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はじまりは・・・

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キラキラしてた10代後半から20代前半

あの頃、若いときの女って何の根拠もないのに自信に満ちててさ、恐いもの知らずで、
何にでも挑戦できたような気がする


メディアでは盛んにミレニアムなんて言って次代に浮かれてた頃

婚約解消されて、その後すぐに彼ができたけど、そんな彼からも振られちゃってね・・・
街のネオンは揺らいで見えて
喧騒から漏れてくるFirst Loveは今でも私の悲しいBGM

打ちのめされちゃってね
怖くって、臆病になっちゃって
2度と恋なんてするもんか!って
あの日を境に心を硬くして、仕事だけに打ち込んできたわ・・・




月日が経つのは早いものよね、あれから15年
適齢期なんて、とっくに過ぎている

あれ以来、出会いやお誘いが全くなかった訳じゃないけど、背も高くて気が強く見られる私には、プライベートで誘われるなんてことはなかなか無かった

そりゃあ三十路を向かえるときとか少し落ち込むこともあったけど、私のプロジェクトが軌道に乗っていた頃だったから仕事にシフトすることも助けになってウジウジ考えずに済んでいたのかも

色々な案件をこなし、仕事も労働組合も何でもやってきた
部下も段々と増えて、今や会社では役員クラスまで昇進してしまったわ



東京都は区外
私が住むアパートから会社までは、たったの1駅
ドアtoドアで30分で着く距離
仕事だけに集中するために、あの日から引っ越してきた1DKの部屋も、昇進と共に随分と手狭な感じになっていた
いつも遅い時間に帰って簡単な食事とお風呂で寝るだけの寝室には、残念ながら男性を招いたこともないのよね

今日も何の色気もなく、冷たいテーブルとベッドが待ってるだけ


週末は大抵、うさ晴らしで同僚たちと飲みに行くことが多いんだけど、同僚だからね
年の頃が近いお姉様たちばかり
10年以上も同じところで働いていれば小さくない街でも色々なお店へ食事に行くから馴染みの店は決まっている

既婚は来れない人も多いけど大体1軒目で帰るよね
2軒目はレギュラー陣3~4人でいつものBAR
カウンター5席とBOX2つの小さなBARでは常連になっててね、店員さんはもちろん、お客さんもちらほら顔馴染み
私の場合は週末だけに限ったことじゃないからだけどね
仕事でも1人でも飲みにいくところ

自分でも分かってる
おじさん化してるって・・・

この日も既にホロ酔いの私たちお姉様は仕事以外の話しに花を咲かせる

「アキちゃんち3人目だってー」
「凄いね~、でも高齢じゃん!大丈夫?」
「私も産休取ってみたいわ~」
「取ってみたかった!でしょ!」
「あはは!売れ残りにカンパーイ!」

赤ワインを片手に、他愛もなく自虐も含んだ話題で笑い盛り上がる


季節なんて関係なく、そんな日々を過ごして、
例年より寒くならなかった1月末

今日も同じコースでBARまで来たけど、少し飲み過ぎたのかも

飲みの場に仕事を持ち込むのは好きじゃないけど、斡旋していたサーカスのチケットが余ってしまっていることが少し気掛かりだった

BARへは部下で若手のユキと2人カウンター

「ねぇ、ユキ、チケット売れない?あと少しなんだよねー」
「そうですねぇ~、私の取引先にもかなり強力していただきましたよ、けど、安くはないから、なかなか難しいですよねー・・・マリア先輩は行かれるんですか?」
「私⁉︎・・・全然、自分では行くつもりなかったわ・・・ユキ行くの?」
「私は彼と行こっかなぁーと・・・」
「そう、良いわねぇ~、じゃあ、もう少し探してみるわ」
「ねぇ、先輩、ここで売れないかな?」
「え?ちょっと!それは絶対ダメよ?」
「違いますよー、マリア先輩がってこと!」
「・・・どういうこと?」
「先輩が2枚買って、一緒に行ける人を見つくろえばOKでしょ~、ねぇー?マスター?」
「ちょっと!やめなさよ!」

マスターが既婚なのは知ってるし、若い店員さんも可愛い彼女がいるのも知ってる
マスターは含み笑いで
「すみません、興味はあるんですが、店もありますので、あちらのお客様に聞いてみましょうか?」
「ちょっと!マスターまでやめてくださいよ!」
「そうですよねー、すみません、マリア先輩が直接口説くべきですよねー?」
「はい、そう思います」
「アンタたちバカなの?」

何気なく私もユキもマスターも
少し周りを気にしてしまう


と、
1空席挟んだ2人組の若い顔馴染みの男の子と目が合ってしまった
こっちを見て笑顔だ
2度見して、少しお酒の力で言ってみた
「ごめんね、うるさくて」
「いいえ、楽しそうだなぁと」
「聞いてました?」
「はい、聞こえちゃってました」
「行ってみます?」
「良いんですか!興味あったんですよねー」
「私とよ?本当に良いの?」
「連れて行っていただけるんですよね」
「先輩!やったじゃん!」
「やったじゃん!」
「なんでマスター復唱するのよ」

少し笑いが起こったところでマスターの粋な計らい
私たち2人と隣の2人に1杯ずつマッカランを出してもらって乾杯

彼らと乾杯するのは初めてじゃなかった
お姉様たちは許容が広いからね
以前、少し酔った彼らは私たちと乾杯したかったみたいで付き合ってあげたことがあったわ

見るからに若いアナタ、ユウ君の相方はジュン君
今日はジュン君の送別会だったんだって

私はユウ君とLINEを交換して、翌月20日の待ち合わせを約束したの


飲みの席だったから本当に一緒に行くのかなんて、あまり信じてはいなかった

5日後、
夜中にユウ君からのLINE
「庄や行こうよ」って

「いきなりどうしたの?」

「行きたくなって、今度一緒に行こ」

「お刺身が美味しいよね、今度ねー」
仕事もあったし、何となく流してしまった

「来週いつ空いてます?」

あら?以外とグイグイ来るタイプ?

仕事の一環としてチケットをさばきたかっただけ、彼への意識なんてなかった

「ごめんなさい、来週は忙しくて、また連絡しますね」(´・ω・`)





まだ、

春の心地良い香りと暖かさも

夏の燃える様な情熱や色気も

秋の人恋しい刹那さも、
もの思いに耽る夜も

冬の凍えそうな涙と痛みも、
真っ白な雪の美しさも


感情を忘れ、あきらめ、

ただ、心は凍りついたままの、

はじまりは、まだ、そんな時期のこと
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