60 / 73
二章〈fireworks〉〜儚いひと夏の花〜
ニ
花火大会は毎年日曜日に行われる。夏休みの期間で大人から子供まで集まる。学生は受験勉強や夏期講習なんてものがあるが、ひと夏の一大イベントで息抜きをしようと考える人が多く、今年もきっと大賑わいになる。
俺はそれを毎年家のテレビ中継で観ている。
「はあ……たまには行ってみてぇよなぁ……」
毎年毎年、花火大会の中継を観ては同じことを呟いている。祭などの人が集まるイベントは参加出来ない。参加するとしても遠くから見ているくらいで近くへは行けない。だからイベントというものに憧れがある。
「今頃有馬たちはコレを近くで観てんのか」
有馬からアナスタシアと花火大会に行くことを聞いて、二重の意味で羨ましいと思った。一つは一緒にイベントに参加出来ること。もう一つは、二人がお似合いだと思ったこと。
悔しいが二人とも美形で、花火大会なんて夏のデートにぴったりだ。傍から見れば正に美男美女カップル。対して俺たちは男同士。二人並んだところでムサイだけ。
男二人で出掛けることなんてありふれたことで違和感があるわけじゃないが、俺たちは一応恋人同士の気持ちでいるわけだ。もしも行けたとしても、定番デートなのに大して見て回れず楽しくない思いをさせそうだなと、自分が一緒に行ったところで不安に駆られてデートが台無しになりそうな気しかしない。どんなに妄想していても、結局この身体では行けそうにない無駄な足掻きだ。
「拓もちっちゃい時に一回だけ行ったことがあるのよ、花火大会」
今日は仕事が休みのお袋は、夕飯の食器を洗いながらテレビの音だけ聞いている。
「全然覚えてねぇ」
「そうよね……まだ二歳とか三歳だったから」
食器洗いが終わったお袋は隣のテーブル席に腰掛けた。薄っすらとできたクマが疲労を思わせる。肌はくすんでいて小シワも目立つ。四十前半だが五十代と言われてもおかしくはない。
「そんな身体に産んでごめんなさいね」
「謝ることじゃねぇよ。生まれつきってわけでもねぇし」
二人共張りの無い声で、ぽつりぽつりと呟いた。
「早く……治るといいんだけれど。そしたらこういうお祭りにも、もっと連れてってあげられるのに……。まだ身体の方は、その……悪いままなんでしょ?」
「そうだな……」
有馬との練習でかなりましにはなった。とはいえ大勢の前に出られる程の身体ではない。
「……いつか……、いつか治ったら、たくさん遊んでいいんだからね。その日の為に、お母さん頑張るから」
「…………無理、すんなよな」
「自分の為でもあるのよ。だから大丈夫。拓も無理はしないで、自分のことを考えて。進路のこととかね」
「ああ、わかった」
俺が幼い頃に親父が家を出ていった。それ以来お袋が一人で俺を育ててくれた。
高校生になって俺もアルバイトをして稼ごうと考えたが、身体のことがあって中々条件の良いアルバイトが見つからず、お袋には経済的に困ってるわけではないからという理由でやんわりと止められた。
お袋の疲労は身体的というよりも精神的なように思える。離婚したことや、子供の身体を気遣う毎日に疲れているんだと思う。仕事も順調なのかはわからない。
進路、か……俺には一体何が出来るんだろうな
花火大会のテレビ中継はまだ続いているが、観るのを止めて自室へ戻り、ベッドに仰向けで寝転がり目を瞑った。
去年までは憧れがあるものの体質のせいで諦めがついていた。しかし今年は去年までとは違う。恋人が出来た。そして体質も少しはマシになった。だからもしかしたら行けるかもしれないという期待があった。行きたいと強い想いが芽生えていた。けれどそう簡単にはいかない。今の身体では無謀で、それがとても悔しい。
ピロリン
「なんだ?」
通知音が鳴ってメールボックスの画面を開くが定期的に届くDMだった。今の虚しい気持ちをぶつけるみたく、画面を閉じて叩きつけるようにして置きベッドに八つ当たりをした。
「あー……こんな浮かれてられんのも今のうちだよな。夏休み……どうすっかな」
お袋に言われたからではなく、前から進路で悩んでいた。前に就職すると伝えた。けれど本当にそれで良いのか未だに決着がついていない。
ピロリン。ピロリン。ピロリン
「っんだよ、うるせぇな!」
続く通知音が煩わしくて切ろうとすると、有馬からのメールで動揺してしまう。
「はっ、え、な、なんでだ? まだ花火やってるよな? 終わった……のか?」
メールを開いてみると画像が添付されていた。
『キレイだよ』
簡潔な本文。画像をダウンロードしてみたら花火の写真と有馬、アナスタシアの写真だった。別のメールには動画が添付されている。動画は花火の映像に有馬とアナスタシアの声が入っていた。他にも周りの人の声や花火の打ち上げられる音が聞こえてくる。
『チョコにお裾わけだよ。暗いから見えにくいかもしれないけど楽しんでもらえたらいいな』
『こんな綺麗なのに一緒に来られなくて残念。拓ちゃん、今度暇が出来たら遊びに行きましょう』
動画の再生が終わる。数秒の動画だったが、不覚にも目頭が熱くなってくる。見飽きたテレビ中継の花火と比べると粗くて見えづらかったが、二人の言葉や気持ちが嬉しくて心が打たれた。
「っ……あー……くそっ……」
初めて会った時や有馬に紹介された時も悪い態度をとったのに、アナスタシアは友好的に接してくれる。邪険にしていた自分が恥ずかしい。
「身体早く治らねぇかな……」
有馬やアナスタシア、母親、誰かと一緒に出掛ける為に。自分の将来の為に。俺は強く願った。
願うだけじゃ叶わねぇよな……!
思い立ったらすぐに携帯電話を握りしめてメールの画面を開いて本文を打ち出した。
メールを打ち終わって送信ボタンを押すと、緊張していた肩から力がすっと抜けていった。結構な時間考え倦ねいていたらしい。本文を打ち始めてから二時間は経っている。
「あー考え過ぎて頭痛ぇ……風呂でも入ったらサッパリすっかな」
プルルルルッ
「ッッ!」
気を抜いた途端に着信音が鳴り、驚いて身体が反射的に跳ねた。
「で、電話!?」
恐る恐る画面を見ると有馬からだった。メールを送った相手と違って少しホッとして通話ボタンを押して耳に押し当てる。
「……なんだよ」
『やあやあ。今大丈夫かな?』
「俺は大丈夫だけど、お前こそ大丈夫なのかよ。花火大会は?」
『終わったよ。家に着いたから電話したんだ。チョコの声が聞きたくてね』
「……そうかよ」
電話越しでもわかる嬉しそうな声に素っ気なく返す。本当は自分だって嬉しい。
『やっぱり人が多くて動くのも大変だったよ』
「動画にも周りの人の声混じってたしな」
『あれでも少し離れて撮ったんだよ』
それだけ人が多くいたということだろう。テレビ中継で見ていても人が多いのはわかった。
「学校のヤツとかいたか?」
『いや、会わなかったな』
「まあいたとしても、そんだけ人がいたら気づかないか」
『そうそう。見慣れたヤツらでもあれだけ人がいたら気づかないもんさ』
見かけたとしても、アナスタシアと一緒にいる有馬に声を掛けるとは考えにくい。
「アナスタシアは今いるのか?」
『いないよ。ゲストハウスに泊まってるから。何かアーシャに用事あった?』
「別に何もねぇけど」
『チョコまでアーシャのことが気になってるなんて困るよ。アーシャもチョコを気にしてるみたいなんだ』
「はあ、そうなのか」
『花火一緒に見たかったーとか、俺とチョコの出逢いはどうだったのとか、なんでチョコって呼んでるのかとかね。俺の知らないところで二人が仲良くなっていたら妬いてしまうよ』
俺のことが気になっているというより、有馬に関連しているから知りたがってるように聞こえる。知らないところで仲良くなんて有り得ない。それなら有馬の方こそ可能性がある。
あれ? 仲良くしてると妬く? それって……俺は妬いてたってことなのか?
学校帰りにアナスタシアと会っていたことや、花火大会に二人きりで行ったこと。従姉弟同士だと知る前も後も、気持ちはモヤモヤとしていた。この気持ちは嫉妬だったのか。
『そこで提案なんだけど、今度ウチに来て一緒に花火をやろうよ。それならアーシャも喜ぶし、俺もチョコと花火が見たいしね』
「……いいのか?」
『いいとも。花火大会みたいな派手な打ち上げ花火は出来ないけどね』
「そうか……わかった。じゃあその日になったら花火買ってくわ」
『うん。アーシャにも伝えておくから、空いてる日がわかったらまた連絡するな』
「おう」
『おやすみ、チョコ』
「あ、おう……おやすみ」
数秒空けて通話を切る。有馬の声が名残惜しい。まだ話したい気持ちはあった。話しておきたいこともあった。けれど話題を広げたり振ったりするのは苦手だ。
花火の約束は嬉しかった。家族以外とする花火は初めてで、そういった遊びは何年振りだろうか。
有馬と関わってから様々な感情が湧いてくる。寂しい。嬉しい。そして、好きだと想うことも。
俺はそれを毎年家のテレビ中継で観ている。
「はあ……たまには行ってみてぇよなぁ……」
毎年毎年、花火大会の中継を観ては同じことを呟いている。祭などの人が集まるイベントは参加出来ない。参加するとしても遠くから見ているくらいで近くへは行けない。だからイベントというものに憧れがある。
「今頃有馬たちはコレを近くで観てんのか」
有馬からアナスタシアと花火大会に行くことを聞いて、二重の意味で羨ましいと思った。一つは一緒にイベントに参加出来ること。もう一つは、二人がお似合いだと思ったこと。
悔しいが二人とも美形で、花火大会なんて夏のデートにぴったりだ。傍から見れば正に美男美女カップル。対して俺たちは男同士。二人並んだところでムサイだけ。
男二人で出掛けることなんてありふれたことで違和感があるわけじゃないが、俺たちは一応恋人同士の気持ちでいるわけだ。もしも行けたとしても、定番デートなのに大して見て回れず楽しくない思いをさせそうだなと、自分が一緒に行ったところで不安に駆られてデートが台無しになりそうな気しかしない。どんなに妄想していても、結局この身体では行けそうにない無駄な足掻きだ。
「拓もちっちゃい時に一回だけ行ったことがあるのよ、花火大会」
今日は仕事が休みのお袋は、夕飯の食器を洗いながらテレビの音だけ聞いている。
「全然覚えてねぇ」
「そうよね……まだ二歳とか三歳だったから」
食器洗いが終わったお袋は隣のテーブル席に腰掛けた。薄っすらとできたクマが疲労を思わせる。肌はくすんでいて小シワも目立つ。四十前半だが五十代と言われてもおかしくはない。
「そんな身体に産んでごめんなさいね」
「謝ることじゃねぇよ。生まれつきってわけでもねぇし」
二人共張りの無い声で、ぽつりぽつりと呟いた。
「早く……治るといいんだけれど。そしたらこういうお祭りにも、もっと連れてってあげられるのに……。まだ身体の方は、その……悪いままなんでしょ?」
「そうだな……」
有馬との練習でかなりましにはなった。とはいえ大勢の前に出られる程の身体ではない。
「……いつか……、いつか治ったら、たくさん遊んでいいんだからね。その日の為に、お母さん頑張るから」
「…………無理、すんなよな」
「自分の為でもあるのよ。だから大丈夫。拓も無理はしないで、自分のことを考えて。進路のこととかね」
「ああ、わかった」
俺が幼い頃に親父が家を出ていった。それ以来お袋が一人で俺を育ててくれた。
高校生になって俺もアルバイトをして稼ごうと考えたが、身体のことがあって中々条件の良いアルバイトが見つからず、お袋には経済的に困ってるわけではないからという理由でやんわりと止められた。
お袋の疲労は身体的というよりも精神的なように思える。離婚したことや、子供の身体を気遣う毎日に疲れているんだと思う。仕事も順調なのかはわからない。
進路、か……俺には一体何が出来るんだろうな
花火大会のテレビ中継はまだ続いているが、観るのを止めて自室へ戻り、ベッドに仰向けで寝転がり目を瞑った。
去年までは憧れがあるものの体質のせいで諦めがついていた。しかし今年は去年までとは違う。恋人が出来た。そして体質も少しはマシになった。だからもしかしたら行けるかもしれないという期待があった。行きたいと強い想いが芽生えていた。けれどそう簡単にはいかない。今の身体では無謀で、それがとても悔しい。
ピロリン
「なんだ?」
通知音が鳴ってメールボックスの画面を開くが定期的に届くDMだった。今の虚しい気持ちをぶつけるみたく、画面を閉じて叩きつけるようにして置きベッドに八つ当たりをした。
「あー……こんな浮かれてられんのも今のうちだよな。夏休み……どうすっかな」
お袋に言われたからではなく、前から進路で悩んでいた。前に就職すると伝えた。けれど本当にそれで良いのか未だに決着がついていない。
ピロリン。ピロリン。ピロリン
「っんだよ、うるせぇな!」
続く通知音が煩わしくて切ろうとすると、有馬からのメールで動揺してしまう。
「はっ、え、な、なんでだ? まだ花火やってるよな? 終わった……のか?」
メールを開いてみると画像が添付されていた。
『キレイだよ』
簡潔な本文。画像をダウンロードしてみたら花火の写真と有馬、アナスタシアの写真だった。別のメールには動画が添付されている。動画は花火の映像に有馬とアナスタシアの声が入っていた。他にも周りの人の声や花火の打ち上げられる音が聞こえてくる。
『チョコにお裾わけだよ。暗いから見えにくいかもしれないけど楽しんでもらえたらいいな』
『こんな綺麗なのに一緒に来られなくて残念。拓ちゃん、今度暇が出来たら遊びに行きましょう』
動画の再生が終わる。数秒の動画だったが、不覚にも目頭が熱くなってくる。見飽きたテレビ中継の花火と比べると粗くて見えづらかったが、二人の言葉や気持ちが嬉しくて心が打たれた。
「っ……あー……くそっ……」
初めて会った時や有馬に紹介された時も悪い態度をとったのに、アナスタシアは友好的に接してくれる。邪険にしていた自分が恥ずかしい。
「身体早く治らねぇかな……」
有馬やアナスタシア、母親、誰かと一緒に出掛ける為に。自分の将来の為に。俺は強く願った。
願うだけじゃ叶わねぇよな……!
思い立ったらすぐに携帯電話を握りしめてメールの画面を開いて本文を打ち出した。
メールを打ち終わって送信ボタンを押すと、緊張していた肩から力がすっと抜けていった。結構な時間考え倦ねいていたらしい。本文を打ち始めてから二時間は経っている。
「あー考え過ぎて頭痛ぇ……風呂でも入ったらサッパリすっかな」
プルルルルッ
「ッッ!」
気を抜いた途端に着信音が鳴り、驚いて身体が反射的に跳ねた。
「で、電話!?」
恐る恐る画面を見ると有馬からだった。メールを送った相手と違って少しホッとして通話ボタンを押して耳に押し当てる。
「……なんだよ」
『やあやあ。今大丈夫かな?』
「俺は大丈夫だけど、お前こそ大丈夫なのかよ。花火大会は?」
『終わったよ。家に着いたから電話したんだ。チョコの声が聞きたくてね』
「……そうかよ」
電話越しでもわかる嬉しそうな声に素っ気なく返す。本当は自分だって嬉しい。
『やっぱり人が多くて動くのも大変だったよ』
「動画にも周りの人の声混じってたしな」
『あれでも少し離れて撮ったんだよ』
それだけ人が多くいたということだろう。テレビ中継で見ていても人が多いのはわかった。
「学校のヤツとかいたか?」
『いや、会わなかったな』
「まあいたとしても、そんだけ人がいたら気づかないか」
『そうそう。見慣れたヤツらでもあれだけ人がいたら気づかないもんさ』
見かけたとしても、アナスタシアと一緒にいる有馬に声を掛けるとは考えにくい。
「アナスタシアは今いるのか?」
『いないよ。ゲストハウスに泊まってるから。何かアーシャに用事あった?』
「別に何もねぇけど」
『チョコまでアーシャのことが気になってるなんて困るよ。アーシャもチョコを気にしてるみたいなんだ』
「はあ、そうなのか」
『花火一緒に見たかったーとか、俺とチョコの出逢いはどうだったのとか、なんでチョコって呼んでるのかとかね。俺の知らないところで二人が仲良くなっていたら妬いてしまうよ』
俺のことが気になっているというより、有馬に関連しているから知りたがってるように聞こえる。知らないところで仲良くなんて有り得ない。それなら有馬の方こそ可能性がある。
あれ? 仲良くしてると妬く? それって……俺は妬いてたってことなのか?
学校帰りにアナスタシアと会っていたことや、花火大会に二人きりで行ったこと。従姉弟同士だと知る前も後も、気持ちはモヤモヤとしていた。この気持ちは嫉妬だったのか。
『そこで提案なんだけど、今度ウチに来て一緒に花火をやろうよ。それならアーシャも喜ぶし、俺もチョコと花火が見たいしね』
「……いいのか?」
『いいとも。花火大会みたいな派手な打ち上げ花火は出来ないけどね』
「そうか……わかった。じゃあその日になったら花火買ってくわ」
『うん。アーシャにも伝えておくから、空いてる日がわかったらまた連絡するな』
「おう」
『おやすみ、チョコ』
「あ、おう……おやすみ」
数秒空けて通話を切る。有馬の声が名残惜しい。まだ話したい気持ちはあった。話しておきたいこともあった。けれど話題を広げたり振ったりするのは苦手だ。
花火の約束は嬉しかった。家族以外とする花火は初めてで、そういった遊びは何年振りだろうか。
有馬と関わってから様々な感情が湧いてくる。寂しい。嬉しい。そして、好きだと想うことも。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった
くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。
血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。
夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。
「……涼介くん」
薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。
逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。
夜、来て。
その一言が——涼介の、全部を壊した。
甘くて、苦しくて、止まれない。
これは、ある夏の、秘密の話。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話