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三話 出逢い回想

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「コケーッコッ!」
「はあー……」

 思わず溜め息が漏れる。太郎丸の散歩はこんなに大変なのかと痛感した。太郎丸の給水器に水を入れてやり、それから手洗いとうがいを済ませる。

「おじいちゃん、ただいま」
「ああ、ココロか。おかえり」

 寝ている祖父に挨拶をして二階へ上がった。少しだけドキドキしている胸に手を当てる。

「《おかえり》って言われるの、なんだかなつかしい……」

 いつもお帰りと言うのは自分だった。学校から帰っても両親は仕事で家にはおらず、寝た後の深夜や、朝起きた時に帰ってきていた。遊びに出掛けて帰ってきた時なんて当然そんな言葉は聞けなかった。

「クックさんもおかえり」
「ピィッ」

 ハンドバッグからクックと床材をケージへ戻し、給水器を掴む。

「お水もってくるね」

 そう言って階段を降りていった。玄関の前を通るとタイミングよく扉が開いた。

「たっだいまー我が家!」
「ただいま」

 元気よく入ってくる伯父と落ち着いている伯母。
 もじもじとしてしまうが、勇気を振り絞って声を出した。

「あっ……の……、おかえり、なさい」
「ココロちゃんただいまー。なに、玄関で待っててくれたの?」
「そうじゃないけど、たまたま……」
「ふーん。ま、いいけど」

 伯父は買い物袋を玄関に置いてまた外に出ていった。
 伯母は靴を脱いで上がり、腕時計を見て。

「そろそろ太郎丸の散歩行かないと」

 そう伯母が呟いた。
 またも言う時だ。ぐっと腹に力を込めて。

「……あのね伯母さん、おさんぽ……太郎丸さんといってきたよ」
「あらそうなの。力強いから大変だったでしょ」
「うん。でも……ちゃんとかえれてたすかった」
「そう。散歩ありがとう」
「……どういたしまして」

 澄ました顔は変わらないがお礼を言って、それから洗面台に向かっていった。
 ありがとうの一言で、それだけでこんなにも嬉しい気持ちになるなんて。
 水道の蛇口をひねり、給水器に水をたくさん入れて階段を昇ろうとした。

 ガチャン

「はーい、ココロちゃんにプレゼントー!」
「あっケース!」
「そうそう。あとついでにカーテンもね。はい、持ってくから昇ったのぼったー」

 買ってきた衣装ケースとカーテンを運んでくれる。
 先に昇って部屋の扉を開けた。
 伯父はどこに置くか確認して、部屋の隅に置いてくれた。カーテンもとりつけてくれる。

「じゃあ大切に使ってねー。壊しちゃダメだよ?」
「う、うん。ありがとう伯父さん」

 けらけらと笑って扉を閉めて伯父は出ていった。
 ココロは部屋の真ん中で一気に力が抜けてしまいその場で座った。

「はあー…………いっぱい……いっぱい、今日はたくさんうれしくてドキドキしちゃう」

 溜め息をしてから立ち上がり、水置き場に給水器を設置する。
 するとクックは一目散に水を飲み出した。相当喉が渇いていたのだろう。

「クックさん、あのね、二人にちゃんとおかえりなさいって言えたよ。あとね、伯母さんにありがとうって言われちゃった。太郎丸さんとおさんぽしたから。あとね、伯父さんケースとカーテンかってきてくれたよ」

 好きな色は水色と答えたのだが、買ってきた衣装ケースとカーテンは何故か桃色である。ココロにとってはそれでも良かった。 

「おじいちゃんにはおかえりって言ってもらえたし。きょうはいい一日だったの」
「ピィッピィッ」
「クックさんもよかった? お外まだあんまりいったことないもんね。またこんどいっしょにいこう」
「ピヨヨヨッ」

 大変な散歩だったが、近所のことも太郎丸のことも少しわかった。買い物に一緒に行けなくて悪いことをした。次は頑張って勇気を出して一緒に行けたらいい。
 リュックの中から洋服を取り出して早速ケースへ入れてみた。まだ空きが沢山ある。その空きが埋まっていくのが今後の楽しみでもある。
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