賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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最終章 Bottom Of My Heart

デッドエンド

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「ふああ……、あー、イングウェイさん、おはようございます。ずいぶん寝てたんですねえ」
 俺が目覚めると、大あくびをしていたレイチェルと目が合った。
 軽い頭痛がした。レイチェルの暢気さにあてられたわけではなく、長い時間精神体でいたためだ。うん、きっとそうだ。

「今日は何日だ? あれからどれだけ経っている?」

 世話をしてくれたであろうレイチェルへの礼もそこそこに、俺はアサルセニアへ戻ってくるまでの時間を確認した。
 そして、その答えは予想通りのものだった。

「え、たしか今日で三日目ですけど?」
「やはりか」

「大丈夫ですか、顔色悪いですよ? 待ってくださいねー、今、サクラさんを呼んできますから。あ、何かいるものとかあります?」

「ああ、とりあえず水を頼む」 

 たしか、グリムの定理だったか? 地球で読んだ書物にも、同じようなことが書かれていた。
 次元間での時間の流れは一定ではない。証明はまだされていないと聞いていたが、ドロシーと俺の転生時期のずれや彼女の精神世界が荒れ果てていたことから、予感はしていた。

 パタパタと軽快な足音が聞こえてきた。
「イングウェイさんっ! 起きたって本当ですか!」
「ああ、サクラ。心配させて悪かったな」
「うええーん、待ってたんですよ、なかなか起きないからー」

「お、本当に起きてるね。はい、インギー。レイチェルから頼まれて持ってきたよ」
「ああ、マリアもすまない、心配をかけたな。……おい、これは酒じゃないか」

「え、水割りが欲しいって聞いたんだけど、聞き間違い?」

 はあ、まったく、レイチェルのやつ。

「で、なにがあったんですか?」

「ああ、実は――」

 俺は今までのことを順番に、彼女たちに説明していった。アサルセニアにたどり着くさらに前、記憶にある限りの最初からだ。
 オーランドゥの魔術書を解読し、あの世界に再度足を踏み入れたこと。ドロシーを助けられず、戻ってきたこと。
 そして、時間があまり残されていないこと。

「というわけで、俺はもう一度新福岡ニューフクオカに向かうつもりだ」

「なにが『というわけでー』だよ。インギーらしくないじゃん。昔の女が声かけてきたからって、何焦ってんの?」
 口をはさんだのは、焼酎を手に俺の話を聞いていたマリアだった。

「何言ってるんですか、マリアさん! イングウェイさんは、ドロシーさんのことを思って――」
「だからぁ、それがらしくないっていってんの。ボクが知っているインギーは、対策も無しに同じ失敗を繰り返すアホじゃなかったけど?」
「わかってるさ。だから、みんなを集めたんだ」

「へ?」
「みんなの意見が聞きたい。俺とドロシーがさんざん考えて無理だったんだ。魔術にとらわれず、俺たちが気づけなかった角度からのアイデアが欲しいんだ」

 そういうことならと、サクラがおずおずと手をあげる。
「イングウェイさーん、ちょっと質問があるんですけど」
「なんだ、サクラ」

「インベントリってのをそのまま通ってこっちの世界に来るのって、無理なんですか? ええと、ドロシーさんとイングウェイさん、お互いにあっちとこっちからインベントリに入れば、簡単に行き来できないかなーって思って」

「それができれば話は簡単なんだがな。インベントリ内には、生命のある物は入れられない。あれは、次元の裂け目を利用した技術なんだ。命あるものが中に入ると、肉体と魂が引きはがされて、バラバラになってしまう。当然、通り抜けるなんてまず無理だ」
「そっかあ」

 しょぼんとするサクラに、俺は気にするなと声をかける。
 なにせ、あのドロシーが何年もかけて無理だったのだ。そう簡単にいいアイデアが出てくると思っているわけではない。

「あのー、私もさっきの話で思ったことがあるんですけど。ドロシーさんが精神体アストラルボディのままでアサルセニアに来たとしても、困ることって肉体がないことくらいじゃないですか?」
「うむ、まあ、そうだが……」
 肉体がないことはかなりの問題だと思うのだが。レイチェルとの感覚の違いに少々呆れつつ、とりあえず話を聞く。

「じゃあ、適当な死体の体に入ってもらいましょうよ。これで解決です!」
「え、それってゾンビーにするってこと?」
「ゾンビでもー、じゃなかった。あくまでも一時的にですよ。魔力が回復してから、あらためてその、何とかって場所に体を取りに戻ればいいんじゃないかなーって」

「なるほど、その手があるか」

 死霊術師ネクロマンサーであるレイチェルならではの発想だ。
 だが、問題は残された彼女の体だ。精神体が抜けきってしまった体は、死体と変わらない。あらためて取りに行くまで、もつわけがない。

「マリアさんも最初にゾンビになってからけっこう経ちますけど、なんだかんだでうまく体が維持できてますし。きっとドロシーさんもすぐ慣れますよ」

「うーん、いいのかなあ? ボクが言うのもなんだけど、やっぱり本人の同意も無しにゾンビにしちゃうってのは。特にその人って、今は生きてるんでしょ? 抵抗あるなあ」
「そうですか。いい考えだと思ったんですけどねえ……」

 ううむ、ゾンビーマリア本人の言葉にはなかなか説得力があるが、案としては面白い。

 待てよ。
 俺の頭の中で、いくつもの線がつながりつつある。
 ただ、まだ足りないピースは多い。そうだな、あの問題はこれでいいとして、こっちが――。

「ありがとう、みんな。やはり相談してよかったよ。もしかしたらうまくいくかもしれない」
「なんとかなりそうですか?」
「ああ。準備することはいくつかあるけどな。まずはレイチェル、君からだ」
「はーい、私にできることならなんでも!」
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