賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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№9 Bloody Hammer

No Mercy

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 サクラが一歩ずつ距離を詰めてくる。
 無駄だと分かっていつつも、震える手で引き金を引いた。一発、二発。三発。

 サクラの服の胸元で火花が散った。薄い煙が浮かび、すぐに消えた。

「痛いなあ。ひどいじゃないですか、イングウェイさん。仲間でしょう?」

 サクラの笑みは変わらないまま。振り上げられる、刃。
 イングウェイは、眼を閉じることさえ忘れていた。



「それくらいにしておくんじゃな」
 唐突に、耳元で声がした。
 声に驚いたサクラが弾かれたように飛び下がり、姿勢を低くしてカタナを構える。

「誰だっ!?」
 現れたのは、一人の金髪の幼女だった。

「ただの通りすがりの吸血鬼じゃ。魔王を探しにふらついていただけなのじゃが、たまたま見覚えがある顔が見えてのう」

「馬鹿なっ、気配なんて一切しなかった!」
「ああ、血などしばらくのんでおらんからのう。匂いも薄かったんじゃろう。それでも、お前さん程度なら片手でちょいじゃ、ちょーいっと」

 幼女はあどけない笑みを浮かべ、しゅっしゅっと指を動かし、サクラを挑発する。

 言葉もなくサクラは切りかかる。さっと身をかわす幼女に対し、流れるような動きで蹴りを放つ。空を切る。さらに追いすがる。
 横で見ているイングウェイには、ほとんど二人の体が重なって見えた。幼女が舞うのはサクラの間合いのほんの数ミリ先だったが、その刃が到達することは決してない。

「やる気は買うが、少し落ち着け」
 幼女は、まるで蠅でも追い払うように、右手をぶんと横に振った。一瞬遅れ、サクラの体が宙に舞う。
 小さなうめき声が聞こえた。

 先ほどの蜥蜴のように、サクラは地に伏していた。息は荒く、しかしその瞳は輝きを失ってはいない。

「思ったよりも強かったの。楽しめたぞ。じゃあ行くかの、インギー」

「……え? あ、ああ」

 唐突に声をかけられたイングウェイは、間抜けな声で返事をする。恐る恐る振り返りつつも、歩き出す幼女についていく。


「……あんた、誰だ?」
「リーインベッツィという、ケチな吸血鬼じゃ。お主というより、巨乳の嬢ちゃんの知り合いじゃがな」

 イングウェイは脳みその中の記憶をひっくり返した。だが、リーインベッツィ当人はもちろん、巨乳の嬢ちゃんとやらにも心当たりはない。
 そもそもこいつは味方なのだろうか? そうだ、そこからだ。サクラ・チュルージョには裏切られた。いや、最初から偽物なのか?

「何を悩んどるんじゃ? そもそも今のお主には選択肢などなかろう。いいから来んか」
 イングウェイは無言のまま、リーインベッツィの後をついていく。

「なあ、トマトって知っとるか? 赤い実を付ける果物なのじゃが」
「……トマトは野菜だ。裏の畑で作ってた」
「おお! 知っておるのか! やはり博識じゃのう、転生者は」

 リーインベッツィが嬉しそうに飛び跳ねる横で、イングウェイは凍り付いた。

「おい、このクソガキ、お前も俺を殺そうとしてんのか?」
 絞り出す声でそれだけ言うと、震える手を押さえつけるようにリヴォルヴァーを握りしめる。

「それならとっくに殺しておるわ。お主も少しは落ち着いたらどうじゃ? どうしても不安なら、≪洗脳ブレインウォッシュ≫の魔法でもかけてやろうか? 効くぞー、ジャックにガツンとやるのと一緒だからのー」

 言いながら左手で小さな輪を作り、人差し指をすこすこと突っ込む仕草をする。色気のかけらも感じなかった。
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