賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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第18章 サイレンス

リングメーカー

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 翌日、俺はアリサをマリアの工房アトリエに呼び出した。
「おはようございますっ! もしかしてスターキーについて、何かいいアイデアが浮かんだんですか?」
「おはよー、アリサ。会うのはギルドに登録したときぶりになるのかな? ボクのこと覚えてる?」
「ええ、もちろん! ……でも、そんな顔色悪かったですか?」
「余計なお世話だよ、せっかく助けてあげようと思ってんのに!」

 そういえばギルド登録時はまだマリアは生きていたな。彼女がゾンビになったのは、そのあとだ。

「ところで彼ぴとうまくいかなくて困ってんだって?」
「ああ、そうなんですよー。何かいい方法ないですかねえ?」
「もったいないなあ。マリアってかなりモテるんだよ。他の冒険者たち、いっつもキミのことを可愛いって言ってるもん。僕なら、振り向いてくれない男よりは、イケメンの冒険者を見つけて乗り換えるけどなあ?」
「えー、さすがにないなあ。そりゃ冒険者さんたちにはいつも助けられてますけど、あの人たちってがさつでデリカシーってものがないんですよ? お尻だって触ってくるし」
「じゃあ、冒険者たちが嫌いというわけではないんだな?」
「もう、なんなんですかいきなり? 嫌いだったらそもそも冒険者ギルドあんなとこで働いてませんよ。いざというときには頼りになる人たちだってのも知ってますし。 ……あの人たちに言っちゃだめですよ、調子に乗りますから!」

 へー、そっかー。適当に相槌をうちながら、俺とアリサは頷きあう。
 やはり思った通りだ。これなら作戦もうまくいくはず。


「ボクは恋愛のアドバイスはできないけど、呪いの指輪カーシド・リングの話が気になってさ。ちょっと見せてもらえないかなって」
「え? これですか?」
「そうそう。鍛冶師として興味があるのと、あとは痛みを軽減してやれないかなと思ってね。冒険者ギルドとしても、”呪いの”アイテムを放置しているのは、あまり体裁がよくないんじゃない?」

「うーん、いいけど、壊さないでくださいよ? 高かったんですから」
「大丈夫、もし壊れたらちゃんと弁償するよ。……イングウェイが」

 おい、聞こえているぞ。まったくこいつは、他のギルドメンバーよりも俺に対して遠慮がない気がする。



「話はまとまったな。じゃあマリア、頼むぞ」
「ボクは仕上げくらいだよ。むしろメインはイングウェイの魔術なんだから、しっかりしてよね」


 作戦は昨夜のうちに相談済みだ。

「~~という効果の指輪を使えば、アリサの気持ちも変えられるのでは?」
「なるほど。ってことは、指輪の改造が必要なわけだね。やだなー、アクセサリは小さいから神経使うんだよねえ」
「無理なのか?」
「まっさかあ! ばかにしないでよ。ボクより腕のいい魔法鍛冶師ルーンスミスなんて、アサルセニア中探してもいないんだから!」
「ふっ、信用しているぞ」

 魔道具マジックアイテムは製造時に魔法文字ルーンを組み込むことで完成する。
 単に魔術をかけるだけでも効果は発揮するが、時間の経過によってすぐに切れてしまう。それを防ぐために、文字を彫り込むと同時に特殊な魔術を織り込んでいくことで、半永久的な魔術効果を獲得するのだ。
 問題はこの、『道具自体に物理的な刻印ルーンを刻み込む』という過程である。剣や鎧などのある程度の大きさがあるものに比べ、指輪というのは非常に小さい。
 そこに文字を刻むというのは、かなりの技術が必要な作業だった。

「ということで、今回は前に彫ってある文字を利用しようと思うんだ。効果を反転させる方向で反転魔術リフレクトマジックを応用すればいいから、刻印も二文字くらいで足りるはずだよ」
「二文字か。ということは、魔術量をかなり圧縮しないとな」
「あー、できないのー? 仕方ないなあ。四文字くらい掘ってあげようかあ?」
「バカを言うな。簡単だ」
「ふっ、信用してるよ。――それより細かい調整をどうするかだね。気持ちよくって、具体的にどうするつもりさ?」

「そこは任せておけ。俺にいい考えがある」

 魔術を織り込むにもコツがあり、一つの文字に組み込める魔術量の制約がある。とはいえそこは組み方次第だ。同じプログラムを組んだとしても、素人と熟練者に違いが出るように、術者の腕でカバーできる範囲は大きい。
 ドロシーと一緒に転移魔法陣の作成をした記憶が思い出される。彼女は素晴らしい魔術師だった。彼女なら自分の半分の時間で終わらせることだろう――。


「できたー!」「ふう、ようやく完成か」
「ありがとうございました! これで痛みが抑えられるんですね?」
「ああ、おそらく大丈夫だ。今夜も行くのか?」
「いえ、しばらく冒険者ギルドの仕事が忙しいんですよ。ギルド長からちょっと用事も頼まれちゃって。じゃ、そろそろ私は仕事に戻りますね!」
「ああ、幸せにな」「うまくいくよう祈ってるよー」

 彼女はぶんぶんと手を振りながら走っていった。元気な娘だ。これで性格が暴走気味でなければな。本当にもったいない。

 俺たちが指輪に施したのは、想い人の拒絶に反応して激痛を与える指輪の、対象と効果を反転させる魔術だ。
 つまり、アリサ自身が他人から好意を向けられたとき、気持ちよくなるという効果がかかっている。

「しっかしイングウェイ、『気持ちよくなる効果』って、えらく漠然とした魔術だね。どうやったのさ」
「事前に、『感情を操作するのはいけない』と君に忠告されていたからな。あれを思いついたのは、君のおかげさ。ありがとう」
「え? ボク? 照れるなー。で、どんなの? 早く教えてよ」
「ASMRという術は知っているか? 俺もおぼろげながら記憶にあるだけの効果だが、今回はそれをヒントに術を構築してみた」

 俺はアリサの(忘れかけていたがアリサはゾンビである前にエルフである)長い耳を優しく撫でた。
「ひゃぅぅっ、い、いんぎー、だめだよ、そこはっ」

「ふっ、耳は神経が集まっているところ。誰しもが敏感に感じるところだ。今回はその中でも特に敏感な、耳の中をこそこそとくすぐられる効果を付けてみた」

「へ?」

「だから、耳の中をくすぐられる効果だ。耳かきをされるのは気持ちがいいだろう? それを応用してみた。”痛み”と”痒み”、別の感覚ではあるが、同じような神経という仕組みを伝って脳に伝わっている。つまり、指輪の痛みを与えるシステムを少しいじるだけで……」

「イングウェイ、君は思った以上に変態だったんだな。エルフの耳を勝手に触るなって、前に言ったじゃないか!」

 マリアは耳を押さえて、こっちをにらんでいた。顔にいつもの青白さはなく、きれいなピンク色に染まっていた。
 やれやれ、俺が何をしたってんだ。
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