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五話 学校へ行こう

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「「ココロちゃーん」」
「っ! ……えっと、なに?」

 二時間目が終わったところで十五分の休み時間が挟まれる。ココロの席の周りには女子が集まってきていた。

「ココロちゃんって外国人?」
「かみキレーだね」
「目も青? みどり? めずらしー」
「外国語しゃべれるの?」

 複数の人から複数の質問を一斉にされても理解が追い付かない。コミュニケーションが器用ではないココロにとっては尚更である。

「……外国人じゃないよ」
「そうなんだー」
「えっ、外国人じゃないのにそんなかみの色なの?」

 更に聞いてくる女の子は、垂れ目がちで、ふんわりと内巻きにしたミディアムカットの髪型をしている女子。彼女は一宮いちのみや愛美まみという。

「目も黒くないし」
「……はんぶん、なんだけど……」
「はんぶん? なにが?」
「ハーフってことでしょ」

 愛美の言葉に戸惑っていると、カチューシャをしたストレート髪の女子が話に割って入ってきた。

「はんぶんってそういうことじゃないの?」
「そ、そうっ! ママが外国の人で……」
「へえー」

 廊下側の席では男の子たちが集まりひそひそと話している。廊下にも数人集まってきており『かみの色と目の色がめずらしい』『かわいい』『きれい』などと賛辞を述べている。
 その言葉を聞いてなのか、愛美が声を張り上げる。

「マミちゃんの方がかわいいけどねー。お金もちだし!」
「はあ……」

 何を言いたいのかわからず、何となくの相づちしか打てず困ってしまう。

「気にしなくていいよ」
「……ふんっ」

 愛美はわざとらしく鼻を鳴らして自分の席へ戻っていった。一緒に来ていた女子たちもそそくさと愛美についていった。
 後でやって来たカチューシャの女子はまだいて、ココロに向き直る。

「自己しょうかいしとこうと思って。わたし、徒町かちまち百合子ゆりこ。がっきゅういいんなの」
「そうなんだ。わたしは、天海ココロっていうの」
「うん。さっききいたからしってる」
「そうだよね……」

 覚えていないかもと思って一応名乗ったが、さすが学級委員というべきなのか、しっかりしているというのか。

「わからないことがあったらきいて」
「うん、ありがとう」
「じゃあね」

 百合子も自分の席へ戻っていった。次の授業の教科書を出して予習しているあたり努力家なのだろう。しっかりしていて見習いたいものだ。愛美もそうだが、相手から来てくれるのはとてもありがたい。

「……」
「……?」
「……っ」

 視線を感じて隣の席にいる凛々華に顔を向ける。
 しかしタイミングよく顔を逸らされてしまった。

 なんだろう? 多分こっちを見てたような気がするんだけどな……

 予鈴が鳴り休憩時間が終わる。バタバタと着席していく生徒たちだが、三時間目の授業が始まれば静かに勉強を開始する。授業自体は前の学校とほぼ変わらずついていけそうだった。
 授業は三時間目、四時間目と過ぎていき、学校の楽しみでもある給食の時間となった。隣の席と向かい合わせになるように机を動かす。凛々華と対面する形となるが、どうしてか目が合わない。視線を斜め下に動かしたり、顔を横へ逸らしたりと挙動不審である。
 しかしココロから話しかけるにはまだ勇気が足りなかった。
 給食が終わったら掃除の時間である。教室の床や廊下、階段やトイレなど分担されている。掃除が終われば昼の休み時間となる。校庭でサッカーをしたり、遊具で遊んだりと元気よく子供らしい。
 ココロは何をしようか思案していた。学校へ来る前は学校の中を探険してみようかと考えていたが、転校初日で緊張疲れしてしまったのか動き回りたくない気分でもあった。

 となりの子……どこかにいくのかな?

 凛々華が席から立ち教室を出ていった。手には数札本を持っていた。
 なんとなく気になり凛々華の後を数メートル離れてついていく。

 本もってるからとしょしつかな? 場所わかんないし、ついていけばとしょしつの場所わかるかもしれない

 ただそれしか考えていなかったのだが、凛々華は突然立ち止まり振り向いた。頬は紅潮しており、眉は跳ね上がっていて、丸い瞳はやや涙目気味になっている。

「……こ、来ないでっ! ついて来ちゃダメ!」
「わっ!?」

 大きな声に驚いて後退りする。
 凛々華は本を抱えて一目散に走っていった。その際、数札ある中の一冊を落としていってしまった。

「あっ、おとしたよ!」

 きっと本人には聞こえていない。
 落とした本を拾ってみる。それは絵本だった。タイトルは【ひつじのおばあさん】と書かれている。

「絵本が好きなのかな?」

 追いかけようと思ったが、凛々華の走りが案外速く見失ってしまった。仕方なく教室に戻ると百合子がいたので話しかけてみることにする。

「ユリコちゃん、休み時間なのにべんきょうしてるの?」
「そうだけど」
「あそばないの?」
「時間がもったいないから」
「そうなのかなあ……」
「体は体育の時間にうごかすから、休み時間はべんきょうしていたいの」

 それは休み時間になってないのではないか。喉まで出かかる言葉を飲み込んで、ココロは「がんばってね」と言ってその場を離れた。トイレを済ませて教室に戻ってきたら予鈴が鳴る。休み時間とはあっという間だ。
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