フランシェス兄弟はアンニュイ(共通)

朝陽ヨル(月嶺)

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各恋人と出会う前の過去話

罪と罰、虚言3 ジョアルside

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 ――数時間後。事態が落ち着いた頃。
 ジョアルは何事も無かったかのように自室で医学書を捲っていた。城内で騒ぎになっていようが知ったことではない。賊の侵入などジョアルにとってはどうでもいい出来事でしかない。 

 ……来た 

 足早に向かってくる足音が聞こえてくる。このタイミングで自分の部屋にやって来るのは一人しか考えられない。 

「ジョアルッ!!」 

 普段ならするノックを忘れ、怒声と共に入ってきたのは弟のシリスだった。
 入ってきたと同時に、ジョアルは【偽り】という名の仮面を顔に張りつけた。 

「シリスっ」 

 シリスとは逆に嬉しそうな声色で相手の名を呼び、読んでいた医学書を後ろへ放って抱きついた。 

「離れろ」 

 そう言うとジョアルは素直に従った。
 そしてジョアルから話を振る。 

「シリス、俺ね、賊を斬ったよ。偉い?」 

 まるで子供のように首を傾げて期待する返答を待つ。
 シリスは呆れて溜息を吐き、問いには答えなかった。 

「……あまり騒ぎを大きくするな」
「騒ぎ立てるつもりはなかったんだけど、周りが勝手に騒ぎ出すから……」
「他人のせいにするな。自分が行ったことには最後まで責任を持て」
「シリスは真面目だね。そういう所好き」 

 ……ほら、また嘘吐いた 

「……私からはそれだけだ」
「また来てね」 

 ……もう来なくていいよ 

 シリスが部屋から出ていくと、一瞬にして無表情に戻る。そしてまた、何事も無かったかのように医学書を読み出す。
 シリスの前でだけ、必ず偽りの仮面を装着する。それは幼い頃に培った危機感だった。
 シリスは数百年に一人現れるかどうかの逸材。
 医療系列で名を上げていたフランシェス家。しかしシリスが頭角を現し、それに伴い武家として有名になった。本来の姿が薄れていった。
 シリスを敵にすれば不利になる。逆に味方にすれば有利になる。それを本能的に悟った幼い頃のジョアルは、傷つけ、戒め、見えない鎖でシリスを繋ぎ止めた。そうすることで仮初めの自由を手に入れた。 

 俺はいつだって保身に走ってる。そうやって罵られたっていい。人生をどう上手く生き抜くかが大事でしょ? 皆互いを騙しながら生きてる。それをどれだけ見破られないで生きていけるか。周りを利用して、蹴落として、また利用して……それが、上手い生き方。人生って面倒くさいね。
 いくら諦観しててものらりくらりと生きてるのは、少なからず罪悪感があったから。
 可哀相なシリス。俺が傍にいたらシリスも悪いんだよって心の傷を抉って、その後目一杯慰めてあげる。シリスには俺しかいないって分からせてあげる。俺にも……シリスしかいないよ。そう言って、また堕として、その繰り返し。

 ――いつになったら、この負の連鎖が断ち切れるんだろう――


 END
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