賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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第13章 闇のとばり

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 飛び上がった俺の周囲を、突如漆黒のとばりが覆った。
 墨を流し込んだような、魔力による闇だ。
 俺は反射的に魔力を集めようとするが、巨大な得体のしれない力にかき消された。

 頭の中に直接声が聞こえる。

「……ちょっと、……聞こえるかしら?」

 少し低い、女性の声だ。苛立っているような、呆れているような

「なんだ、お前は。一体俺をどうする気だ?」

「……あんた、バカでしょ。道路に脳みそぶちまけた時にでも、拾い忘れてきたのかしら?」

「お前は誰だ、それに脳みそがどうとか、なんの話……」

「このままキャスリーちゃんたちを置いてって、彼女らはどうなるのよ。少しは考えて行動しなさい」

 声だけではなんとも言えない。聞き覚えがあるような、ないような。少なくともキャスリーを知っているようだ。
 しかし、俺に対してこんな言葉遣いをするやつは、そういないと思うのだが。

「まさかこんなところで使うとは思わなかったわ。制限があるんだから、大切に使いなさい」

 待て、と言ったつもりだった。
 声は出なかった。
 急にひどい目まいがして、平衡感覚が失われた。――いや、違う。逆だ。感覚が戻ってきたのだ。
 飛行中のはずの俺は、いつのまにか二本の足で立っていた。
 かがり火の明かり。喧騒。戦場の臭い。

 数秒の後に、俺は把握した。時が戻っていることを。



「くっ、この炎熱のサルーをあっさり追い詰めるとは、貴様何者だ?」

「む、貴様サルーか? なぜここに」

 炎熱のサルーが呪印を組む。その二つ名にふさわしい、高熱の魔法陣が宙に現れる。
 魔法陣は燃え上がりながら、中心に向けて火炎を集中させる。
 サルーがにやりと勝利の笑みを浮かべた。

 すでに阻害レジストは間に合わない。俺はメタ梨花が付いている左手を素早く持ち上げる。
 俺の魔力で速度と強度を増したメタ梨花の白刃が、サルーの胸を貫いた。

「ごほっ、き、きさま、……よくも……」
 それだけ言うと、サルーはばたりと倒れた。
 死んだのだ。


「おい、前を開けろ! 早くどくんだっ!」

 安心するヒマもなく、現れたのはタントゥーロ。
 そして傍にいるのは、ホルスだった。

 タントゥーロは言った。
「状況を説明しろ、一体何があった!」

 しまった。
 同じ展開をなぞることだけは、避けなければ。時間跳躍タイムリープがムダになってしまう。
 時間がない。選択肢も。なにかさっきの未来ルートを外せるような、致命的クリティカルな手はないのか?

 手段を選んではいられなかった。俺は魔術師殺しメイジキラーを抜き、ホルスに向かって走る。

 まさかホルスも、言葉を交わす前に切りかかってくるとは思わなかったようだ。
 まともに戦えばホルスもそこそこ強いはずだが、それでも俺の敵ではない。

 俺はホルスを切りながら言った。
「危ない、皆、この男から離れろ!」

「な、なにを、……イングウェイ、貴様……」

「正体を見せるんだな」
 そう言って、俺は剣から魔力マナをこっそりと流し込む。口封じのためだ。
 このまま何もしゃべらせるわけにはいかない。

 と、ホルスがいきなりすごい力で俺をはねのけた。
 おまけに黒い魔力まで感じる。

 筋骨隆々の体がさらに盛り上がる。
 響くような低い声で、ホルスが言った。

「ぐぬぬ、貴様、なぜ俺が魔族だと分かった!」

 驚いたが、これは好都合だ。
 俺は、ホルスに止めを刺すことに決めた。こんな唐突な展開に合わせて芝居をするよりは、さっさと殺したほうがぼろが出ないだろう。

「なんとなく行動があやしいから、警戒しておいたのさ。くらえー」
「くっ、こんなところで死んでたまるかーっ!」

 どん、ずばっ。
 ホルスはすでに肩に深い傷を負って、動きが鈍っている。倒すのは簡単だった。
 こちらも腕に攻撃を食らいながら、カウンターの形で奴の心臓を突く。

「はあ、はあ、苦しい戦いだった。タントゥーロ様、後はよろしくお願いします。傷が痛むので、俺はここで失礼します」

 それだけ言うと、俺は一目散に逃げだした。
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