123 / 200
第13章 闇のとばり
私たちを疑わないでください
しおりを挟む朝が来て、イングウェイとレイチェルはタントゥーロに呼び出された。
天幕の入り口をくぐると、そこにはエドワードもいた。
「すまんな、昨夜は助かった。まさかホルスが敵だったとは。前々から有能な冒険者だと思っていたのに、残念だ」
先に口を開いたのはタントゥーロ。
イングウェイは適当に話しを合わせていく。
状況確認は済んだが、俺が欲しがっていた情報は、特に無かった。
タントゥーロは最後に、俺に軍に入らないかと聞いてきた。
「わしとしては、むしろ部下に欲しいくらいなのだが。どうだ、考えてみんか?」
「今回の遠征は、最後まで参加するさ。だが、軍というのは期待しないでくれ。冒険者という身分が気に入っているのでね」
その答えについては彼も予想していたのだろう。彼は「そうか」とだけつぶやくと、それ以上追求してこなかった。
タントゥーロの天幕を出ると、エドワードが聞いてきた。
「ところで、キャスリーは何をしている?」
「それが、ひどい状態で」
「なに、戦いでケガをしたのだな、大丈夫なのかっ!」
声が急に大きくなる。やはり父だな、心配していないふりをしつつ、気になるのだろう。
「いや、吐き気がひどく、一人では動けない状態だ」
「まさか、呪いか?」
「いや、二日酔いだ」
「……は?」
俺たちは事情を話し、キャスリーをエドワードに預けた。
事後処理はだいたい終わった。レイチェルが「どうしましょうね、これから」とぽつりとつぶやく。
イングウェイにもわからなかった。このまま軍に残り、何をすべきなのか。運命は自分に何をさせようというのか。そもそも――
「そもそも俺たちは、なんで軍に参加したんだっけ」
「なんでって、魔獣たちの討伐でしょう?」
イングウェイは重大なことを思い出した。
「いや、それもそうだが。魔獣の群れを魔族が率いているのでは、ということで、調査もかねて軍の遠征に参加したんだ」
「ああ、そういえば炎熱のなんとかさんっていましたよね?」
「そうだな。王城で出会った、キョニーという名の魔族はまた別のやつだ。しかし今回の件で強く思ったのだが、魔族たちの使う魔術系統は、人間と少し違うよな」
「え? そうですか、意識したことはなかったんですが。魔族のほうが魔力が高いから、雑なんですかねえ?」
「いや、逆だ。むしろ人間のほうが、魔力頼りな魔法の使い方をしているぞ。今まで会った魔族はそいつらくらいだが、やつらはちゃんと魔力を組み上げて事象を起こすという、しっかりした『魔術』を使っていたからな」
「ほええ、そうなんですか? イングウェイさんももしかして、魔力を組む? ってことをしてるんでしょうか」
レイチェルは驚いていた。なんてこった、こんな大切な基本が広まっていないなんて、どうかしている。
「まあ俺に比べると、全然たいしたことはないがな。……おい、メタ梨花」
「はい?」
「お前は常に俺と一緒にいたはずだ。誰かほかに怪しいやつはいなかったか?」
メタ梨花は少し考えて、ずばりと指摘した。
「一番というと、やはりイングウェイさんですね。男なのに魔力がーとかももちろんですけど、どう考えても今回の混乱の原因になってませんか? ……まあ、イングウェイさんが悪意でどうこうしているとは思っていませんけど」
怪しいのは、まさかの俺自身か。
客観的に見てみると、確かに言い訳できないことばかりだ。
ランクも低いギルドでありながら、軍のトップにいるエドワードに目をかけられている。襲撃の時は姿を見せないと思ったら、いきなり敵の大将と大立ち回りを繰り広げる。
そして、疑いの残るホルスらの殺害。口封じと思われても不思議ではない。
言い訳をするなら、俺は巻き込まれているだけなのだが。
「イングウェイどのー」
振り返ると、一人の兵士が向かってきた。
兵士は言った。手には一枚の書類を持っている。
「フロイドというギルドはご存知ですよね? あなたが昨夜倒したホルスが率いていたギルドですが。あのメンバーの取り調べが終わりました」
「ふむ。処刑でもするのか?」
ははは、と兵士は笑った。冗談だと思われたらしい。
「まさか。メンバーは三人いるのですが、全員人間で、ホルスの正体については何も知らなかったそうです」
「なるほどな。それで?」
「今回の冒険者組のリーダーは、ホルスでしたからね。で、今後の冒険者グループの指揮は、ギルド『ミスフィッツ』にお願いするということです。あ、これがその任命書ですね」
「「はいいいい??」」
「そちらのギルドも、現在は二人きりだと聞きます。どうです、『フロイド』の3人を足せば、ちょうどいいんでは。では、よろしく!」
兵士は書類をイングウェイに押し付けると、にこやかな顔で立ち去った。
書類には間違いなくタントゥーロの署名。任命と言いつつ、押し付けられてしまった。くそう、顔は怖いが、やることはせこい。
「とはいえ、やるしかないか。『フロイド』の他のメンバーはとばっちりだしな、これで死ぬことにでもなれば、夢見が悪い」
「まったくイングウェイさんは、お人よしなんですから。しかたないですね、とりあえずその3人に会ってみましょうか?」
俺とレイチェルが相談をしていたところ、メタ梨花がおずおずと話しかけてきた。
「あのー、リーダーが裏切ったギルドと、リーダーが怪しいギルド。二つバラバラよりも、まとめておいた方が、監視しやすいですよねえ」
「まあそうだろうが、何が言いたい?」
「ええと……もしかして、疑われているのは私たちも同じなのでは?」
「ははは、そんなばかなー」
レイチェルの乾いた笑いが、虚しく後を引いた。
0
あなたにおすすめの小説
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる