯を使用する簡易ポンプの開発も同時に考えている。
囲い込みの作戦は、盤石だ。
「おっとサクラ、削り残しがあるぞ」
「あら、本当ですね。すみませんー……って、っちょっとイングウェイさん、せっけんがー」
俺は四角いままの石鹸が混じっているのに気付き、取り除こうとする。そのとき、うっかり手を滑らせ、宙を舞う石鹸。手を伸ばす俺。ダイブする石鹸。向かうは谷間。大いなる深淵。
ちゅぽんっ。
むにい。
温かな谷間に包み込まれ、急上昇する俺の体温。熱に反応し、溶けていく石鹸。バターのように雫は奥へ奥へと飲み込まれていく。
「す、すまない、サクラ」
「やだ、ふええっ、だめです、そんなとこっ!」
と言われても、取ろうと焦れば焦るほど、石鹸は奥へ奥へと入り込もうとする。
ようやく取れたときには、サクラの胸元は石鹸がべとべとに付着してしまった。
「……悪かった」
「…………いえ、いいんです、その、恥ずかしかったけど、嫌なわけじゃ……」
顔を真っ赤にして謝るサクラ。
かばってくれてはいるが、これは以前ゴブリンの時に揉んだのとは、決定的に違う。
あの時はそうするしかなかったわけだが、今回は本当に自分の不注意によるものだ。比較するようなものではない。おれは猛省し、とにかく頭を下げる。
「その、そんなに触りたかったんなら、たまには……いいんですよ?」
サクラが伏し目がちに恥ずかしそうにつぶやく。決してそんなわけではないのだが。
――あれ?
「サクラ、お前、なんか胸が小さくなってないか?」
「え? ちょっとイングウェイさん、それは失礼ですよ! 乙女に向かってなんてこと言うんですかー! って、あれ、ほんとうだ」
サクラの胸は、わかりやすくネジで説明すると、ナベ型からトラスほどに縮んでいた。
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