でいだらぼっちと。

朝陽ヨル(月嶺)

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でいだらぼっちと。

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 昔々、でいだらぼっちという巨人がいました。どれくらい大きいかというと、なんと山のように大きいのです。とても大きいけれど、とても優しい。

 でいだらぼっちの仕事は、山を作ったり山を運ぶことです。
 いつものように山を運ぼうとした時でした。その山に少女がひとりで泣いていました。

「でいだら~」

 でいだらぼっちは「でいだら~」としか言えません。それでもでいだらぼっちは身振り手振りで少女を励ましました。
 少女はでいだらぼっちを見て驚きましたが、怖がりはしませんでした。

「あなた、でいだらさんっていうの? わたしね、お父さんもお母さんもいないの。だからわたし、ひとりぼっちなの」

 少女をかわいそうに思ったでいだらぼっちは、少女を肩に乗せて歩き出しました。

「わたしを連れてってくれるの?」
「でいだら~」
「ありがとう」

 でいだらぼっちの肩の上で少女は泣き止んで、でいだらぼっちと一緒に行くことを決めました。

 巨人のでいだらぼっちは進む距離も普通の人とは違います。大きな歩幅でぐんぐんと広い大地を踏みしめて進んでいくと、山の下で困っている老夫婦を見つけました。

「この山さ越えねぇど娘に会えねぇとはな」
「孫の顔も見たいんですけどねえ」

 どうやら山を越えないと娘と孫に会えないようです。足腰の弱った二人に山越えはしんどいことでしょう。

「でいだら~」

 次の日。でいだらぼっちは山を砕き平地にして道を作りました。
 老夫婦は大喜びしました。でいだらぼっちが作った道を通り、隣の村へ行って娘と孫に会うことが出来ました。

 でいだらぼっちはまた大地を進んで行きます。
 今度は、山が影になって日当たりが悪く作物が育たないと困っている農夫がいました。

 次の日。でいだらぼっちは山を動かして日が当たるようにしてやりました。

「これなら日が当たるぞ! でも、水も足らないんだよなあ。近くに川でもありゃいいんだがなあ」

 また次の日。雨が降りました。山を動かした窪みに雨が溜まっていきます。その沼底をさらって畑の近くに川を作りました。

 農夫は大喜びしました。これで作物を育てることが出来ます。

 でいだらぼっちはまた大地を進んで行きます。雨が降ったことでぬかるんでいる大地。

「わあっ!」

 でいだらぼっちは沼に足を踏み入れ滑ってしまいました。その時、肩に乗っていた少女が落ちてしまいました。地面に着く前に手で受け止めることが出来ました。

「こわかった~」

 少女はでいだらぼっちの手の中でほっとひと息ついて安心しました。
 しかし、でいだらぼっちは怖がらせてしまったことで泣いてします。滑って手を着いた窪みには、でいだらぼっちの流した涙が溜まって湖になりました。涙の雫も大きい。けれど、湖になるくらいたくさん泣きました。

「でいだらさんはわるくないわ。こわかったけど、ちゃんとでいだらさんがたすけてくれたもの」

 少女が笑うと、でいだらぼっちも泣き止んで一緒に笑いました。

 でいだらぼっちはまた大地を進んでいきます。進んだ先には動物が多く棲む山がありました。
 大きな手に少女を乗せて山に降ろします。動物たちは少女の周りに集ってきました。
 少女は動物たちとすぐ仲良くなりました。

「うふふ、どうぶつたちとなかよくなれたよ」
「でいだら~」

 でいだらぼっちは少女の笑顔を見ながら、少女に向かって手を振りました。ここでお別れのようです。
 少女はでいだらぼっちの手を全身で抱きつきました。

「いやだよ、おわかれなんて」
「でいだら~」
「わたし、でいだらさんといっしょにいるわ」

 動物たちがいて食べ物もあります。ここで暮らせば少女は幸せになれるでしょう。けれど少女はでいだらぼっちを離しませんでした。

「いっしょにいたいの。でいだらさんといれば、もうひとりぼっちじゃないもの」

 少女の体の温もり、言葉の温かさに、でいだらぼっちはまた泣いてしまいました。

 山を砕いて隣村に行けるようになった老夫婦も、日が当たらず作物が育たないと嘆く農夫も、山を作ったり動かして喜ぶ動物も、植物も、みんな、でいだらぼっちのことを知りません。
 ひっそりと仕事をするでいだらぼっち。そんなでいだらぼっちのことを誰も知らないのです。
 初めて知ったのは少女でした。少女だけが、でいだらぼっちを知っています。

「でいだら~」

 少女を肩に乗せて、でいだらぼっちはまた大地を進んで行きます。
 こうして二人は、ひとりぼっちじゃなくなりました。
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