賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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第18章 サイレンス

すけーぷごーと

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 いつものダイヴ空間。ドロシーの精神が作り上げた古城の中で、イングウェイは自分の計画をドロシーに伝えた。
 反応は予想通りだった。

「あなたを生け贄スケープゴートにしろってこと? ごめんだわ。論外ね」

「それは、俺の命を思ってのことかい? それとも、俺という道具を失うのが惜しいのかい?」

 イングウェイは彼女の本心を知っておきながら、自身の思う最大限に卑怯な言葉を投げた。
 じくじくと胸を突く罪悪感はあったが、彼女の長年の苦しみを思えば、大した問題ではなかった。

 彼女は押し黙り、うつむいた。返す言葉を慎重に選んでいるようだった。

「悪い賭けじゃないはずだ。感情を捨てて、一度落ち着いて計算してくれ」


 ドロシーの考える、精神世界アストラルスフィアを通りアサルセニアに到達する計画プラン。それの問題点は、肉体の移動ができないことだ。
 それを解決するためにイングウェイの提案したのが、ダイヴ空間内で転生術を使用することだった。

 転生術はドロシーもかつて研究したことがあるが、それはあくまでも魂を別の肉体に――たいていは哀れな生け贄のそれに――移すための術であり、次元を超えるような類の術ではない。ただし、通常強く結びついているはずの肉体と精神体の接続(リンク)は、切ることができる。

 うまくいけば、イングウェイは新福岡ニューフクオカに肉体を残したまま、アサルセニアに移動することができるだろう。

 そこまでできればあとは簡単だ。イングウェイの肉体を灯台ビーコンとして、アサルセニアと新福岡ニューフクオカに魔力の経路パスを作り、次元を行き来する。


 デメリットといえば、一時的にとはいえイングウェイの肉体が死を迎えること。
 仮にこの方法で失敗した場合、イングウェイ自身が永遠に失われてしまう。


 ドロシーはイングウェイの胸に顔を埋めて言った。
「昔から戦闘魔術師バトルメイジとは馬が合わなかったのよ。平気で成功率の低い賭けをして、失敗したら別の賭けで解決しようとするんだもん。周りの迷惑なんて気にせず、目の前の目的さえ果たせばいいんだから、楽なもんよね」

「……すまない」
「理屈はわかるわ。確かに、成功する可能性は高いと思う。少なくとも私が試している手段よりはね」

 永遠とも思える沈黙のあと、ドロシーは言った。

「信じていいの?」

「最大限の努力はする」

「いいわ、やってみましょう」

 ドロシーは瞳を閉じ、手を広げ、厳かに『紫の靄パープル・ヘイズ』を唱える。ダイヴマシンへの、精神世界アストラルスフィアへの扉を開くための術だ。
 イングウェイと共に開発し、いつの間にか使い慣れるほどに使っていた術。だが、今日ほど腕が重たかった日はなかった。

 ゆっくりと、紫色に濁ったフォグが現れる。霧は不連続な鈍い光と、酸味を含む異臭を放っていた。

「いいわよ、始めましょう」

 イングウェイはドロシーの腕を取り、自身の魔力と彼女の魔力を交じり合わせていく。
 ダイヴマシンのパーソナルキーを偽装するための、いつもの儀式。

 最期の儀式ラスト・ライツは、普段よりもずっと丁寧に、念入りに行われた。

 ドロシーはゆっくりとイングウェイのほうへ踏み出すと、軽く彼の肩にもたれかかった。
 脚を絡めるように体重を預け、背伸びをし、ゆっくりと唇を重ね合わせた。
 イングウェイは抵抗もせず、されるがままになっていた。


 時間は限られている。ひとしきり絡み合った後、二人は寄り添って『紫の靄パープル・ヘイズ』に足を踏み入れた。

 地面は消え失せ、羽の上を歩かされているような浮遊感に変わった。

 かすかに、霧の向こうに様々な世界が重なって見える。ここは様々な世界のホームなのだ。ただし、次元ではない。
 科学の力で作られた芝居小屋だ。あくまでも。

 イングウェイは準備していた魔法陣を展開し、その中心で呪文を詠唱した。
 数秒の後、彼の精神体は、光の中に消えていった。
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