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また逢えるその日まで
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遠い東の国の物語。
そこには古来より人ならざる者が棲んでいる。
ある時珍しい双子の龍が誕生した。
皆、とても喜び我が子のように可愛がった。
成長した双子が人の姿をとれるようになると、人里に降りて人々の暮らしを見るようになった。
そこで双子の片割れの少女が番を見つける。
番は龍の棲む湖を守ることを代々生業としている人間の一族の跡取りの少年だった。
ふたりは互いに惹かれ合い思い合うようになる。
一方双子の片割れの少年はそんなふたりを見ているうちに番に憧れを持つようになった。
自分の番は何処にいるのか。
まだ見ぬ番に思いを馳せた。
龍の双子の白蘭と水蓮、水蓮の番の巽は共に成長し、共に過ごした。
数年後、美しく成長した水蓮と凛々しく精悍な青年となった巽は婚姻し共に生きることを選んだ。
ふたりの婚姻を見届けた白蘭は番を探すため、棲家としている湖を離れた。
行く先は決まっていない。
何処にいるのかも分からない番を探す途方もない旅路となることだろう。
しかし、長く続くと思われた旅路は思いの外早く終わりを迎えた。
同じ国だが故郷よりもずっと栄えている都に白蘭の番はいた。
龍の姿ならば飛べば一刻もしないだろう距離だった。
知らせを受け取った水蓮と巽、それから湖に棲んでいる他の龍たちもとても喜び、白蘭が番と出逢えたことを祝う宴が開かれた。
あとは白蘭が番を連れて戻ってくるのを待つだけだ、と…
しかし白蘭はなかなか帰ってこなかった。
白蘭の番は都を治める領主の娘だった。
そしてその娘には親の決めた許嫁がいた。
親が決めたのだとは言うが、その娘自身満更でもないようだった。
見目も良く、金もあり、地位もある。
婚姻するのにこれほど良い条件を持つ男は他にいないだろうという理由だった。
そもそも人間には番という概念がない。
いくら白蘭の見目が良く愛の言葉を貰っても、一生を共にするのはありえないと言われたそうだ。
自分はこんなにも胸が高鳴り苦しいのに、番に通じることはない。
愛を捧げても返ってくることはない。
番が他の男と身体を寄せ合っているのを目にするのが辛い。
水蓮と巽が思い合う姿を長年見てきた白蘭にとって、番に拒絶されることは心が引き裂かれるようで耐えられなかった。
このまま都にいるとふたりの姿を見るたびに龍の力が暴走し破壊衝動が沸いてしまう…
許嫁の男を八つ裂きにしてしまう…
そんな姿を番だけには見られたくないと恐れた白蘭は逃げるように故郷に帰ってきた。
帰ってきた白蘭はとても弱っていた。
時が経っても回復することはなかった。
それでも時折擡げる破壊衝動を抑えるため、なんとか保っているようだった。
限界だった。
自我を忘れて龍の姿で暴れて皆に迷惑をかけてしまうのだけは、と恐れた白蘭は自死を選んだ。
水蓮と白蘭は双子である。
白蘭の身を引き裂かれるような思いは水蓮の中へと流れ込んできていた。
白蘭にも番と結ばれる歓びを味わってほしい。
ひとりで寂しい想いはさせないと水蓮は心に決めた。
白蘭が自死するための自爆する現場に水蓮が現れると白蘭を抱きしめた。
共に眠りにつこう
白蘭の心の傷が癒えるまで、何年かかってでも
水蓮と白蘭は抱き合ったまま溶けない氷に包まれて眠るようにして封印された。
水蓮は昨夜のうちに巽と別れを済ませた。
愛しい番だ。
離れたいわけがない。
しかし、自分にとっては白蘭もまた離れてはならない己の半身だ。
子供たちは巽に託した。
共に成長を見届けることができないことを許してほしい。
共に生きると約束したのに守れない妻で申し訳なく思う。
それでも巽は許してくれた。
一生分の恋をした自分は幸せだ。
水蓮と出逢い、恋をして、共に暮らし、可愛い子供たちにも恵まれた。
龍の血を引くこの子たちには役不足かもしれないが、君に顔向けできるよう立派に育ててみせるよ、と。
そして、何百年、何千年かかってでも逢いに行くから、来世でも妻になってくれないか、と。
水蓮は泣いて受け入れた。
水蓮たちの封印が解けるのが先か。
巽が生まれ変わるのが先か。
水蓮と巽には結ばれたときに魂の番であることがその身に刻まれている。
蓮の花の模様が身体にくっきりと浮かんでいるのだ。
どれほどの時を待ち続けるとしても、その番の模様がある限り希望はる。
水蓮と白蘭が氷に包まれるのを見守りながら、巽は流れる涙を止めることができなかった。
ふたりを包む巨大な氷は湖の底へと沈められた。
他の人間に見られるわけにはいかないと、他の龍たちからの提言だった。
その湖を龍たちの庇護の下、巽の一族が守っている。
巽は時折子供たちを連れては湖へと出掛けた。
この湖にはお前たちの母が、母の兄と一緒に眠っているんだよ、とよく語りかけている。
ある時長男が湖面に向かって「母様元気?」と話しかけた。
長男を真似た長女も「お母さま、元気ですか?」と問いかけ、続けざま次女も「かあたま」と話しかけた。
するとそれに答えるかのように湖の底が淡く光り輝いたのを見た。
封印されても水蓮たちは生きている。
それを支えに巽は子供たちを育て湖を守り続けた。
巽は一族の跡取りだ。
子供たちのためにも、一族のためにも再婚するべきとの声が多く上がった。
しかし、自分の妻は水蓮ただひとりである、この身は水蓮に捧げたと言い切った。
自分のことが気に食わなければ跡目を降りても構わないとまで言い放った。
一族と衝突し続け、巽の再婚話もなくなり落ち着いた頃、巽と子供たちが姿を消した。
何処を探しても見つからないことから、この土地を去ったのだろうと結論付けられた。
湖からは時折子供たちの声が聞こえる。
淡く輝いて見えることもある。
それこそ龍の棲んでいる湖だ。
何が起きても不思議はない。
湖を守るのは人間だが、この土地を守っているのは龍たちだ。
これから先も人知れず龍の目で見守り続けていくのだろう。
封印が解かれ、運命が再び動き出すその時まで。
そこには古来より人ならざる者が棲んでいる。
ある時珍しい双子の龍が誕生した。
皆、とても喜び我が子のように可愛がった。
成長した双子が人の姿をとれるようになると、人里に降りて人々の暮らしを見るようになった。
そこで双子の片割れの少女が番を見つける。
番は龍の棲む湖を守ることを代々生業としている人間の一族の跡取りの少年だった。
ふたりは互いに惹かれ合い思い合うようになる。
一方双子の片割れの少年はそんなふたりを見ているうちに番に憧れを持つようになった。
自分の番は何処にいるのか。
まだ見ぬ番に思いを馳せた。
龍の双子の白蘭と水蓮、水蓮の番の巽は共に成長し、共に過ごした。
数年後、美しく成長した水蓮と凛々しく精悍な青年となった巽は婚姻し共に生きることを選んだ。
ふたりの婚姻を見届けた白蘭は番を探すため、棲家としている湖を離れた。
行く先は決まっていない。
何処にいるのかも分からない番を探す途方もない旅路となることだろう。
しかし、長く続くと思われた旅路は思いの外早く終わりを迎えた。
同じ国だが故郷よりもずっと栄えている都に白蘭の番はいた。
龍の姿ならば飛べば一刻もしないだろう距離だった。
知らせを受け取った水蓮と巽、それから湖に棲んでいる他の龍たちもとても喜び、白蘭が番と出逢えたことを祝う宴が開かれた。
あとは白蘭が番を連れて戻ってくるのを待つだけだ、と…
しかし白蘭はなかなか帰ってこなかった。
白蘭の番は都を治める領主の娘だった。
そしてその娘には親の決めた許嫁がいた。
親が決めたのだとは言うが、その娘自身満更でもないようだった。
見目も良く、金もあり、地位もある。
婚姻するのにこれほど良い条件を持つ男は他にいないだろうという理由だった。
そもそも人間には番という概念がない。
いくら白蘭の見目が良く愛の言葉を貰っても、一生を共にするのはありえないと言われたそうだ。
自分はこんなにも胸が高鳴り苦しいのに、番に通じることはない。
愛を捧げても返ってくることはない。
番が他の男と身体を寄せ合っているのを目にするのが辛い。
水蓮と巽が思い合う姿を長年見てきた白蘭にとって、番に拒絶されることは心が引き裂かれるようで耐えられなかった。
このまま都にいるとふたりの姿を見るたびに龍の力が暴走し破壊衝動が沸いてしまう…
許嫁の男を八つ裂きにしてしまう…
そんな姿を番だけには見られたくないと恐れた白蘭は逃げるように故郷に帰ってきた。
帰ってきた白蘭はとても弱っていた。
時が経っても回復することはなかった。
それでも時折擡げる破壊衝動を抑えるため、なんとか保っているようだった。
限界だった。
自我を忘れて龍の姿で暴れて皆に迷惑をかけてしまうのだけは、と恐れた白蘭は自死を選んだ。
水蓮と白蘭は双子である。
白蘭の身を引き裂かれるような思いは水蓮の中へと流れ込んできていた。
白蘭にも番と結ばれる歓びを味わってほしい。
ひとりで寂しい想いはさせないと水蓮は心に決めた。
白蘭が自死するための自爆する現場に水蓮が現れると白蘭を抱きしめた。
共に眠りにつこう
白蘭の心の傷が癒えるまで、何年かかってでも
水蓮と白蘭は抱き合ったまま溶けない氷に包まれて眠るようにして封印された。
水蓮は昨夜のうちに巽と別れを済ませた。
愛しい番だ。
離れたいわけがない。
しかし、自分にとっては白蘭もまた離れてはならない己の半身だ。
子供たちは巽に託した。
共に成長を見届けることができないことを許してほしい。
共に生きると約束したのに守れない妻で申し訳なく思う。
それでも巽は許してくれた。
一生分の恋をした自分は幸せだ。
水蓮と出逢い、恋をして、共に暮らし、可愛い子供たちにも恵まれた。
龍の血を引くこの子たちには役不足かもしれないが、君に顔向けできるよう立派に育ててみせるよ、と。
そして、何百年、何千年かかってでも逢いに行くから、来世でも妻になってくれないか、と。
水蓮は泣いて受け入れた。
水蓮たちの封印が解けるのが先か。
巽が生まれ変わるのが先か。
水蓮と巽には結ばれたときに魂の番であることがその身に刻まれている。
蓮の花の模様が身体にくっきりと浮かんでいるのだ。
どれほどの時を待ち続けるとしても、その番の模様がある限り希望はる。
水蓮と白蘭が氷に包まれるのを見守りながら、巽は流れる涙を止めることができなかった。
ふたりを包む巨大な氷は湖の底へと沈められた。
他の人間に見られるわけにはいかないと、他の龍たちからの提言だった。
その湖を龍たちの庇護の下、巽の一族が守っている。
巽は時折子供たちを連れては湖へと出掛けた。
この湖にはお前たちの母が、母の兄と一緒に眠っているんだよ、とよく語りかけている。
ある時長男が湖面に向かって「母様元気?」と話しかけた。
長男を真似た長女も「お母さま、元気ですか?」と問いかけ、続けざま次女も「かあたま」と話しかけた。
するとそれに答えるかのように湖の底が淡く光り輝いたのを見た。
封印されても水蓮たちは生きている。
それを支えに巽は子供たちを育て湖を守り続けた。
巽は一族の跡取りだ。
子供たちのためにも、一族のためにも再婚するべきとの声が多く上がった。
しかし、自分の妻は水蓮ただひとりである、この身は水蓮に捧げたと言い切った。
自分のことが気に食わなければ跡目を降りても構わないとまで言い放った。
一族と衝突し続け、巽の再婚話もなくなり落ち着いた頃、巽と子供たちが姿を消した。
何処を探しても見つからないことから、この土地を去ったのだろうと結論付けられた。
湖からは時折子供たちの声が聞こえる。
淡く輝いて見えることもある。
それこそ龍の棲んでいる湖だ。
何が起きても不思議はない。
湖を守るのは人間だが、この土地を守っているのは龍たちだ。
これから先も人知れず龍の目で見守り続けていくのだろう。
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