賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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第16章 聖なる戦い

インヴィジブル

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 ~アントニーと魔王ロック~

三重詠唱トリプルマジック、≪巨人の力ヴァンダライズ≫・≪星の雫ティアリングスター≫・≪錆び落ちる棺ラスティ・コフィン≫!」

 連続で唱えられた補助呪文。魔力光が、魔王ロックの体を薄青く覆った。


 ぎいいー、ときしんだ音を立てて扉が開く。

 それはそのまま開戦の合図となった。

 歴戦の戦士であるジャミルでも、黒い風が吹き抜けたようにしか見えなかった。

 かろうじて受け身だけは取ったものの、ジャミルの巨体はあっさりと吹き飛ばされる。
 その程度で済んだのは、魔王ロックの興味が、単にジャミルに向かなかったというだけの理由に過ぎない。

 すでに戦闘は始まっている。

 反応できたのは、勇者アントニーただ一人。

 アサルセニア国宝の神道具アーティファクト、聖剣『白銀の女王バルバレスコ』の白く輝く刀身が、魔王ロックの持つ魔剣『虚構の黒刃コロンビーヌ』とぶつかり、高い音を響かせる。

「貴様ぁ、俺様の剣を受けるとは、やるじゃねえか」
「くっ、こいつ強いっ!」

 ひやっはっはーと魔王のあざけ笑いが響く。黒い刀身がぬらりと溶けたように見えた。
錆び落ちる棺ラスティ・コフィン≫の効果による、武器の浸食が始まるのだ。

「お前の武器も腐らせてやるよ!」

 だが、聖剣バルバレスコの美しい刀身は、浸食してくる黒い雫を弾き飛ばしていた。
 剣自身と持ち主への呪いを退ける、バルバレスコの魔法効果によるものだった。

「アントニー、すぐ補助魔法をかけますっ!」
 ところが、僧侶のニーナがかける祝福ブレスは、黒い光に抵抗レジストされて、アントニーまでは届かない。

「うざってえなあ、無駄なんだよぉっ!」

 魔王ロックはアントニーを蹴り飛ばし、身をひるがえす。
 その背後より、一条の雷がロックを襲う。ジニーの稲妻ライトニングボルトだ。

「無駄じゃないよ、ニーナ。そのまま続けて。抵抗レジストさせてるだけでも、他の攻撃が通り安くなるから!」

 冷静に状況を判断し、アドバイスしたのはジニーだ。
 魔法のレベルは魔王に劣ると言っても、彼女は本職の、しかも凄腕の魔法使いである。
 魔力の流れや動きを観察する力は、この場の誰よりも優れている。

 それでも――、いや、そんな彼女だからこそ、ギリギリで避けられたといえるだろう。

 突如、背後で声がした。
「凍てつかせろ、≪氷結の氷柱バリン・フローズン≫」

 ジニーが足元にひやりとした冷気を感じた次の瞬間、無数の氷柱がジニーを襲った。
 反射的に魔法盾マジックシールドを展開するジニー。詠唱どころか呪文ですらない、魔力そのものを固めた即席のシールドだ。

「冷気属性の術? だれ!?」

「ふひー、魔王様ばっかりじゃなくて、私とも遊んでよふひー!」
 虚空から声がする。アサルセニアではろくに使い手のいない、≪透明化インヴィジブル≫の術だ。

 空間がうねり、裂け目から現れたのは、青白くガリガリの不健康そうな体の女魔族だった。
「私は氷結のクマー。魔王ロック様の片腕よ。よろしくねふひー」

「ふん、あたしの呪文、見せてあげるです!」


「ジャミル、早く立って!」
 焦るニーナ。片手で唱えた回復呪文ヒーリングが、ジャミルの右腕からしびれを消した。
「わかってる、いくぜっ!」

 ジャミルは愛用の『黒曜石の炎斧アブソリュート』を力任せに降りぬく。当然のようにかわす魔王だが、ジャミルの追撃も止まらなかった。
 まるで竜巻のように周囲のものを巻き込みながら、魔王に食い下がる。

「うぜえって言ってんだろうがああ!」
 魔王ロックの強烈な蹴りを、ジャミルは炎斧アブソリュートの柄で受けた。ダメージはない。
 が、数度の接触で、ジャミルは違和感を感じていた。体が鉛のように重たくなっていく。

 この感覚、似たような呪いカースをダンジョンの魔物から受けたことがある。

「くっそう、やってくれるじゃねえか」

 ジャミルは薄ら笑いを浮かべるが、それはいつもの戦いを楽しむときの笑みではなかった。



 アントニーは、自分の甘さを反省していた。

「くそっ、こんなはずじゃなかった」

 魔族がいるにしても、まずは話し合いで相手の腹を探ろうと思っていた。
 いきなり戦いにはならないだろうと、勝手に思い込んでいたその甘さを恥じた。


 それでもまだ、アントニーは心の奥で油断していた。
 いざとなれば、レベル65を誇る自分が本気を出せば、何とかできるだろうと思っていたのだ。
 甘かったのだ。相手も同じ、転生者かもしれないというのに。
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