99%興味【打ち切り】

朝陽ヨル(月嶺)

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二章〈worry〉〜自覚したらアイツに夢中〜

二 有馬視点

 チョコと別れてからスマートフォンを開き簡潔な連絡を入れる。それから駅方面へと向かった。最寄りの駅に着き、待つこと五分でやってきたのは高級車である。運転席からは初老のドライバーが出てきて後部座席の扉を開いてくれる。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

 後部座席に乗るとドライバーは運転席に戻り発進する。

「ご学業お疲れ様です。今日はお早いお帰りだったのですね」
「ああ、まあ」
「先日はご連絡が中々ありませんでしたのでご案じ申し上げました」
「あの時はすみません。うっかりしてました」
「奥様がとても心配なさっておられましたよ」
「…………ですよね」

 ドライバーの佐久間さんは俺の家に仕えてくれている家系。幼い頃からお世話になっていて、主に俺の送迎をしてくれている。
 幼い頃は行きも帰りも車だったけれど、電車で通ってみたいという俺の希望で今は帰りのみ迎えに来てもらっていて、その際に一報連絡を入れることになっている。
 チョコの家に行くことはイレギュラーだったし、そもそもそれくらいのことを報告する義務なんて無い筈だ。メールが来てたのに気付かなかったし、返信も遅くなったのは悪かったかもしれないけれど。

「ジョー、少し寝てるので、着いたら起こして下さい」
「承知致しました」

 家に着くまではゆっくり……チョコのこと考えていよう

 心を落ち着かせて肩の力を抜き目を瞑る。そうすればすぐに思い浮かぶチョコの顔。
 いつも周囲に気を張っていて仏頂面。怒ってたり呆れ顔。でも最近は笑ってくれることが増えて、練習の時の潤みきった表情なんかとても可愛くて堪らない。

 働く姿のチョコかぁ……ウェイターならネクタイかリボンか……カフェエプロンもイイ……。チョコにサーブしてもらえるとかなんて贅沢なんだ。少し疲れ気味の表情でスーツを脱いでネクタイを緩めたベスト姿……それもイイ……どことなくアンニュイで。でもお医者さんプレイも捨て難い。女医さんって響きがいいよね、チョコが白衣にスカートにタイツ? なんだソレ凄くえっちだな。更に今どきあまり見ないスカートタイプのナース服と白いタイツなんか身に付けて「お注射しますよ」なんか言ってきた日には……

「いいなぁ……」
「有馬さん、最近とても楽しそうですね」
「学校は楽しいですよ。色んな人がいて」

 ーー大事な恋人がいて。
 ガラガラガラ
 キャスターが転がる音。扉が開く音だ。これが聞こえてきたということはもう敷地の前で、もう到着したということだ。

「有馬さん、起きておられますか? 到着致しましたよ」
「ありがとうございます」

 目を開けて車窓から外を眺める。高い木々に囲まれた坂を登って行くと、等間隔で整えられた人工芝と花壇が広がる庭。所々に街灯も建っていて公園のようにも見える。その先にあるガラス張りで白黒のシックな家が自宅だ。車は玄関の前で停まり、後部座席の扉が開かれて降りた。車が車庫へ向かうのを見送ってから自宅の扉を開いた。

「「お帰りなさいませ」」
「……ただいま」

 家政婦が脇に並んでお出迎え。これが本当に慣れず苦笑いをしてしまう。だからわざと連絡をしないで電車で帰ったりすると、この仰々しい光景は見ないで済むけれど、バタバタと集まってきて謝られた日には、こっちも悪いことをした気になってしまってちゃんと連絡を入れるようになった。

 全員でお出迎えなんてしなくてもいいんだけどな……なんだか悪いし

「有馬。お帰りなさい」
「ただいま」

 奥の部屋から母親が現れた。派手な服装に化粧、華美な装飾に彩られている。
 ごく自然に手を広げて待ち母親を抱きしめた。母親も俺の背中に腕を回して抱きしめてくる。これはただの挨拶ですぐに離れた。香水のニオイが鼻を掠めていく。この香水のニオイはあまり好きではない。

「今日はちゃんとお利口だったわね。先週は帰りが遅くて心配したのよ」
「はは、ごめん。うっかり忘れていたんだ」
「やっぱりボディガードでも付けないと駄目かしら?」
「そんな見張りはいらないよ。ちゃんとその日の内に帰ってきてるだろ?」
「そうだけど……」
「奥様。そろそろお時間でございます」

 家政婦がショールや鞄を持ち、別の家政婦が玄関の扉を開けて待っている。
 その家政婦たちには低い声で返事をして進んでいく。そして一度だけ振り向いて。

「これからも、旦那様の為に頑張ってね。愛してるわ」

 ウインクと投げキッスをして出ていった。母親ながら嵐のような人だ。
 普段からあの調子なのだが、今日は思わず溜息を吐いてしまう。

「……部屋で休んでるので、あとで何か温かい飲み物を持ってきてもらえますか? ……ココアとか」
「承知致しました」

 近くにいた家政婦に頼み、それから自室へ向かった。
 自室はシンプルだ。ベッド、勉強机とキャスター付の椅子が置かれているくらいである。外装がモノクロであるが内装もモノクロ。壁が黒、白、灰色でカーテンは緑色で統一されている。
 数十分後、頼んで置いたココアが運ばれてきた。家政婦にお礼を言って下がらせ、椅子に座って寛ぎながらココアを啜った。

「……美味しい」

 これといって好き嫌いは無い。出されたものを食べる。出されたものは全て美味しく調理されたものだからだ。このココアもとても香りが立っていて上品でまろやかな味がする。

「チョコが作ってくれたココアは温かかったな」

 チョコが作ってくれたココアは、少しダマになっていて粉っぽく薄味だった。味で言えば格段に今飲んでるものの方が美味しい。けれどチョコと飲んだココアには、味や香りでもなく特別感があった。きっと家庭的な味に飢えている。母親が手料理を作ってくれたことなんて記憶に無い。
 あの人が料理なんて想像出来ないな
 元々お嬢様育ちな母親だ。幼い頃も多分料理なんてしたことがないのではないか。

『旦那様の為に頑張ってね』

 実業家の父親。俺の将来は父親の跡継ぎだと散々あの母親に刷り込まれている。それが不服と思っているわけではないけれど、成り行きで仕方なく将来を決定されたくない。もっと自分で考えてやりたいことを探したい。やりたいことをやりたい。なのにそれが許されていない。

「進路か……進路って何なんだろうな」

 決められた将来がある。それは贅沢なことかもしれない。でも本当にやりたいことなのか。そう聞かれたら簡単には頷けないのが現状である。

 ブゥーー

 バイブにしておいたスマートフォンにメールの通知が届く。開いて見ると、そのメールは珍しくチョコからだった。

「チョコからメール!?」

『お前のせいで勉強が捗らない』

 即メールを開くとその一文のみだった。

「もっと詳しく教えて……と」

 そう送信すると、早くも返信がくる。その文面を見て瞠目する。

『お前が俺の部屋に来てエロいことしたから、それを思い出しちまって勉強にならねえんだよ。風呂入ってシャワー浴びたら余計思い出したし』

「~~~~っ!? So cute!! 」

 ぬうああああなんて可愛いんだチョコおおおお!! 思い出しちゃったの!? その後お風呂でシたってことなのか!? その辺も詳しく是非とも聞きたい!!

 悶えながらそんな内容のメールを送ったが、チョコからメールが返ってくることはなかった。

 ああもうチョコがメール……俺のことを思い出して……ふふふ、ああ早くチョコに会いたいなぁ

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